第十九話 かわりゆくもの 5
長々とすみませんでした
かわりゆくものラストです
「…そう、か…」
第27小隊と合同活動するようになってから度々感じていた、引っ掛かりの正体に気付いて、わたしは自分への失望のあまり膝を折った。
「ドウカシマシタカ、a?」
「ドコカ怪我デモシマシタカ?」
「体調ガ、悪イノデスカ?」
場所は第3訓練場。訓練後ですでに解散済みとは言え、唐突に土くれの地に膝を突いたわたしへと、心配したように数体の機械人形が駆け寄って来る。わたしを取り囲んだのは、全員第18小隊の隊員だ。
「ああごめん。大丈夫だ。疲れてるのかな?石が虫に見えてさ。こんな所で無事な虫がいるのかと驚いて、よく見ようとしたんだ。石だったけど」
苦笑して立ち上がると、わたしを囲んでいたのは機械人形たちのほっとした顔と心配を深めた顔が半々だった。
「ギム博士ニ、疲労回復薬ヲ貰ッテ来マス」
「いや。大丈夫だから。んなもんなくても一晩寝たら回復するって」
今にも走り出さんとしたφの腕を掴み、首を振る。
自分を囲む機械たちの顔を見回して、笑みを作る。
「心配かけてごめん。ありがとな」
「イエ」
「ドウイタシマシテ」
「大事ナイノナラ何ヨリデス」
「無理シナイデ下サイネ」
口ぐちにわたしを労わる機械人形たちの顔には、微かに心配を覗かせた笑顔。
そう、笑顔。
つまり、そう言うこと。
いつの間にかわたしの周りの機械人形たちが、人間みたいな表情や受け答えをするようになっていて、わたしも知らぬ間にそんな状況に慣れていた。
そんな中で、いかにも機械らしい無表情に、杓子定規な受け答えをする第27小隊の機械人形と関わったから、その違いに違和感を覚えて引っ掛かってたんだ。
機械らしい機械に違和感を覚え、ひとへの擬態が上手くなった機械に安堵するなんて、なんて、滑稽な…。
『機械人形も恋をすると信じようか』
たこ技師の言葉が蘇って、顔をしかめる。
機械人形に、たましいが宿る?そんな夢物語、あって堪るか。
そう、思ってたはず。思ってるはず。
「a?本当ニ具合ガ悪イノデハ?」
心配の気持ちをありありと浮かべて、φがわたしの背中に触れた。
少しの異変も見逃したくないとでも言いたげに、間近で顔を覗き込んで来る。
その姿が、なぜかフクロウと被った。
「…うん。疲れた。今日は、早く寝るよ」
「ソウシテ下サイ」
φはこんな風に、わたしの体調に気を配るようなヤツだったか?
機械人形たちはこんなに微妙な表情まで、浮かべるようなヤツらだったか?
わたしは、機械人形と打ち解けて慣れ合うような、人間だったか?
ひとは、変わりゆく。
機械は、変わらない。
その、はずなのに。
わたしは、変わった。それは、変わらないはずの機械が、変わったから?
「?a?ドウシマシタ?」
わたしの手は知らぬ間に、φの腕を掴んでいたらしい。
何かに恐怖した幼子が、母の腕に縋るみたいに。
温かく、柔らかい腕。機械の声。たましいがあるんじゃないかと期待させるほどに、ひとに似た人形。
機械は、たましいを、持ち得る?
「…ヤッパリ、ギム博士ニ診テ貰イマショウ」
掴んだ腕がわたしの腰に回り、危なげなくわたしを抱き上げた。
「ちょ、φ、だいじょぶだって…」
「何カアッテハ、困リマスカラ」
φに対する人命優先命令は、消えたはず。
機械人形にとって上官の命令は、絶対のはず。
なのにこうして、φがわたしの言うことに逆らえるのは、なんでだ?
機械は与えられた仕事しか出来ない。
ミミズクの指導も、それを理解した上でやっている。
なのにいつからわたしは、φたちの機械人形を逸脱した行為を容認していた?
最初は違和感を覚えた。
たこ技師に散々文句を言った。
だってのに、いつの間に慣れて、気にならなくなった?
知らぬ間に変わりゆき、気付いても戻れないものの存在に恐怖して、わたしは抵抗も忘れ、φの首に縋り付いた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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