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第十八話 かわりゆくもの 4

 

 

 

 呼ばれて反射的に振り向くと、φ(ファイ)がわたしの方を指差して口を開く。

 

 「呼バレテイマスヨ」

 

 φが示す先を見れば通信機がメッセージの着信を告げていた。

 たこ技師か?

 

 「…ぅあ゛」

 

 メッセージの送り手を確認して、思わず呻く。

 

 「…オ呼ビデスカ?」

 「…ああ。すぐ来なさい、だとさ。なんであいつ、わたしの予定を把握してんだよ…」

 

 反応で察したらしいφの言葉に、片手で頭を抱えつつ頷く。

 どっかの狂人からの、召集令状だった。

 

 『そろそろ訓練も終わった頃でしょう。用事があるので今すぐ来てください』

 

 断るなんて思ってもいないような要求。

 なんの用事か知らないが、無視したい。全っ力で、思いっきり、見なかったことにしたい。

 

 俯くわたしの頭に、φの言葉が降って来る。労わりと憐憫がにじんでいる気がするのは、わたしの心理状況のせいだろうか。

 

 「ゴ執心デスネ」

 「単なる嫌がらせだろ。つか、オマエどこでそんな言葉覚えたんだよ?」

 「ギム博士ガ言ッテイマシタ」

 「あのたこ…!!」

 

 面白がりやがって…!

 

 「(アト)?」

 

 俯いたまま、現実逃避気味にたこ技師へ怒りをぶつけるわたしの顔を、φが覗き込む。

 

 「逃ゲラレルト、思イマスカ?」

 

 …思イマセン。

 

 いつの間にか、良くお気付きでいらっしゃりやがるこのヤロウ…!

 

 深々と溜め息を吐き、がしがしと髪を掻き混ぜながら、唸る様に呟いた。

 

 「行って、来るよ…」

 「オ気ヲ付ケテ」

 

 ちょ、その送り出し方はなんだよ!?まるで、死地にでも向かうみたいじゃ…いや、死地か…。

 少なくとも、天敵の自陣に丸腰でのこのこ入り込むんだから、気を付けなきゃ駄目だ。

 

 もともと櫛なんか通してない髪を、さらにぐしゃぐしゃにして顔を上げる。

 

 状況を飲み込めてない様子のミミズクに、苦笑を向けた。

 

 「ごめん、用事が入ったからまたあとで。そうだな。わたしは人間だから、間違ったことも言うし、やる。間違ってると判断したなら指摘してくれて良いし、アンタはアンタが正しいと判断したことをやれば良い。自分で判断出来ないなら、わたし以外の信頼出来る相手、たこ…じゃなくて…、」

 「ギム博士」

 「そうそれ。とか、上官とかな。他の技師でも、アンタらを開発した奴らでも良い。そう言う、まともそうな人間に、訊いてみたら良いよ。出来ないことをやれなんて、機械相手に言えないからな。わたしとしても、意見の押し付けは好きじゃないんだ」

 

 手櫛で申し訳程度に髪を撫で付けて、ミミズクを見上げる。

 

 「何度も言ってるけど、アンタはアンタのやり方で良い。合同活動だって、どうせそう長い期間でもないだろ。喧嘩しても仕方ない。ただ…ああそうか、こう言えば良いかな。味方の不調は作戦の失敗に繋がる、作戦の成功確率を高めるためにわたしは出来る限り不備を失くす努力をしているけど、そんな細かく不調をチェックしなくても作戦の遂行に影響がないなら、不要と判断して構わない。どう?」

 「ソレナラ、理解出来マス」

 「なら良かった。じゃ、わたしは行くから。また明日」

 

 ミミズクの肩を叩いて、歩き去る。ああ行きたくない。

 

 歩き去るわたしの後ろを、たこ技師の名前に関して二度も絶妙なフォローを入れたφが追って来た。

 

 「a」

 「どうかしたか?」

 

 行きたくはないけどあの研究狂いを待たせるとうるさいから、足早で歩きながらφを見上げる。機械人形はドイツもコイツもでかいから、顔を見るのが面倒だ。

 φはにこりと微笑んで、わたしを見下ろした。

 

 「イツモアリガトウゴザイマス」

 「は?」

 

 唐突な謝辞に思考は止まっても、足は止まらない。並行行動がなんちゃらとか、確か狂人から説明された気がする。良くわかんなかったけど、つまりいくつかの異なった行動を同時に展開出来る、と言うことらしい。走りながら片手で狙撃しつつ片手で別の銃の弾込め、とかな。

 

 ぽかんとしたわたしに笑みを深めて、φは言葉を継いだ。

 

 「ギム博士ガ、言ッテイマシタ。新生シテカラ第18小隊ヲ脱落スル者ガイナイノハ、勿論隊員ノ質モアルケレド、a、アナタノ細ヤカナ気配リヤ危機察知能力、状況判断能力ノオ陰モ大キイト。デスカラ、感謝シテイルノデス。アナタニハ。私ハ、モット生キタイカラ」

 「生き、たい?機械人形の、オマエがか?」

 「エエ。私ハモット、ズット…」

 

 言葉の続きを聞くことは、出来なかった。

 わたしもφも、足を止める。

 

 特別研究区域。一般兵以下の兵は、許可なく立ち入れない空間だ。

 わたしの赤毛を見留めた番兵が、扉を開けて早く入れと急かして来る。

 

 「…ココマデ、デスネ。行ッテラッシャイ、a」

 「…ああ」

 

 見送るφの表情が気になって、でも、振り向いた時には扉が閉じてしまっていた。

 

 「あの方が、お待ちですから」

 

 機械みたいに無表情な番兵が、そう言って背中を押して来る。

 

 「ああ」

 

 急かされるまま歩み出したわたしはそれきりφの言葉を忘れ、とあるきっかけで思い出すことになる。

 

 ひとは忘れるいきもので、そうして手から零れた記憶は、ときに取り落としてはならない重要なものだったりする。そのことを思い知るのは、大抵の場合取り返しが付かなくなってからだ。

 




拙いお話をお読み頂きありがとうございます


アクセスが皆無じゃないことが

すごく励みになっています

もとはわたしの中にしかなかったものを

共有して下さる方がいるってすごいことだと思います


まだ日刊出来そうです(`・ω・´)o やったね!

続きもお読み頂けると嬉しいです

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