第十六話 かわりゆくもの 2
そしてとうとう、第27小隊と合同で活動する日々が始まった。作戦中だけじゃなく、訓練やそれ以外の所でも合同で活動しろと言うのだから、うんざりする。
「…第18小隊指揮官、aだ。よろしく」
「第27小隊指揮官、GN-003329番デス」
合同活動初日。訓練前に基地のミーティングルームで指揮官同士顔を合わせて、お互い笑顔もなく形ばかりの挨拶をする。
特におかしな所もないやりとりなのに、何かがこころに引っ掛かった。
ちゃちなパイプ椅子に腰掛けた、最新型の機械人形をまじまじと観察する。
けれど引っ掛かるものの明確な形は掴めなくて、ただ明らかな自分たちの小隊との違いを拾い上げた。
「他の隊員は、GM-5番台だよな。てことはアンタを除けば全員同じ型か?」
「ハイ」
第18小隊の隊員に個体識別番号を持つ兵はいない。
それが第18小隊の機械人形を作り上げたどっかの狂人の、拘りだったからだ。極めて特異な、あいつが狂人と呼ばれる所以のひとつ。
と言ってもそんな風に個体識別番号を使わない研究者なんて他にいないと言うことは、フクロウとの会話で聞いて初めて知ったけど。
「ふぅん。で、アンタは新世代機だけど、他の隊員と研究チームは一緒?」
「ハイ」
交わしているのは、普通の会話のはず。
なのにやっぱりどこか、引っ掛かりを覚える。何に?
正体のわからないざわつきを覚えながら、わたしは小さく息を吐いて頷いた。
「そうか。アンタ、指揮官はしたことないだけで、普通の機械兵としての実戦は既に経験済みだったよな?」
「ハイ」
「じゃあ、全員戦闘に関しては問題ないんだな。で、わたしはアンタが指揮官に慣れるまでの補佐をすれば良い、と。まあ、指揮官のやり方なんてひとそれぞれだし、最低限こなせてれば無理にわたしのやり方に合わせる必要もないだろ。指揮官として必要なデータはもう入れられてるんだよな?」
普通の戦闘用殺戮機械人形に入れられるデータに加えて、指揮官にされたコイツには指揮官用のマニュアルやら必要なデータやらが入れられているはずだ。人間の兵なら時間を掛けて自分で学ぶ部分を、機械人形はデータのインストールだけで済ませられるんだから、皮肉なもんだ。データに関してはわたしのような一部の機械化奴隷にも、インストール出来る奴がいるけど。
わたしの問いに新型機械人形が頷く。
「ハイ」
「じゃあ、アンタはその通りに動けば良いよ。間違いだとか効率悪いやり方だとか気付いたら教える。アンタの方で疑問でも出たらその都度訊けば良い。指揮官っつっても基本は上の命令をこなすだけだからな。難しい知識は必要ない」
「ハイ」
無意識に小さな溜め息を落としながら、わたしは頷きを返した。わからないけど、なんでか居心地が悪かった。
「うん。えっと、じゃあ、今日は訓練だから。始業までに第3訓練場に隊員集めてくれ。えっと、GN-003329番…言い難いな。ミミズクって呼んで良いか?」
「ナゼ言イ換エル必要ガアルノデスカ?」
「急いでるときに、短い名前の方が早く言えるだろ。雑兵ならともかく、合同で活動する隊の指揮官の名前で手間取るなんて馬鹿らしいじゃないか」
「ワカリマシタ。デハ、隊員ニモ伝エテオキマス」
「ああ、頼む。じゃあな」
GN-003329番の肩を叩いて立ち去る。居心地の悪い空間から出られることに、ほっと息を吐きながら。
土が均されただけの訓練場には既に第18小隊の機械人形たちが待ち構えていて、わたしが入るなり一斉に視線を向けてきた。第3訓練場はただ広いだけの訓練場だ。特殊な設備も何もない、土くれ剥き出しの平面。踏み荒らされ時には火炎や銃撃さえ浴びせられる固い地面には、雑草の一本すら生えていない。
「a、オハヨウゴザイマス」
「ああ、おはよう。今日は天気が良いな」
「ソウデスネ。気温モ高イヨウデス。オーバーヒートに注意シテクダサイ」
「オマエらもな」
近付いてきたφと会話しながら、待っていた隊員たちの輪に混じる。
「オハヨウゴザイマス」
「おはよう」
口々の挨拶に答えて、隊員たちを見渡す。
「前に伝えた通り、今日から暫く第27小隊と合同活動することになる。ないと思うけど何か問題や、気になることがあった場合はわたしに言え。ああそう、それと、あちらの指揮官のGN-003329番だけど、名前が長くて面倒だからわたしはミミズクと呼ぶ。混乱しないように」
「「「ハイ」」」
声を揃えての返事に、ミミズク相手に覚えたような引っ掛かりは感じない。
首を傾げて、言葉を続ける。
「もう少ししたら来るはずだから、それまでは自由にしてて良い。合同で動くと言うだけで指揮系統に大した変化はないからそう問題もないだろ。現時点で質問があれば聞くけど、何かあるか」
疑問を投げる奴はいなかった。頷いて輪から抜ける。
第27小隊は指揮官含めて32体の機械人形で構成されている。うちの隊も合わせれば総勢60名。その中で、人間はひとりきり。世界に自分しか人間がいなくなった気分にでも浸ってみようか。
機械化され過ぎた身体には必要のないアップをこなしながら、馬鹿げた考えに顔だけで笑う。
この国で働き蜂みたいに使い潰されている人間は奴隷だけで、わたしたちが守るその奥では、億を超える人数が大事に守られているんだから。
最近孤児出身の奴隷がほとんど入って来なくなった。きっと街からは浮浪児や浮浪者が消えて、とても治安の良い世界になっているはずだ。
「…ト、a、a?」
考え込んでいたせいで、声を掛けられたことに気付かなかった。肩を叩かれて、びくっと顔を上げる。
ぺたりと地面に座って開脚しているわたしの前に、φが立っていた。
「ファ、イ?どうかしたか?」
「驚カセテ済ミマセン。今日ハ暑イノデ訓練前二水分補給ヲシテオイタ方ガ良イト思ッタノデ、コレヲ」
屈んだφが差し出したのは冷却液と補給飲料で、見れば思い出したように喉の渇きを覚えた。遮るもののない炎天下。晴天からさんさんと降り注ぐ日差しは、熱い。
座ったまま手を伸ばして、素直に受け取った。
「ありがとう。確かに気温が高い。他のヤツらにも冷却液の補給を促した方が良いな」
冷却液は重力低減装置に並んで近年の偉大な発明に数えられる発明だ。これのおかげで機械部のオーバーヒートを防げるし、防御装置だけでは防ぎきれない火器の熱にも耐えられる。しかもまだ実地試験段階なので、わたしみたいな末端の奴隷が湯水のように使っても怒られない。むしろデータが取れてありがたいと褒められる。なら、ありがたく使わない手はないと言う話だ。
補給飲料は温かったが、乾いたのどに水分が沁みた。
小さく息を吐いて、立ち上がる。すでにわたしの意向が伝わり、隊の面々は冷却液の補給を行っている。機械人形は塩分を必要としないから、補給するのは冷却液と基部熱放出のための循環液だ。補給飲料は、わたしのためだけに用意されたもの。
「第27小隊分の冷却液も用意しておくか…」
ミミズクの性能は知らないが、他の隊員はうちの機械人形と同程度の性能のはずだ。オーバーヒート対策をしておいて損はない。
「手伝イマス」
「32名デシタネ」
わたしの呟きを拾ったφと数名の機械人形が、立ち上がったわたしに追随した。
ふむ。取り敢えず悪感情や忌避はないようで重畳。
ま、機械人形に好き嫌いも何もないけれど。
問題なく、とっととこの面倒な期間が終われば良い。
一番第27小隊を嫌がっているのはわたしかと苦笑して、わたしはカレらの到着を待った。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
もう暫く、「かわりゆくもの ○」なタイトルが続きます
一話でまとめられると思ったのに
いったい何話続けるのか…
続きも読んで頂けると嬉しいです




