第十五話 かわりゆくもの 1
1とか付いていますが
切り悪く終わってはいませんので
安心してお読みください
ひとは、忘れるいきものだと言う。
身を裂くようなかなしみも、燃え尽きるような怒りも、空さえ飛べるような喜びも、胸にしこる違和感も、日々を過ごすうちにいつしか忘れ去り、風化させてしまう。けれどそうして一度こころに刻まれた経験や感情は、忘れても確かにこころのかたちを変えていて、だからひとは日々、変わりゆく。
対して、機械は忘れぬものだ。
一度インプットされたことがらは誰かの手で消去されない限り残り続け、忘れられることはない。けれどそうして残り続けた情報も、誰かの手で消去されれば白紙に戻り、そんな情報なかったかのように動き出す。こころない機械人形に、傷を刻むこころはないから。だから機械人形は、変わらない。
その、はずなのに。
第27小隊の指揮官が死んだ。次の指揮官はなんと機械人形にするそうだ。とうとう指揮官に使える人間がいなくなったか、現場に人間の指揮官など不要と判断されたか。
指揮官に使われる機械人形は第18小隊の機械人形たちの次世代機だと言う話だから、単に性能のお陰かもしれないけど。
第27小隊が誰に指揮されてようが、わたしには関係ない、はずだったってのに。
「…不満そうだね。何かあったのかい?」
「うるさい」
メンテナンスルームで顔を合わせたたこ技師に問われて、わたしはぶすっとしたまま手に持っていた封筒を投げ渡した。
メンテナンス前に受けた通達のせいで、わたしの気分は極悪だ。
「ダウンロード用資料…?」
投げられた封筒を落としかけつつ受け取り、何を渡されたのかと見下ろしたたこ技師が、中身を確認して頷いた。
「ああ、27小隊ね。aに決まったのか…あぁ」
最後のあぁはわたしの機嫌を悪くした理由を悟ってだろう。
いきなり機械人形指揮官単独にするのは流石に不安になったらしい上が、暫くは他の小隊と組ませて様子を見ることにしたのだ。そしてよりによって、組ませる小隊に第18小隊を選びやがった。ふざけんな。
困ったように眉尻を下げたたこ技師が、取り成すように言う。
「第27小隊はそこまで大きい小隊でもないし、新機種はわからないがもともとの隊員の質は高いよ。私がメンテナンスしてるから、くせとかも教えられるし」
「メンテナンス技師が同じだから選ばれたとかだったらしばく」
あり得そうな例を取り上げて、あんたのせいだと言わんばかりの目でたこ技師を見れば、慌てた様子で首を振られた。
「いやいやいやいや。君の隊は死亡率も低いし、人数が少ないだろう?せっかく投入した新機種が直ぐ壊されても嫌だろうし、人数が多い隊と組ませて目が届かなくても意味がない。27小隊とは人数も近いし。そう言う点で選ばれたんだろう!?」
「そんな必死に言い訳しなくても、わたしが機械技師をしばけるわけないだろう」
わたしにプロテクトを掛けた本人が何を言うのかと、呆れて溜め息を吐く。
機械化奴隷にも機械人形にも、多分機械化されていない奴隷にすら、命令に逆らったり上に反抗したりしないようにプロテクトが掛けられている。ひどい命令違反や軍紀違反をすれば、死んでもおかしくないようなペナルティのあるプロテクトだ。
奴隷が機械技師を殴ったりすれば、十中八九ペナルティを受けるだろう。殺されまでするかは、わからないが。
「命令違反の前科者が何を言うか…。君の力で殴られたら、私なんて一撃で死んでおかしくないからね」
前科…うっかり敵国のガキ…戦争奴隷を助けちまったときのことか。あの後手ひどい懲罰を受けたし、プロテクトも強化された。もうあんなことは出来ないだろう。
むしろ、あれで生かされたことが不思議なくらいだ。殺してくれても、良かったんだけど。
「手加減はするさ。出来るだけ苦しむように。一発で殺したりしない」
「…そう」
呟いたたこ技師の笑みは、引き攣っていた。
「君をあまり、怒らせないように気を付けるよ…」
「そう。じゃあ、黙って寝かせてくれ」
肩を竦めて言うとわたしは目を閉じた。
見たくない現実から、目を背けるみたいに。
寝て、起きたら、メンテナンスは終わっているだろう。
そうして、新たな知識が植え付けられている。データをダウンロードすれば知識が増える、なんて、まるで機械だ。
機械のような身体にされて、機械に囲まれて過ごして、周りを囲む機械が増えて。そうしていつか知らぬ間に、わたしも機械になっているのだろうか。
「ああ、おやすみa、良い夢を」
機械は夢を見ない。
たこ技師に掛けられた声で、ひととしての部分を少しばかり掬い上げられた気がして、わたしはほっと息を吐き、眠りに落ちた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
ストックが切れつつあります
次話が間に合うかどうか…
毎日更新できなくなってもエタることだけはしませんので
最終話までお付き合い頂けると嬉しいです




