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第十話 歌とこころ

前話の続きから始まっています

 

 

 

 敵陣へと乱暴に銃弾を叩き込むわたしの横で、黙って正確な狙撃を続けながら、微かに聞こえる歌声に耳を澄ませていたφ(ファイ)が、唐突に口を開いた。

 

 「(アト)、国歌トハナンデスカ?」

 「は!?」

 

 思わぬ問いに思考が停止した。それでも狙撃が止まらなかった辺り、わたしの腕は既にわたしの支配下にないのかも知れない。

 

 国歌とは何かって、知ってたから歌を聞いてたんじゃなかったのか?

 

 「国歌とは何って…知らなかったのか?」

 「知ラナイデス」

 

 唖然として問い返すと、知らないことを疑問にも思っていない様子で頷きを返された。

 呆れつつも、無理はないのかと頭を掻いた。片手でもごつい銃が扱える腕力と握力。人間やめてるな。

 

 「まぁ…戦闘に歌なんていらないもんな…」

 

 かなり低ランクの基礎知識データしかインストールされてないのは知っていたが、まさかそんな所に知識の欠落があるなんて思ってもみなかった。


 国の犠牲者となる相手に、守る国のことすら教えてないなんて。

 

 「歌は知ってるのか?」

 

 外見だけなら自分より年上に見える、こころを持たない相手だが、どうにも哀れに思えて、真面目に答えてやることにした。

 わたし以上に偏った知識しか持たないコレは、戦場に立ってこそいるが生まれたばかりの赤ん坊と変わらないんだ。

 

 「言葉ニ旋律ガ付イタモノデス」

 

 やっぱり、偏っている。たこ技師に言えば、多少は改善して貰えるだろうか。

 いくら戦闘用殺戮機械人形と言えど、これではあんまりだ。

 

 「意味があるんだ。単純に言葉を口にするより大きな意味が」

 

 わたしだってまともな教育なんて受けていない。事実とは違う知識かも知れない。

 それでも、何も知らないよりマシだろうとわたしは自分の考えを教えた。

 

 「言葉は個人のもので、喩え文字として残って多くの人間に見られたとしても、個人のものなのは変わらない。感銘を受けて受け売りしたって、誰個人かが変わっただけで、あくまで個人のもののままだ。しかも、同じ言葉を知るやつらにしか伝わらない」

 

 言葉が伝えられることは、意外に少なく限定的なんだ。

 

 「だけど」

 

 わたしはしっかりとφの瞳を見つめた。

 

 「歌は違う。喩え文字にならなくても力を持った歌は広まるし、ともに歌えばそれは個人のものに留まらない。喩え言葉が通じなくても、こころが通じれば歌はいくらでも伝わる。ひとだけじゃない。犬でも虫でも、植物にだって、こころさえあるならなんにだって歌は伝わるんだ」

 「ココロ…?」

 「魂とか霊とかとも言うかな。生きものの自我の源だ。アンタら機械人形と人間の一番の違いだよ。こころは掛け替えがない。駄目になったらもう二度と手に入らないんだ。こころを失った生きものはもう生きられない。こころない生きものなんて存在しないんだよ」

 

 こころがないならそれはもう生きものじゃない。こころがあるから生きものは、自由意思を持って自律的に活動するんだ。

 

 「私ニハナクテ、aニハアル?」

 

 言葉に詰った。わたしは果たして機械なのか、生きものなのか。

 こんな雑談続けていても、腕は勝手に銃弾をばら撒き続けてる。

 そんなさまを見れば答えなんか返せなくて、わたしは肩を竦めてごまかした。

 

 「…さぁね。今はこころのことは良いんだ、歌の話なんだから。歌は言葉より力を持つから、こころあるものを動かす時に良く使われるんだ。国歌もその一つ。国を一つにするために創られ歌われる歌だ」

 

 最早もはや炎の海の中、敵国の兵士たちが歌う歌の声は、酷く小さくなっていた。まだ後続の兵はいるようだが、殲滅は近いだろう。厄介な兵器さえ奪ってしまえば生身の人間が、機械人形に敵うはずもないんだ。人間が他のことに費やすものもすべてを、ここにいる機械人形たちは戦闘のために費やしているんだから。

 

 「a」

 

 炎に頬を染めたわたしを、φが呼んだ。

 

 「aモ、国歌ヲ歌エマスカ?」

 「あれを?」

 

 戦場で微かに響く声を示すと、φは頷いた。わたしは首を振る。

 

 「国歌は国ごとに違うんだ。わたしらの国の国歌はあれじゃない」

 「歌ッテクレマセンカ?」

 

 むっと、口を結んだ。知らないわけじゃない。でも、国歌は‘国民’のためのものだ。奴隷のものじゃない。

 

 嫌だ、と言いかけて、なんだか笑いたくなった。良いじゃないか。どうせ誰も気にしやしない。奴隷は国歌を歌うななんて軍規はないんだ、咎められる謂れもない。

 

 「わかったよ」

 

 断末魔の悲鳴と砲撃の音を伴奏に、わたしは歌い出した。

 勇猛果敢な国の繁栄を讃え、更なる繁栄のために戦うことを誓う歌。繊細で美しくこそないが、簡潔で強い歌。まさに戦場で歌うべき歌だ。

 

 歌に乗せて銃弾を撒き散らす。

 これは死地に向う悲壮な決意ではなく、勝利に向けてのときの声だ。

 わたしの紡ぐ国歌は敵の兵士たちの歌声を掻き消し、戦場に響き渡った。

 

 「…綺麗デスネ」

 

 φがぽつりと呟いた。

 魂なんてなくて、感情の籠った表情なんて出来ないはずのφが、笑ったような気がした。

 




拙いお話をお読み頂きありがとうございます


続きも読んで頂けると嬉しいです

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