七話目
ジルにロビーでのすったもんだを昼食を食べながら説明した後、あたし達は武器屋へと足を向けた。
あたしの装備品を見繕う為だ。
今の装備品はジルが買ってくれたシャツとズボンだけ。
買って来てくれたのはキャシーさんだけど。
「ねえジル。刀って練習しなくても振れるもの?」
「うーん……素人には危ないんじゃないかなぁ」
「だよねー」
「何?欲しいの?」
「外出るのに丸腰はねぇ……自殺行為じゃない?」
「一応見てみるだけでも見てみたらいいんじゃないかな」
「それもそっか」
そんなやり取りの後、この武器屋に入ったのだった。
武器屋には色々な武器が並べられていた。
短刀からあたしの身長程もある大きな刀……それから家庭で使うような包丁まで置いてあった。
武器屋というか刀屋さんって感じ。
ゲームとかでよくある多種多様な武器があるわけじゃなかったから。
紛らわしいって思っちゃうのはあたしがゲーム脳だからかもしれない。
あ、でもここがリベラーレ・オンラインの世界ならこうなるのかもしれない。
用途によって扱ってる武器が店がによって違うから最初はお店巡りしてた覚えがあるもん。
「ううーん……凄く悩む」
「とりあえず解体用のナイフ見せてよ」
「へいっ」
並べられた刀を見ている横でジルはおじさんにそう声をかけた。
そうだ、解体も練習すべきだよね。
捌けないと引きずって歩くはめになっちゃう。
ジルがナイフを見ているのを横から覗き込むと、これもいくつか種類があるらしく、何本もジルの前に並べられていた。
「こんなに数あるんだね」
「そうだね、でも外で解体するなら大きすぎず小さすぎず、でいいんじゃないかな」
「そうだね、使えなかったら意味ないし」
じーっとナイフを見つめているとほわんとそのナイフの名称が浮かんだ。
おっとぉ、ここでも観察眼が発動ですな。
ナイフ、ナイフ、解体用ナイフ、解体用包丁、ナイフ、コール鋼ナイフ、ナイフ、ナイフ……。
って、ちょっと待て、一つなんか違う感じの名前あったよ。
『コール鋼ナイフ』ってやつだけをじっと見つめてみる。
他のナイフに比べてどこかボロく見える。
刃はどれも綺麗に研がれているのに。
じっと見つめていると名前だけじゃなく、簡単な説明文が現れた。
どうやらこのコール鋼というのは錆びにくいものらしい。
ただそれだけしか書いてない。
「なーんだ」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや……ねえ、普通のナイフとコール鋼のナイフだったらどっちがいい?」
「同じナイフならコール鋼の方が劣化しにくくていいね」
「ふーん」
ジルの言葉を聞いてコール鋼ナイフを手に取る。
店のおじさんが訝しげにあたしを見る。
「じゃあこれにする」
「いくら?」
「こんだけ」
柄に付けられた値札を見せればジルが納得したように一つ頷く。
適正な値段はわからないけどジルが頷いたってことは普通の値段なんだろう。
「他に欲しいのあったかい?」
「ううん、今のとここれだけでいいかも」
「ん、わかった」
そう言えばジルはナイフの代金をおじさんに払う。
ありがとーとおじさんに声を掛けて店を後にする。
「ねえ、何で急にコール鋼だったの?」
「え……うーんと、他のナイフと金額が同じぐらいだったから、コール鋼だと金額とか違うのかなーって」
「まあ、少しぐらいはコール鋼の方が高いと思うよ」
「ふーん、じゃあ儲けた」
「それ、コール鋼なのかい?」
「うん」
そりゃ急にコール鋼がーとか言い出したら不思議に思うよね。
でも、あのおじさんの店はもしかしたら掘り出し物があるかもしれないな。
刃物が欲しい時は顔を出してみるのもありかもしれない。
「他に何がいるかなぁ?」
「うーん……戦闘スタイルにもよるんだけど……剣使わないの?」
「今のとこ使える気がしない」
きりっとしながら言い切ればジルに苦笑された。
まあ仕方無いよね。
剣装備したはいいけど自分切ってたらアホだもん。
依頼はこの街の近くでこなせるみたいだしいっそ木の棒とか。
ほら、初心者はひのきぼうが初期装備ってね。
……あ、あたし地面凹ます力あるじゃん。
「何にやにやしたり真顔になったりしてるの」
「えっ、そんな顔してた?」
「してたよ」
くすくすと笑うジルに自分の頬を両手で挟んでちょっと揉んでみる。
いや、こういうの楽しいじゃない?
レベル上げとか途中で飽きたりするけど妄想ってこう、興奮するじゃない!
「あたし狼殴ってたこと思い出したの」
妄想とか口に出して言えないから言わないけどね。
「ああ、そういえばそうだね。となると剣より拳を守るもの……後は軽装かな……」
あたし以上にあたしのことを一緒に悩んでくれるジルに嬉しくなる。
命かかってくるからね。
ガチガチに防具で固めても動けなかったら意味がないし、かといって軽装すぎても怪我しちゃうし……。
ホント悩む。
「とりあえず防具屋さん行きたいな」
「そうだね、じゃあこっち」
ジルはあたしの手を取るとすたすたと進んで行く。
これ子供扱いなのかな。
迷子になったら困る的な。
失礼な、迷子になんて…………あ、これなるわ。
ここどこだ。
ジルの屋敷もどこか覚えてないや。
道も覚えなきゃな。
「ほら、ここ」
きょろきょろと辺りを見ながらジルに引っ張られていたらいつの間にかお店に着いていたらしい。
ダメだ、迷子になるわ。
大人しくしとかなきゃ。
「いらっしゃいませー」
お店に入ると女性が笑顔で現れた。
可愛い人だ。
「あ、ジルフォードさん。どんな御用ですかー?」
「この子の装備を見に来たんだけど」
ジルを見てお姉さんの頬が赤く染まったのをあたしは見逃さなかった。
ほほう?
「あ、いらっしゃいませ。どんな装備を?」
わお、お姉さんめっちゃわかりやすいよ。
あたし見て眉寄せられちゃった。
ついでに声が低くなったよ。
あからさまだ……。
気にしないけどね!
「ああ、軽装がいいんだけど……初心者用で見せてもらえると嬉しいな」
「わかりました、少々お待ちくださいませ」
それでもちゃんと対応してくれたよ、やったね。
お姉さんがいくつかの装備を台の上に並べてくれた。
「あ、ジル。あたし時間かかると思うしどこかで時間潰しててよ」
「気にしなくていいよ」
「あ、じゃあこちらに掛けてお待ちください」
「いや……」
「気になったものあったら声かけるし、そっち座ってていいよ」
「今お茶お持ちしますね」
お姉さんいい笑顔だ。
反対にジルがちょっと不機嫌そうだけど……我慢してよね。
絶対時間かかるんだから。
お姉さんに勧められるまま椅子に座りお茶を受け取るジルを尻目にじーっと防具を見つめる。
お姉さんがジルに声をかけてるけど、どうやらジルの態度は素っ気ないみたいだ。
会話らしい会話が続いていない。
頑張れお姉さん。
しかし布の服とか旅人の服とか物凄く懐かしい気がする。
一つずつじーっと見て簡単な説明文を読んでいく。
うーん……服として考えるとぶっちゃけ今着てるシャツとズボンでもいいような気がするなぁ。
部分的な防具とかの方が動きやすいような気もする。
見た目も可愛くないんだよね!!
「うーん」
見てるだけじゃなくて今度は手に取ってみる。
服の手触りもなんか……ごわごわしてる。
新品だからなのかな?
一個ずつ手に取ってしっかりと確かめてみるけど、服系が趣味じゃない。
小さく溜め息を吐いて次は鎧系へと視線を向ける。
革の鎧を手に取ったらべしょり、と壊れた。
「うひょあ!?」
「どうしたの!?」
「こここ、壊しちゃった!?」
慌てて手に持ったままの革の鎧──上半分──をジルに見せる。
「なんだ、それはそういうものだよ」
「あ、ああ、そうなの?びっくりしたぁ」
上下でくっついてるものだと思ってたあたしが慌てすぎたってことらしい。
あー、びっくりしたぁ。
あ、でもこれなら部分でつけてもいいってこと?
おお、選択肢が増えたよ!!
並べられたいくつかの鎧系を手に取ってじっと見つめる。
重さも確認しながら一つ一つじっくりと吟味し、どの部分を守るのかしっかりと確認をする。
「すみませーん、これちょっとつけてみていいですか?」
「はい、どうぞ」
この服の上から胸当てをつければ上半身は問題ない気がしてとりあえずつけてみる。
うん、重さがしっかりある。
心臓を守れるこれは必要だな。
フルアーマーでも分解して部分を使えばいいんじゃないだろうか。
あたしに必要な防具で守りたい場所ってどこだろう。
胸元、腕、脛……?
ガチャガチャと音を立てながら着けられる部分をつけてみる。
うん、これぐらいでいいかもしれない。
ああでも、殴るには拳を守るものがないか。
あ、いや、あった。
端の方に篭手が置いてあった。
拳を守るタイプの篭手だったら殴れる。
よし、これだ。
「ユウナ、どう?」
「うん、……こんな感じ!」
一通り装備してジルに見せてみる。
ジルは上から下までを一瞥すると頷いた。
「うん、いいんじゃない?」
「やった」
「じゃあユウナが装備してるのちょうだい」
「は、はい」
お姉さんはジルの側から離れるのを惜しそうにしながらも残った装備品を纏めてくれた。
そして代金を払ってくれるジル。
自分で稼げるようになったら返すからね!!
荷物を持ってさっさと店を出るジルを追いかけてあたしも店を出る。
ちゃんとお姉さんに頭下げたよ。
「他にいるものは?」
「えー……わかんない」
「じゃあアクセサリーは僕が魔力込めたものが家にあるからそれ着けたらいいよ」
「補正付き?」
「そう、色々あるから好きなの選べばいいよ」
至れり尽くせりである。
ジル様様だ。
そしてやっぱりジルに手を引かれて屋敷へと帰りました。
屋敷に帰るとキャシーさんがお出迎えしてくれた。
余ってたアーマーの一部分をあたしに宛てがわれた部屋へと置いて、保管庫へと向かう。
保管庫には色々な物が置いてあった。
ジルの言ってたアクセサリーだけじゃなく置き物とか宝石みたいなやつとか剥製とか毛皮とか、なんか禍々しい気配のする鎧とか何かのミイラっぽいのとか。
うん、一人で来たくない。
もやもやどよーんとした一角には絶対目を向けません。
「ジル様の集められたアクセサリーはこちらの棚に御座います」
キャシーさんが指し示す棚に目を向けると煌びやかなアクセサリーが並べられていた。
「おおおー、凄い!」
「使ってないのだからどれでも使っていいよ」
「うわー、勿体無い」
アクセサリーを一つずつ手に取りじっと見つめると現れる説明文を読みながら自分に合いそうなものを選ぶ。
高レベル用の装備出来ないアクセサリーもあったけれど今の自分が装備出来る物を真剣に選ぶ。
そして装備出来るイヤリングとネックレスを一つずつ選び身に付ける。
「よし」
「出来た?」
「うん!」
振り返ると椅子に腰掛けて優雅にお茶を飲んでるジルがそこにいた。
優雅だな。
「あ、しまった」
「ん?どうしたの?」
「カバン欲しい」
「カバン?」
「そう」
「アイテム袋じゃ駄目なの?」
「それ以外にも持っていきたい物を入れておくカバンが欲しいなって」
「なるほどね。……僕はあまり持ってないかな」
「じゃあ後はカバンと回復薬が必要かな……危ないことするつもりはないけど、念の為に」
「そうだね、何があるかわからないし」
うんうん、カバンに色々入れておけばアイテム袋が素材とかを一杯入れられるしね。
あー、買い物中に思い出せたらよかったのに。
備えあれば憂いなし、石橋は叩いて渡りたい。
特に勝手がわからない今は。
でも……。
「ま、今日はホント近くしか行かないしいっかぁ」
面倒だから諦めちゃう☆
てへっ。
「いいの?ご飯食べたら買いに行ってもいいよ?」
「ううん、そこまでしてもらうのは申しわけないし」
「今更だよ」
「そうなんだけどねー」
こんだけしてもらってたらそうなのかもしれないけど、いい加減自分で稼いでいかないとね。
「昼食のご用意が出来ました」
おっと、キャシーさんが呼びに来たよ。
そんな時間か、と思ったらお腹がぐーっと鳴った。
恥ずかしっ!