二十四話目
タータの乗っている肩をちょっと落として廃鉱を進むのはあたしです。
まだ1階だからか魔物とは遭遇してません。
最初に見つけた鉄鉱石をゲットしてから暫く歩いているけれど、見つからない。
うーん……。
あ、でも鉱夫さん達が掘っててもおかしくないか。
じゃあさくさくっと先へ行かねば!
1階は道があっちこっちに出来ていて、行き止まりにぶつかることもしばしば。
ぐるーっと回って戻ってきたりね。
あたしの真っ黒だったMAPが開かれていく。
結構歩いた気がするのに、次の階にまだ行けないとか……。
『あ、ユウナ様、階段ですにゃあ!』
「やっとかー」
ようやく見つけた次の階への道を足早に進む。
2階でも、歩きながら見つけた魔石に魔力を流して周囲を明るくして進む。
徐々に慣れて来て流れ作業のようにこなせるようになった。
あたしが思っていたよりこの廃鉱は広かった。
これじゃあ時間がかかり過ぎる。
鉄鉱石も欲しいけど、早く先に進みたい。
浅い階層だと鉄鉱石も掘られ尽くしてる感じするし、奥へ行かないと。
「んー……」
『どうしましたにゃあ?』
「うん、あのね」
タータにあたしの心中を軽く説明すればタータが尻尾を揺らして頷いた。
『それでしたらタータが魔力を辿りますにゃあ。先に進むならそれが早いですにゃあ』
「そっか、タータが町に魔力がーって教えてくれたんだもんね。でも体調とか大丈夫なの?」
『ユウナ様のおかげで大丈夫ですにゃあ!』
ふんふんと鼻を動かすタータはとても可愛いですね!
タータの道案内を受けながら分かれ道を進むと蛇やミミズがこう、くねくねーっと進んだような道がMAPに示される。
道中たまに現れるコウモリを魔術で撃ち落とし、ポシェットに詰め込む。
大きな範囲魔術とかは壊しそうで使えないけど、一点狙いの魔術は使い勝手が良くていい。
近寄る必要もないしね。
順調に先へ進み、3階、4階を過ぎる。
道すがらに見えた鉱石は掘りました。
少しずつだけどポシェットに増えてますよ、くふふ。
出てくる魔物が少しずつ増えている印象を受けた。
コウモリだけじゃなく、コボルトが増えている。
更にタータじゃないけれど、魔力を強く感じるようになってきた。
まとわりつくような不快感に眉を寄せる。
防御膜のおかげで体に影響があるわけじゃないんだけど、嫌な感じがするのだ。
それでも先へ進まなければ話が進まない。
5階を進み、更に奥を目指す。
「一応町の人はこの階層までしか来てないらしいんだけど……」
『ふんふん……あ、ユウナ様こっちですにゃあ』
鼻を動かしていたタータが前脚で示したのは壁だった。
MAPで確認してみても壁である。
まだ道は他にもあるし、変哲もない壁なんだけどな。
「この先?」
『はいですにゃあ』
「うーん?」
壁をじっくりと眺めているとひびが入っているのに気が付いた。
「あれ、ここひびが……」
『そこから魔力の流れを感じますにゃあ』
タータの言葉に慎重にそのひび周辺を触る。
別に脆くなっているわけでもない。
多分つるはしか何かでひびを入れてしまったんだろう。
「この先道あるのかなぁ?」
手につるはしを持ってひびを拡げる。
いやあ、このつるはし丈夫でいいねぇ。
ガツガツひびを拡げるとそこがポッカリと口を開けた。
脇道が開通した瞬間である。
「奥があるねぇ」
『みたいですにゃあ』
光を奥を照らすように向けてみれば、道が続いているのが見えた。
そこから流れて来る嫌な空気にちょっと行きたくないな、とか思いながらも足を進める。
鉱夫さん達が掘った道よりも狭いけれど、道がしっかりと出来ている。
これ先進んだらどっか地上にでるのかな?
『ううーん……魔力が充満していて道が分かりにくいですにゃあ……』
「うーん…………じゃあ虱潰しに行こうか」
手元の光しか光源がないから緊張するけどね。
あ、そうだ。
『どうしましたにゃあ?』
「うん、暗いからさ」
ポシェットを漁るあたしにタータが首を傾げる。
取り出したのは小さな屑みたいな魔石だ。
魔石に魔力を込める。
ぽう、と灯った魔石を足元に転がしてみる。
「うん、問題なさそう」
『明るくなりましたにゃあ』
即席だけどまあいいよね。
壁に埋めるとかそんな時間ないし。
いくつもの魔石に魔力を込めて光らせる。
それを進む先にぽいと放り、道を明るくして歩き出す。
これで少しは安心かな。
ころころと転がる魔石に照らされる道を進み、曲がり角は勘で進む。
「おっと」
魔石を転がしたら角から飛び出してくるやつがいた。
コボルトだ。
魔石が囮みたいになったなー。
曲がり角はこれでいこう、うん。
転ばぬ先の杖ってやつだね。
あれ、何か違う?
ま、いっかぁ。
コボルトに土の弾を撃つと避けられた。
「お?」
『ユウナ様!まだいますにゃあ!』
油断していたあたしに向かって魔術が向けられる。
足元の地面が揺れその場を慌てて飛び退る。
ボコン!と音を立てて地面が針になって突き上がる。
コボルトの方を見れば角からコボルトが飛び出してきた。
最初に現れたコボルトとはまた違うコボルトだ。
「あ、こいつらパーティー組んでるやつだ」
亜種とでもいうのか、上位というのか……わからないけれど、このコボルトはパーティーを組んで襲ってくるものがいる。
コボルトヒーローという前衛職、コボルトウィッチという魔術師、コボルトヒーラーという回復職、コボルトアーチャーという遠距離攻撃をしてくるというバランスのとれたパーティーだ。
プレイヤーとしてもこのバランスは羨ましいよね。
立て直したコボルトヒーローがこちらに剣を向けて心なしかきりっとした。
「この坑道を荒らす不届きものめっ!我らが成敗してくれる!」
「喋れるんだ……」
思わぬ口上にぽつりと呟いちゃったけど誰も聞いてなかった。
コボルトパーティーは全員がこちらに向かって武器を構えている。
来るか、とあたしも迎え撃つつもりで構える。
「勢いと勇気のコボルトヒーロー!」
「愛と美のコボルトヒーラーよ」
「不意打ちなら任せろ!コボルトアーチャー!」
「疲れるのはゴメンだよ……コボルトウィッチ」
『我フェダーら坑アクコ道リーフォ保ボレ安コルス部ボトト隊ルトア戦ーチャ隊ー!』
「何言ってんのかわかんねーよ!」
ビシィ、と音を立てそうな程ポーズを決めて何か言い出したコボルトパーティーに、思わずツッコミを入れてしまった。
きちんと裏手でビシッとしました。
カッコよく決めてたつもりなんだろうけど、色々残念だよ!
ツッコミどころ満載すぎるでしょ!
こっちの力が抜けるじゃないか!
「おい!コボルト戦隊だって言ったろ!?」
「やだー、そんなダサいの」
「ダーク入れようって言ったじゃないか」
「覚えやすいのにしようって言った」
パーティー内での意思疎通というか、意見が纏まってないんかい。
ぎゃいぎゃいと口論を始めたコボルトパーティーはあたしなんて眼中にないらしい。
……この隙に先、進んじゃダメかなぁ。
「お前らちょっとは協調性もてよ!」
「なによー、パーティー組んであげてるだけ有り難いと思いなさいよねっ」
「せめてダークは……!」
「zzz…………」
「ウィッチは起きろ!……って先進んでんじゃねーよ!」
ヒーローが寝始めたウィッチを叩き起こそうと顔を向けた瞬間、あたしの後ろ姿を見つけたらしい。
いや、普通に、ええ、ふっつーに横を通り過ぎただけなんですよ、ええ。
だって気付かれなかったんだもん。
これでも暫くは待ったんですよ?
でもあたし放ったらかしだし、時間もそんなにないし……進んじゃうよねっ。
「いやぁ、邪魔しちゃ悪いかなーって」
そう言ってへらりと笑うけど許してはくれず、コボルトパーティーは再び武器を構えた。
ウィッチは半分目閉じてるけどね。
器用だな、ウィッチ。
つか白目怖いよ。
「我らの目を欺いて進もうなどとは卑怯な!」
「いや、そちらさんが勝手に……」
「だが我らには通用しないぞ!正々堂々と貴様を倒す!」
「すいません、人の話を……」
「行くぞ!正義は我らにあり!」
『ユウナ様、来ますにゃっ』
「うん……」
一切合切あたしの話を聞いてくれないヒーローにげんなりしながらあたしが攻撃に備えて構えた瞬間、ヒーローが突っ込んできた。
狭い道だから避ける場所に困る……なんてことはなかった。
突き出された剣を最小限の動きで体をずらして躱し、ヒーローの腕を掴んでぐるりと勢いを乗せて回る。
腕を掴んでのジャイアントスウィングだね。
ちょっとヒーローが壁に擦れてゴツゴヅガリリッとかいってるけどキニシナイキニシナイ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「そーいやっ」
そのままヒーローをコボルトパーティーに向かって放り投げる……というか全力投球する。
ヒーロー弾丸はパーティーにぶつかり、ウィッチが放とうとしていた魔術が暴発した。
アニメとか漫画でよくある『チュドーン!』っとね。
「ストラーイク」
『素敵ですにゃあユウナ様!』
タータに向かって親指を立ててサムズアップすれば、キラキラした目で見られた。
やめろよー、照れるじゃないか。
「く……っ、紙一重で……力及ばず、か……」
「いやいや、紙一重どころじゃないよね」
「いやー!あたしの卵肌に傷がー!」
「卵肌?コボルトにもそんな単語が……」
「くぅ……不意打ちならば負けなかったのに……!」
「知らんがな」
「……疲れた……」
「奇遇だね、あたしもだよ」
くんずほぐれつ……ではないかな、焦げて絡まって倒れてるコボルトパーティーを見下ろしながら、ツッコミを入れて戦闘終了である。
何か無駄に疲れた気がする。
とりあえずこのコボルトパーティーが人語を話せるからちょっと聞いてみよう。
簡単に状況を説明すれば、負けたからかコボルトなりに真っ直ぐな性根だからかあたしの話を意外としっかり聞いてくれた。
壁に背を預け凭れるあたしの前に並んで正座しているのはよくわかんないけど。
「魔力と言われても俺はよくわかんねえな……」
「ここは空気がいいからあたしの肌はピチピチよ?」
「清々しいよな」
「……多分、最奥の間」
首を傾げるヒーローに、ここが心地いいらしいヒーラーとアーチャーは見合って頷き合い、ぼそりと呟くウィッチ。
「そこ詳しく」
ウィッチの発言を聞き逃さなかったあたしはウィッチに詰め寄る。
どうやらこの坑道の一番奥にある部屋に、不思議な石があるらしい。
その石は禍々しく美しい石だとウィッチは言う。
そしてその石は魔物に力を与えるとか。
といってもその石を守る番人が居て、近づくことは難しいらしい。
ぽつりぽつりと話してくれるウィッチに感謝である。
一番やる気ないけど、一番情報をくれた。
ありがとうと声を掛けて先へ進む。
「……何でついてくるの」
「負けた方は子分になるもんだ」
「えー、ヒーローが行くって言うから」
「置いてかないで欲しい」
「皆がついてくから……」
ついでに何故かコボルトパーティーが一緒に来てくれる流れになった。
仲いいな、君たち。
道中の魔物はコボルトパーティーが倒してくれてあたしは楽チンになった。
子分は別にいらないけど、こうやってわいわいしながら進むのもいいね。
コボルトだけど。
明るい性格のコボルトが多いからか雰囲気が明るくなった気がする。
コボルトだけどね。
コボルトなんだよ。
魔物使いか、あたしは。
いいけどさ。
楽しいし。
ただ、事ある事に口論始めないで欲しい。
狭い坑道だから声が響く響く。
五月蝿い。
そのせいで無駄に魔物が寄って来てますよ!
倒してもくれるけどね。
でも、口論が始まってもウィッチがしなっと話を進めてくれる。
ウィッチだけあたしのパーティーに入れたいわぁ。
このまま連れてったらダメかな?




