二十二話目
ウルク=ハイがでっかいくせに足が速くて困っているユウナです、はい。
取り巻きのハイオークやウルクを倒しつつウルク=ハイをどうやって倒そうか考えているんだけど、倒した側から取り巻き呼ばれてあたしの体力が奪われていきます……。
ホントどうやって倒そうかな。
逃げ回ってても解決しないもんね……。
『ユウナ様、どうしますにゃあ?』
あたしと並んで走るタータの質問に唸ってしまった。
ウルク=ハイは硬い。
速い。
攻撃力もある。
「…………うん、どうしようか」
かといって逃げ出すのは嫌だしなぁ……。
どうにかして倒したい。
こういう時の定番ってなんだっけなぁ……。
とりあえず足を止めるべきかな?
悩んでいるけれど、あたしとタータの足は止まらない。
ウルク=ハイが呼び出す取り巻きを、蹴り飛ばし殴り飛ばし投げ飛ばしている。
合間に襲ってくるウルク=ハイの攻撃も避けてます。
最初はビビって混乱もしたけれど、逃げ回っている間にすっかり落ち着いてしまったのだ。
今じゃあウルク=ハイを倒す手段を考えつつ、取り巻きを倒すことでの経験値獲得に精を出している。
あっちこっちに取り巻き達が倒れていたりする。
これこそ死屍累々。
回収作業が大変そうだ。
『あ、ユウナ様ユウナ様』
「なぁにー?」
なんだか嬉しそうな声がして、走り回りながらタータの方を見た。
『おっきくなれましたにゃー』
ぱぁあ、と花が周囲に舞ってるタータさん……。
「……でっか!」
さっきまで両手でちょっとはみ出すくらいの大きさの子猫だったのに、今並んで走っているタータはあたしより大きくなっている。
でかすぎじゃない!?
あたし乗れるんじゃないのこれ。
一瞬で成長しすぎじゃない?
成長っていうか進化?
進化なの?
進化でいいのかこれ?
『これなら攻撃してもいいですにゃあ?』
「攻撃?………ああー、ああ、うん。怪我しないでくれたら」
嬉しそうに聞いてくるタータに一瞬何の事かと思ったけど、そういやタータに小さいから攻撃はしないで避けてねって言ってたんだった。
タータが大きくなったなら、まあ……取り巻きを任せても問題ない、かなぁ?
「じゃあ無理ない範囲で取り巻きを任せるよ。いのちだいじに、だからね?」
『はいですにゃあ』
念をおしてあたしはウルク=ハイを倒す手段を考える。
取り巻きを任せたタータはウルク=ハイに見つからないように回り込んで既に倒しに行ってしまった。
好戦的なのかしら?
タータが取り巻き達に飛びかかると一斉にターゲットがタータに移る。
取り巻きはタータに気を取られてもいいけれど、お前はダメだ。
「『氷の弾』」
ウルク=ハイの頭に向かって氷の銃弾を撃つ。
銃はないからあたしの手を銃に見立ててね。
こめかみや後頭部にいくつもの氷の弾が当たるけれど、ウルク=ハイは倒れない。
痛くて怒るぐらいだ。
だけど、これで取り巻きとウルク=ハイの意識を分断させることが出来た。
足を止めてウルク=ハイと対峙する。
お互い睨み合いタイミングを窺う。
うん、出会い頭より落ち着いてる。
あの硬い皮膚を突き抜けるような鋭いもの……。
いや、その前にしっかりと足止めをしないと、素早いから避けられる可能性もある。
よし。
魔力を練り上げて手の銃を構える。
「『氷の散弾銃!』」
氷の銃弾がウルク=ハイの右側を重点的に向かって飛んでいく。
それはあたかもウルク=ハイの持つ剣を狙って。
これで避けるには左側に行くしかないだろう。
両手を突き出してウルク=ハイの左側には落とし穴を一瞬で作る。
「ごぎゃあああ!」
ウルク=ハイはそんなあたしの行動を一瞥して瞬時に判断し、氷の弾を剣で弾き落とした。
これでウルク=ハイは左側に避ける必要はなくなってしまった。
しまった、と表情に出した瞬間、ウルク=ハイはあたしに向かって力強く足を踏み出した。
「ぐぎゃああ!?」
だけど、ウルク=ハイの踏み出した地面には既にあたしの魔力が込められていた。
ぬかるんだその地面に足を取られてバランスを崩し手をついたウルク=ハイに、にんまりと笑みを浮かべる。
騙されたね。
「『氷杭』」
ウルク=ハイの上空から何本もの氷の杭が降ってくる。
その太い杭は地響きを立てながらウルク=ハイに突き刺さる。
重量のある氷の塊が高いところから落ちてきたら威力あるでしょ。
ウルク=ハイの硬い皮膚を貫き地面に縫い付ける。
標本みたいな綺麗さはないが、地面に縫い付けられたウルク=ハイが抜け出そうともがいている。
じゃり、と音を立てながらウルク=ハイへと近付けば威嚇するように吼えられた。
これだけ杭が刺さっても倒せないのか。
頑丈だなぁ。
流石フィールドボス。
「『炎の球』」
大きく開かれたウルク=ハイの口の中へと炎の球を投げ込む。
喉を焼き体の中を焼く炎の球に、悲鳴にならない声を上げて悶えたウルク=ハイが暫くして静かになった。
ぴくりとも動かなくなったウルク=ハイにほっと胸を撫で下ろす。
ようやく終わった。
『ユウナ様ぁ、お疲れ様ですにゃあ!』
取り巻き達を相手にして少し毛が汚れているタータが隣に立ち体を擦り寄せてきた。
「タータの方も終わった?」
『はいですにゃあ!』
目を輝かせるタータの首に抱き着き全力でわしゃわしゃと撫でてやる。
物凄く嬉しそうだ。
喉を鳴らして擦り寄ってくる。
「タータもお疲れ様ね。凄く助かったよー」
『タータはユウナ様が嬉しいのが嬉しいですにゃあ』
ひとしきりじゃれあってから倒した諸々をポシェットにしまっていく。
勿論落とした武器なども忘れずに。
ウルク=ハイの持っていた剣大きいんだけど、何かに使えるのかな?
更にありがたいというかなんというか……最初にウルク=ハイが隠れていた崖の辺りにはこいつらが集めていたのか、色んなものがごっそりと置かれていた。
ありがたく頂戴しましたよ、ええ。
ただ、これって他の冒険者とかが落としたり、こいつらが強奪したものなんだろうなぁ……とか考えるとなんとも言えない気持ちになるんだけどね。
せっせと動き回り、回収作業が終わる頃には陽が落ち始めていて周囲が赤く染まり始めていた。
「結構長いこと戦ってたんだねぇ」
『そうみたいですにゃあ』
「うーん……この近くに川とかないかなぁ?埃っぽいから顔ぐらいは洗いたい」
『あ、それなら少しお待ちくださいにゃあ』
タータがひくひくと鼻を動かし、ぴくぴくと耳を動かしている。
大きくなっても可愛いなぁ。
『ありましたにゃあ、こっちですにゃあ』
「はーい」
タータの先導で場所を移動するとそこには小川があった。
「わーい、ありがとうタータ!」
『いえいえですにゃあ』
「それじゃあ今日はここらで休もうか」
『わかりましたにゃあ』
きょろきょろと辺りを見回して休めそうな場所を探す。
川の少し上流の方に移動すると拓けた場所があってそこに腰を落ち着けることにする。
ポシェットから組み立て式のテントを取り出す。
道具屋さんで購入したんだけど、準備品でこれが1番高かった。
1人用だから大きくないテントを悪戦苦闘しながら組み立てる。
その間にタータは焚き火用に枝を集めてくれた。
「あ、タータ入らないよこれ」
子猫だったタータなら問題なかったけど、今の大きさだと頭かお尻しか入らない。
どうしようかな。
『大丈夫ですにゃあ』
「いやいや、タータだけ外とかは……」
そう言いながらタータの方を向いたらぽひゅ、と音を立ててタータが子猫姿に戻った。
『これで一緒ですにゃあ』
「タータ凄い。姿変えられるんだ!?」
『はいですにゃあ』
「その姿なら一緒に寝られるね」
『ふにゃへへ』
不思議な笑い方しだしたけど、これも成長……なのか?
まあいっかぁ、可愛いし。
薪に火をつけてポシェットからタオルと着替えを取り出す。
周りに人がいないことを確認して防具とシャツを脱ぐ。
ついでだから体も洗っちゃえ。
陽が落ち切る前にさっぱりしたいんだい。
水際にタオルと石鹸を置いて川に足を突っ込む。
「うひっ、ちょっと冷たいけど……タータもおいで。綺麗にしよう」
『は、はいですにゃあ』
実はタータは水が苦手である。
猫だからかな?
でも綺麗になるといつも嬉しそうにするから大丈夫そうだけど。
石鹸でタータを綺麗に洗ってあげて、岸に戻す。
ぷるぷると震えて水気を飛ばすタータにほっこり。
「風邪引くと大変だから火に当たっててね」
『はいですにゃあ。荷物も見てますにゃあ』
「ありがとー」
タータはよく出来る子だ。
ざぶざぶと水を掻き分けて岸から少し離れる。
息を吸い込むと頭まで潜る。
水の中で頭を振って手櫛で髪を梳く。
「ぷぁ」
うーん、冷たいけど気持ちいいわぁ。
上半身裸で人に見られたら最悪だけど、いいわぁ。
水に浮かんでるとちょっと流されるけど満足満足。
流れるプール思い出した。
天然の流れるプールだねこれ。
こうやって浸かるってことがなかったから物凄く満足感があるよ。
お風呂欲しいよ、お風呂。
露天風呂で空見上げながらまったりしたいー。
っと、早く洗っちゃおう。
石鹸でごっしごっし髪を洗い体も洗っちゃう。
さっぱりした所でまた水に浮かんでぼんやりする。
いやぁ、ウルク=ハイ倒せるとは思わなかったなぁ。
混乱さえしなきゃなんとかなるもんだ。
ただ、攻撃って面ではまだまだ考えなきゃいけないことはあるか。
魔術に関しては実践出来たし、改良すれば使い勝手いい、か。
タータのおかげで後方からも狙えるし、むしろタータだけでもある程度行けそうなあれがあるね。
廃鉱だと狭いはずだから魔術も考えなきゃダメ、かも?
廃鉱って何が出てきたっけなぁ?
『ユウナ様ーっ、ユウナ様ーっ!流されてますにゃあああああ!』
ぼんやりしてたら結構流されてたみたい。
タータが飛び跳ねながら慌てて叫んでる。
足をつけて底を蹴ると上流へと向かって泳ぐ。
む、こりゃ楽しいぞ。
流れに逆らってざぶざぶ泳いでタータの元へと向かえば、ちょっと怒ってるタータさん。
荷物番してたから追いかけられなかったのね。
「ごめんごめん、考え事してたらつい」
『心配しましたにゃあ!流されたらダメですにゃあ!』
「うん、ごめんね」
川の中からタータに向かって笑いかければ尻尾をぺしんぺしんと揺らしていた。
ちょーかわいい。
顔に張り付く髪を掻き上げて立ち上がる。
その時かさり、と音がしてそちらへ顔を向ける。
あたし達がいる場所より更に上流の草が揺れてひょこっと顔が出てきた。
男の子?
「あ、ごめんなさい」
そう言って男の子が顔を赤くしていなくなった。
……………はぁっ!あたし今上裸じゃんか!!
慌てて胸元を両腕で隠すけどもう遅かったよね。
男の子いなくなってるし、ばっちり見られたし。
魔物じゃないと思って油断したああああ……。
がっくし。
タオルで水気を拭ってテントの中で着替える。
タータにご飯を用意してから濡れた服を絞って木に干す。
明日までに乾くかな?
ご飯が終わったら片付けをしてテントに触れる。
ここでも試したいことがあった。
ジルが持っていた結界の杭を思い出したのだ。
体の中で魔力を巡らせて練り上げる。
このテントは誰にも見つからない。
いや、あたしが許した人にしか見えない。
物理攻撃も魔術攻撃も効かない。
想像しながらテントに魔力を流す。
「……よし、これでどうだ」
テントから手を離してじっと見つめる。
《完全防御のテント》目視出来ないテント。攻撃が一切効かない。ユウナが許可したものしか認識、進入出来ない。
うむ、出来たぞよ。
『ユウナ様?』
「ああ、テントにね、ちょっと細工したの」
『ふにゃあ……凄いですにゃあ』
「これで安全地帯が出来たからゆっくり休めるよ」
タータを隣に呼んでやればちょこんと横に座る。
片手でタータを撫でながら膝にポシェットを乗せる。
中身を確認すればページ数が凄いことになってた。
結構な数倒したし、剣とかもあったし、お宝的なものも回収したからなぁ。
まずは整理しよう。
そしてオーク達を10体ずつ程残して解体していく。
そしてもう1回整理。
これで見やすくなったぞ。
ページ数は……うん、まだ結構ある。
纏めても減ったページ数が4程だ。
どれだけ取り巻きを倒したんだか。
ま、ここら辺は追々確認しておけばいいかな?
今必要なものとかないし。
そして解体されたアイテムを確認しているといいものを発見した。
『魔石』だ。
いやったぁ!
魔石にも低級、中級、上級とランクがある。
傷があったり小さいと低級で、質によってランク分けされている。
最上級のものだと王宮とかにしか今はないらしい。
ジルが前に言ってた。
そしてこの魔石、中級以上の魔物が持っていることがある。
今回のウルク=ハイの取り巻きが中級以上ばかりだったから、こうして手に入れることが出来たというわけだ。
ふへへへ、これで魔石を使ったものが色々試せるぞ。
そしてウルク=ハイが持っていた剣を鑑定する。
《ウルク=ハイの剣》という表示に変わった。
どうやら装備出来るらしいのだけど、あのサイズを装備出来るのか?
剣に潰されたりしないだろうか。




