二十話目
ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえてぼんやりと目を開く。
清々しいかはわかんないけど、朝だ。
のそりと上半身を起こせば隣で丸くなって寝ていたタータも起きて、背中を伸ばしている。
あたしもうーん、と背中を伸ばしてから息を吐き出す。
うむ、今日からは冒険だ!
顔を洗って歯を磨き、荷物の確認をしてタータを肩に乗せる。
「さあ、行くぞー」
『はいですにゃあ』
1階に下りてお姉さんに挨拶をする。
暫くここの料理食べられなくなっちゃうんだなぁ。
ゆっくりと味わって食事を終える。
本日の朝食も美味しゅうございました。
お姉さんと女将さんに挨拶をして宿を出た。
いい天気だなぁ。
出発日和だね。
意気揚々と王都の東門から出発する。
あたしが目指すのは王都から北の方にある廃鉱。
資源を掘り尽くしちゃったとかで今は廃鉱になっている。
道具屋で買った地図とあたしのMAPの両方を確認しながら先を進む。
あたしの地図は半透明で、買った地図と重ねるようにして位置を確認すると楽チンだ。
意識しないようにすると消える。
タータを肩に乗せたまま歩けば魔物と遭遇する。
王都周辺のため出てくるのは変わらず狼やゴブリンだ。
地図をしまって石を拾う。
『ユウナ様、行きますにゃあ』
そう言うとタータが肩から飛び降りる。
狼の前に飛び出すとすばしっこく駆け回り撹乱させてくれる。
タータに石礫が当たらないようにタイミングを見計らい1匹ずつ仕留めていく。
タータが手伝ってくれるおかげで距離を取ったまま倒せるのはありがたい。
倒した狼達をポシェットにしまい、また歩き出す。
これらの戦い方は夕べタータと話し合った末に出たものだった。
タータは身軽だから敵の注意を引きつけられるんじゃないか、と言い出した。
タータに怪我はさせたくないからそういうことはしなくてもいいと言ったんだけど、タータが譲らなかった。
優しいねぇ。
とりあえず敵の注意を引きつけて撹乱することだけをしてもらうことになったのだ。
何回か狼達を相手にしてみたけど、タータは本当に素早い。
もう少し大きくなったら戦闘も出来るかもしれない。
どれだけか王都から離れると、違う魔物が現れるようになる。
剣や盾を持ったオークだ。
容貌こそ人間とは違うが、人間で言うところの剣士っぽい。
ゴブリンを引き連れて現れるオークもいる。
ゴブリンだけの団体だと統率感は感じられないが、オークがいるとオークの指示に従っているんじゃないか、という動きをする。
まあ、タータがその統率を混乱させるように駆け回り飛びかかったりするから、あたしは変わらず石礫で1匹ずつ撃破していくだけだ。
ゴブリンよりも大きいから的も大きくなって当てやすい。
そして、Eランクの依頼書にはこのオークに関連したものがある。
オークの証を20個収集するのだ。
オークは『オークの証』という物を1匹1個持っている。
それを20個集めることで証明出来る。
何故オークがそんなものを持っているのか、とか疑問だよねぇ。
不思議な不思議なお話。
気にしても無駄だろうけどね。
更にあたしはそのまま丸ごとポシェットに突っ込むから、どこに持ってるかとかわからないんだけどね。
歩いて倒して歩いて倒してまた歩いて倒す。
オークが出没する一帯をぐるぐると歩き回る。
「ふはー、休憩しよっかー」
『はいですにゃあ』
何体のオークを倒したかな。
タータと地面に腰を下ろし、水筒を取り出す。
タータ用にお皿も出してお水をわけてあげる。
膝の上に乗せたポシェットの中身を示す画面には、狼とゴブリンとオークが並んでいた。
しかも右下の方に1/2と出ている。
ついでに矢印もだ。
これ次ページがあるってことかな。
矢印に触れればページが移動する。
ゴブリンとオークが並んでた。
割合はゴブリンが多い。
ただし、何かおかしい。
表記が『狼』『ゴブリン』『オーク』だけじゃない。
たまに紛れ込んでる『太った狼』とか『痩せた狼』ってなんぞ。
いや、確かにちょっと大きい狼だなーとか思ったけどさ。
そこまで表示するものなんだ……。
ビックリだよ……。
…………っと、気を取り直してと。
これ入れた順に並んでるみたいだから整理したいな。
じゃないと見にくいじゃない?
腕を組んでうんうん唸っているとポン、と音がして、画面の横に更に画面が現れた。
アイウエオ順。
種類順。
入手順。
おお、整理出来るじゃないか!
そういえば創造主が手紙でちょっとした補正がどうたらって言ってたのを思い出した。
内容の説明は書いてなかったけど、こういうことかーと納得。
とりあえずアイウエオ順に整理してみる。
オークの間に混ざってたゴブリンやオークが落とした剣なども並び替えられて数えやすくなった。
やったね。
えーっと、いちー、にー、さーん……。
オークの数を数えてみると今の時点で17あった。
後3体は倒さないとダメだ。
水を飲みながらじぃっと画面を見つめる。
するとポン、と音がした。
《オーク を 解体しますか? ⇒はい/いいえ》
おふん?
解体だと?
するに決まってるじゃないですかーっ!
迷うことなくはいをタップする。
オークの肉に骨、皮に分割された。
更にオークの証がある。
おおお、解体!!
調子に乗ってオークだけでなく、狼もゴブリンも解体していく。
丸々突っ込んだだけだと狼狼狼子狼太った狼と並んでいたのに、肉や皮、毛皮はスタックすることが出来た。
スタックって纏めることね。
狼の肉×○○個って表示あるでしょ、あれあれ。
ただ、狼の肉にしても……なんていうのかな?
品質……でいいのかな?
『上質な肉』とか『筋張った肉』とか『脂身の多い肉』とか色々あった。
しかし細かいね……?
いいんだけどさ。
血もあったり、骨もあったりでかなり細かく解体されているのがわかる。
骨も『スカスカな骨』とかあったよ。
こつそしょうしょう(骨粗鬆症)な狼とかどうよ、それ。
こうして見ると解体した時に出やすいものと出にくいものがあるみたいだ。
上質な肉とか品質のいいものは出にくいみたい。
そして気になる『ボロボロの布』
…………もしかして、これオークが腰に巻いてた布?
オークってパンツ穿いて……いやいや、やだやだばっちぃ!!
使い道ないし汚いって絶対!
さ、触りたくないいいいいいい!
捨てたいけど取り出すのもやだああああ!
うおおおお、どうしよう……み、見なかったことにしようかな……。
………………とりあえず横においとこうか、うん。
あ、っていうか調子に乗って全部解体しちゃったよ。
丸々提出する依頼用に残しておくべきだったかも?
……また倒せばいっかぁ。
解体されたアイテムそれぞれが分類されてスタックされる。
ポシェット内の魔物達を解体し終えれば、他に気になるのは棍棒や剣、盾などの落としたアイテムだ。
これらは魔物達が使っていたものだ。
剣が2つ、棍棒が4つ、盾が1つだけある。
他のものは壊れていていて装備品扱いではない。
ただ、何かに使えないかと拾ってはおいたが、通常であれば売る以外の使い道はない。
更に回収した装備品を表示している色は灰色だ。
これは使えない、装備出来ないということを示しているらしい。
こうなるとやることは1つだよね。
剣をじぃーっと見つめる。
《剣 を 鑑定しますか? ⇒はい/いいえ》
ほら出たーっ!
未鑑定品ってやつだね。
未鑑定品は基本装備出来ないし、使用も出来ない。
大体こういうゲームだと鑑定眼ってスキルかアイテムが必要になる。
もしくはお店で鑑定してもらうか、他のプレイヤーさんに鑑定してもらう。
あたしは迷わずはいをタップしたよ。
『ボロボロの剣』『ボロボロの剣』
ふむ、どうやら装備品は表示される名称が同じでもスタックされないらしい。
棍棒と盾も鑑定してみるが、『使い込まれた棍棒』とか『凹んだ盾』とかちょっとそれどうなの的な表示が出た。
使い込まれたんだ……この棍棒……。
……うん……何も言うまい……。
ポシェットを回して膝からどかすとタータをゆっくりと撫でる。
嬉しそうに頭を擦り寄せてくるタータにほんわかしながら、ここに来て2週間ぐらい過ぎたっけなぁ、なんて思い返してみる。
昨日もその前も何だかバタバタしちゃって思い返すってことをしてこなかったなぁ。
過去を振り返る時間がなかったってある意味凄いよね。
前を向いて歩き続けてるって感じがする。
こういうの前じゃあリベラール・オンラインしてる時ぐらいしかなかったのにな。
ゲームしてる間は他のこと考えることなかったから……。
そういえばここってリベラール・オンラインの中なんだよね?
創造主何も言ってなかったけどさ。
街の名前を全部覚えてるわけじゃなかったから、ウェルセスでは気付かなかったけど王都ヴォルベルクはゲーム内であった。
そうなるとこの大陸には6つの大きな街があるはず。
全部回ってみたいな。
回るには時間かかるかなぁ?
車とか電車とかあったら楽なんだけど……あれ、どこかに電車みたいなのあった気がする。
あ、でもあれは工都周辺だけだっけ。
しまった、王都で確認してくれば良かった。
まあ、また戻るからその時にでも確認しておこう。
移動用の乗り物欲しいな。
騎乗ペット……いやでもタータいるしなぁ。
追々考えていこうかな?
だけど、ボロボロの剣とかって表示されるものはなかったと思うんだよな。
鉄の剣とか上質な肉とかはあったけど……太った狼とか使い込まれた棍棒もなかったっていうかいなかったよなぁ。
リベラール・オンラインと同じものはいくつかあるけど、違いも色々ある。
ゲームと現実の違いなのかな?
VRMMOの世界っていうより異世界、ファンタジーって感じがするんだよなぁ。
でも何か今更聞くのも変だよねぇ……?
『どうしましたにゃあ?』
うんうん言ってたらタータが不思議そうに見上げてきた。
おめめくりくりで今日も可愛いね。
「いやぁ、色々思い返してたんだけど、知ろうにも今更感があってさぁ……」
『はにゃあ……難しいことはわからないですけど、タータはユウナ様と一緒に居られて嬉しいですにゃあ』
ふにゃりと微笑んでそう言ってくれるタータにじーんと胸が熱くなる。
タータを抱き締めて頬擦りする。
「タータありがとぉ!」
ぐりぐりとタータのお腹に顔を擦りつけるともふもふがあったかくて何か涙が出そうになった。
そうだよ、あたし新しい人生送るんだよ。
ここがどこだとか詳しく知らなくてもいいし、これから知ってけばいいんだし……。
うん、頑張ってこう!
『くすぐったいですにゃあ』
タータのお腹に顔を擦り付けているとぱたぱたと手足が動き笑うタータの声が聞こえる。
うん、あたし1人じゃない。
……そっか、今までジルいたから寂しくなかった……でも、急に1人になった気がして不安だったのかも。
バカだなぁ、あたし。
苦笑いを浮かべて自嘲していると、頭に小さな手の感触がする。
ちらりと顔を上げるとタータが額を擦り付けてきた。
『ユウナ様にはタータがいますにゃあ』
「……うん、これからも宜しくね、タータ」
『はいですにゃあ』
あたしは1人じゃないね。
よーし、元気になった。
「じゃあお昼になる前にオーク倒しちゃおう」
『はいですにゃあ』
水筒やお皿をポシェットに戻し立ち上がるとお尻をパンパンと叩く。
まだまだ新しい人生始まったばっかり。
やりたいこともいっぱいあるし、寂しがってる時間なんてないよね!
手を組んでうーんと背伸びをする。
うん、あたしの未来は明るいぞ。
はっ、そういえば魔術使えるようになったんだよね?
石礫じゃなくて魔術の練習もしたい。
ていうかしないといざ使うって時に暴発してたら意味ないしね。
流石に光で後光さしてる状態になるとか笑えない。
花火打ち上げても困るしね……。
よし、廃鉱行くまでに魔術使えるようになるぞ!
火力大事だよねー。
うん、地道な努力だ、1歩ずつ進むぞーっ!
急に1人になると寂しくなりますよね……。
しかしオークの使ってた腰巻き的な布の使い道は困る(気がする)




