十八話目
詰め所で手に入れた情報と、セシルさんの言ってたことを合わせてジルは王城にいるんじゃないかと考えました。
ここで問題が一つ。
あたし王城に入れるのか?
結果は………………。
入れました。
ただし王城入ってすぐの大広間まで。
ダメじゃーん。
この先へはどう行けばいいんだろう。
とりあえず情報収集として、近くに立ってる騎士さんに声をかける。
「すみません」
「どうしましたか」
フルフェイスの兜を被っているから表情は見えないけれど、邪険にはされてないっぽいな。
良かった、これなら話しも聞いてもらえそう。
「人を探してるんですけども」
「どなたでしょう」
「魔術師のジルフォードを」
「は?」
「ですから、ジルフォードを探してるんですけど」
「……どういったご関係ですか?」
あれ、何か疑われてるっていうか……不審者に思われた?
ジルの名前を出した途端、騎士さんの雰囲気が急に変わったのがわかった。
項にピリッと何かが走る。
こっちも緊張してくる。
なんでだろう。
ジルの知り合いに見えないとか?
「えっと、一緒に王都に来たんですけど。ジル宿に戻って来れないって言うし、あたしも暫く外に出るので会いに来たんですけど」
そう言ったけど騎士さんはまだあたしを疑ってるっぽい。
なんでこんなに警戒されてるんだろう。
首を傾げていると騎士さんが腰に佩いた剣の鞘に触れたのが見えた。
「申し訳ないが身分証をお持ちか?」
「あ、はい。ギルドカードなら」
騎士さんの動きに注意しながらポシェットからカードを取り出す。
そして右手でそれを差し出す。
利き手を無防備にすることで敵対心はないと意思表示したつもりだけど、空気は変わらない。
変わらないどころか項がピリピリしてるし、そのピリピリが増してて良くない気がする。
まあ右利きかどうかわかんないか。
しかしホントなんなんだ。
あたしが何かしたのか?
ジルが何かしたのか?
さっぱりわかんないんですけど!
誰か説明してよ!
とか思ってたら何故か数人の騎士さんがこっちに向かって来た。
なーぜーだー!?
『なんですかこいつら』
肩に乗ってるタータもさっきからピリピリしてたんだけど、増えた騎士さんに尻尾をゆらりと揺らして不機嫌な様子だ。
「うーん……一体なんなんだろうねぇ」
宥めるようにタータを撫でている間に騎士さんに囲まれてしまった。
騎士さん達身長高いから上からの圧迫感が酷い。
あんた達の威圧であたしの身長が縮んだらどうしてくれる。
「少しお聞きしたいことがあるのでついて来て欲しいのですが」
ぶっちゃけ連行ってことですか。
おーい、ホントなんでだよーっ。
あたし何もしてないし連行されるいわれないんですけど。
ここで怒ったらダメかなぁ……。
ダメだよねぇ。
「理由をお聞きしてもいいですか?」
「詳しいことも含め別室で」
「友人に会いに来たのに別室に連行ですか。騎士が囲んで」
ボソッと言ったのに聞こえたのか鎧ががちゃりと音を立てた。
あたしの言い方が不満でしたか?
あたしもこの状況に不満です。
まあ大事にしたくない……しちゃいけない。
これみよがしにふかーく溜め息を吐く。
「で、どこへ行けばいいんですか」
騎士さんに囲まれて移動したのは地下。
あれー、これマジでどういうことですかー。
しかも入った部屋は机と椅子しかない部屋。
出入り口は扉が一つ、窓なし。
うーん……取調室?
しかも何か違和感がある。
空気が違う。
座れと指し示された椅子はどうやら床と一体化しているみたいだった。
動かして座ろうとしたら動かなかった。
床と一体化している椅子も何か仕掛けがあるっぽい。
まあ疑われても何も出てこないんですけど。
あ、でも過去的な話は出来ないか。
椅子の肘掛けに手を置くと体の中が混ぜられるような感覚がした。
ほんの少しだけれどね。
ほんの少しだけど……不快だ。
あたしの周りに薄い膜みたいなものが欲しい。
この空気に触れないような、体の中を混ぜられないようなもの。
そう……防御膜みたいな……。
ぼんやりと自分に薄い膜を張ったようなイメージをしてみると、不思議なことに不快感が無くなった。
気の持ちようってね。
お陰で気持ちが落ち着いた。
椅子に腰掛けると横から騎士さんの1人が来て、あたしの手首と椅子の肘掛けを繋ぐように手錠を掛けた。
しかも両手。
あたし犯罪者扱いっぽくない?
「…………どういうことでしょうか」
「今王城は厳戒態勢中なんだ。不審人物を王城の奥へと入れるわけにはいかん」
不審人物扱いされた。
あたしのどこが不審人物なのか疑問なんですけど。
『ユウナ様、ここ不快ですにゃあ』
「タータ?」
『体内の魔力に干渉されてますにゃあ。阻害魔術だと思いますにゃあ』
なるほど、体内に干渉されたのか。
だから体の中が混ぜられたような感覚がしたんだな。
召喚獣がどんな仕組みかわからないけれど、タータも魔力がある、と。
だからあたしと同じように不快感を感じたってことね。
肩から下りたタータがあたしの膝に座ったから、自分と同じように薄い膜で覆うイメージをしてみる。
タータも不快感が無くなったらいいのに、って思いながら。
するとタータの周りに薄い膜が張られたのがわかった。
『ありがとうございますにゃあ、ユウナ様』
おう?
もしかして気の持ちようじゃなくて、ホントに膜出来てる?
擦り寄ってくるタータを撫でてあげたいけど、両手を動かすとガチャガチャ五月蝿い。
腹立つわぁ……。
「この部屋がどういったものか理解したみたいだな」
すっかり忘れてたけど、騎士さんいたんでしたね。
あたしの行動を見て動けないと判断したんだろう、ニヤッとされた気がした。
腹立つわぁ……(※2回目)
兜ぐらい外せよ。
ついでにさっきまでいた騎士さんは減って、あたしの目の前に座ってる人と、扉の前に立ってる人の2人になってた。
「理解しましたけど、ここにいる理由はわかりませんね」
「先ほど理由は述べたと思うが?理解出来なかったか?」
「出来ませんね。友人に会いに来ただけでこの扱いですから。不当であるということしかわかりません」
「まずジルフォードに会いに来たとのことだが……それを証明出来るか?」
なんだこの質問。
会いに来たことを証明?
待って、あたしが理解出来てないの?
「すみません、貴方の言っている言葉の意味が理解出来ないんですけど。あたしが友人に会いに来たということの証明ですか?」
「そうだ」
「まず何をもって証明材料とするんですか?」
「それは教えることは出来ない。捏造されては困るからな」
「は?じゃあ伝言だけでいいですよ。会えなきゃ会えないで問題はないんで」
「状況不利と見て逃走を謀るか」
「はぁ?」
え、なにこれどういうこと?
何を言っても疑うってこと?
「じゃあジル呼んできてくださいよ。そうすればすぐわかるでしょ」
ああ、自分の声がイライラしてるのがわかる。
実際イライラしてるしね!
「それは出来ん。ここで何かあっては私が困るからな」
「なんだそりゃ」
あたしの言い分一切聞く気がないってこと?
「意味わかんない」
「王城に務めている人間に面会をする場合は許可を取る必要がある。そして許可が出た場合のみ王城に入ることが出来る」
「ああ、はい。それはわかりますよ」
「不審者にその許可が出ると思っているのか?」
「だから不審者じゃないって言ってんでしょ!」
「王城に来て友人だから会わせろと突然言い出すのはどう見ても不審人物だろう。しかもあの魔術師の友人などと……有り得んな」
「は?あたし別に王城に入れろとか言ってませんけど!?急に戻って来れないって言うから声掛けに来ただけなのに不審人物とか言われる筋合いない!有り得ないとかまで言われる筋合いもないよ!」
怒りで頭に血が上る。
殴りたいーっ!!
この人あたしを不審者として決めつけすぎじゃない!?
「ちょっとそっちの人!!あたしに不手際があったとしてもこれどうなの!?話もまともに聞いてもらえないんですけど!!会えないなら会えないでいいって言ってんのにそれすらも聞いてもらえないってどういうこと!?」
扉の前にいる騎士にそう声を掛ければこっちも顔は見えないけれど、オロオロしてるのがわかる。
顔が決めつけてくる騎士とあたしを交互に見てるし。
「…………部隊長…………」
「お前は黙っていろ。これは図星をさされて狼狽えているだけだ」
ムカッチーン!!
いやいかんいかん。
ここで爆発したらダメ。
怒りを逃がそうとキツく目を閉じて深呼吸してみる。
すーはーすーはー。
そうだ、この人の更に上の人ならまだ話が通じるかもしれない。
「ちょっと、この人お話にならないんですけど。あたしを不審者として決め付けるのが騎士のやることなの?厳戒態勢なら会えないでいいんじゃないの?あたしを犯罪者扱いして何がしたいの?ていうか責任者呼んで責任者。ホント腹立つ」
「お前が不審人物なのは変わらん。責任者は私だ」
「もっと上の人間連れてこいって言ってんのよ。あんたじゃお話にならないってーの」
「この場は私が任されている。上に話を通すまでもなくお前は不審人物で処罰対象だ」
ああダメだぁあああああ!
面倒起こしたくなかったけどこいつはダメだあああ!
ごめんジル。
迷惑かけちゃう……けど許して!!
時間を少し巻き戻して──とある1室で……。
「……では数日後に聖教都から件の人物が到着する。そのつもりで」
「わかりました」
この会議室には僕と王、そして取締官の3人しかいない。
ユウナと王都に来て何日もしないうちに面倒事に巻き込まれた、っていうのが僕の認識だ。
これだから王都にいたくなかったんだけどな。
……なのにユウナと一緒に王都に戻って来てしまったんだよね。
王都は嫌いだけど、ユウナといたかった。
あの子面白いから。
表情はくるくる変わるし元気だし、特殊な事情も面白い。
つまらない日々もあの子となら楽しくなるんじゃないかな、って思ってた。
今の状況は予定になかったけどね。
「……はぁ」
「あらん、溜め息吐いてどうしたの?」
「魔王討伐とか面倒だよ」
「うふふ、ユウナと一緒いられないから、じゃなくて?」
僕の隣に座る取締官がニマニマとしながら体を寄せてくる。
僕よりでかいのにしなをつくって擦り寄らないで欲しいな。
だから隣は嫌なんだ。
っていうか。
「なんでユウナの話?」
「あらん、昨日会ったわよぉ。一緒にご飯食べてたら丁度アンタの部下が伝言に来たわぁ」
「何で一緒にいたの」
僕の知らない所で何してるの、ユウナ。
どうして取締官とご飯食べてるの。
「なんじゃ、ジルフォードに春か?」
王も椅子から身を乗り出して話に食いついてきた。
春って何。
王の言葉に取締官がニヤニヤしてる。
何か腹立つ。
不機嫌な顔をするけど2人はニヤニヤし続けてる。
意味不明なんだけど。
そこに扉をノックする音が聞こえた。
珍しい。
いつもは現場で対処出来るのに。
いや、昨日取締官が街でゴタゴタがあったって言って出ていったっけ。
今日も?
扉を開けて入ってきたのは1人の騎士。
静かに扉を閉めて右手を胸に当てて一礼する。
「会議中失礼いたします。ジルフォード様の友人と名乗る人物が訪れているのですが」
「ジルフォードの友人?」
「あら?今日は商業ギルドに行くって言ってたのに」
「は?何で取締官がそんなこと知ってるの?」
「只今取調室で事情聴取中のことです」
なんだって?
思わず取締官と顔を見合わせる。
「えっと……どうして事情聴取をしているのかしら?」
頬を引きつらせて取締官が騎士に声をかける。
僕も知りたいんですけど。
騎士の方を見れば体勢は変わらない。
「王城に訪れ王宮警備隊第3部隊部隊長に声を掛けた模様。その際不審人物として判断したようですが……」
「第3部隊部隊長って……ああー、ジルフォードを目の敵にしてる……」
「それでどうして取調室に行くことになるんだい?」
「それが……わからないままで……」
「彼、魔術師が嫌いなのよねぇ……それにしても……」
「取締官は僕の話聞いてるかい?」
騎士は体勢こそ変わらないが、その声音はどこか困惑気味だ。
そんな騎士や僕を放置して取締官は1人でブツブツ言い出した。
人の話聞きなよ。
ここで話してても埒があかない。
「その人物の名は?」
「ユウナとギルドカードには記載されております」
あ、名前聞く前にユウナだと判断してた。
友人=ユウナだって思い込んでたけど違う人だったら間抜けだな。
…………友人って訪ねてくるのはユウナしかいないか。
僕友人いなかった。
椅子から立ち上がると取締官も立ち上がった。
何故か王も。
「迎えに行ってくる」
「アタシも行くわぁ」
「儂も」
この人は自分が王だという自覚があるのか偶に疑問に思う。
別にいいけど。
3人で廊下に出ると王の護衛騎士がくっついてきた。
急ごうとした時に、どこかに魔力が集まるのがわかった。
場所を把握した瞬間、僕は全力でその場所へと駆け出していた。
「ユウナ!」
魔力が渦巻く地下にある取調室の扉を力いっぱい開く。
その部屋からは冷気が溢れ全力で走ってきた僕を冷やす。
椅子に座ったままのユウナの目が薄らと蒼く、キラリと光っていた。




