十四話目
コンコン
うーん……。
コンコン
──……。
んー……?
コンコンコンコン
──ナ。
何の音……?
コンコンゴンゴン
──ってば。
うるさ……。
ゴンゴンゴンゴン
ちょ──なよ!
んぁー……?
ドンドン!
ユウナ!
あえ……?
「ユウナ!」
どうやら扉の向こうにジルがいるらしい。
ドンドンゴンゴン聞こえてた音は扉を叩いてる音みたいだ。
ぼんやりしながらベッドを下りると扉に向かう。
「おきたー」
ガチャリと扉を開けばむっすり顔のジルがそこにいた。
「遅いよ、何かあったのかと思ったじゃないか」
「んー、ごめん」
「もうすぐ朝食の時間だよ。準備して降りておいで」
「ふぇーい」
のそのそと準備をしてタータを肩に乗せてから1階へと降りる。
食堂にはまばらに客がいて食事をとっていた。
ジルを探せばすぐ見つかり同じ食卓に着く。
「おはよー」
「おはよう」
「ふにー」
遅くなったことを謝り、皆でご飯を食べる。
タータも足元で一生懸命肉に齧り付いてる。
食事が終わればさっそく武器屋巡りだ。
王都は街中を4等分するように大きな道が十字の形で走っている。
その道で分けられた南西部、南東部、北西部、北東部で建てられているものが違う。
北東部と北西部は王城に近く貴族の屋敷や高級店が多い。
南西部や南東部は庶民向けの店や家が多いとのことだ。
簡単に言えば北、王城近くに行く程敷居が高くなる。
わかりやすくていいね。
今回あたしが向かってるのは高級店じゃない武器屋さん。
お金ないからね!
まあ、あたしが使うには切れ味とかより頑丈さが欲しいからいいんだけどね。
いっそ棍棒でもいいかもしれない。
……可愛くないな。
いや、武器に可愛さを求めちゃいけないんだけど。
ジルは何処かに調べ物に行くらしく、別行動だ。
ついでにタータはお店で邪魔になるといけないからお留守番。
宿のお姉さんが1日預かってくれるということでお願いしてきたのだ。
うん、お土産買って帰ろう。
「らっしぇー」
物凄くやる気のないおじさんが迎えてくれた武器屋をぐるりと見回す。
どこからかカーンカーンと音が聞こえてくる。
大剣にサーベルにナイフ……。
更に槍や金棒があった。
金棒に惹かれるような……惹かれないような。
いややめとこう。
せめてもう少し可愛いのにしよう、うん。
あれ、剣って可愛いっけ。
あれ?
…………まあいっか。
よし、武器をみよう。
じーっと1本1本を確認していく。
鉄の剣だったり鉄の槍だったりで、鉄製品が多い。
うーん……これも持ち手がバカになるかもなんだよねぇ。
そうだ。
「すいませーん」
「あ"ー?なんだぁ?」
おじさんに声を掛けたら物凄くめんどくさそうに返事された。
何故だ。
あたしまだ何もしてないぞ。
「あの、ナイフの持ち手を直して欲しいんですけど……無理ですかね?」
首を傾げながら問いかければ舐められるように頭から足先まで見られた。
一体何を考えてるんだろ、このおじさん。
あっ、もしかしてあたしが武器を使えるような容姿に見えないから怪しんでるのか!?
冷やかしじゃないですよ!
ポシェットから持ち手のひしゃげたナイフを取り出しおじさんの前に置く。
おじさんはじっくりとあたしのナイフを見てる。
「……どういう使い方をしてるんだ」
「いやぁ……あたしが怪力なもので……」
頭をぽりぽりと掻きながらはにかむ。
「照れるとこじゃねえだろ」
何で呆れてる!?
だってあたしだって女の子なんだよ!?
怪力とか照れるじゃん!
「で、持ち手の劣化が激しくてですねー」
「このナイフは持ち手が木だから余計なんだろうな。違うやつにしねえとすぐ壊れんぞ」
「あー、やっぱりですかー」
持ち手のこと考えて買えば良かったなー。
いや、手が痛くなったら使えないって感じで考えて買ったんだけど、逆に作用しちゃったって感じだな。
おじさんはじろじろとナイフを見た後、あたしを見て溜め息を吐いた。
「俺ンとこで修理してやる。ただし怪力でこうなるなら通常より修理回数は増えるだろうがな」
おお、微妙に態度が軟化した?
「おねがいします。あ、修理中って見学出来ないですかね?」
「見学して何が楽しいんだ?」
「社会勉強です」
「……裏だ。息子が打ってる最中だから邪魔するんじゃねえぞ」
素っ気ないながらもOKが出ましたよ。
おじさんの後をついてお店の奥へお邪魔する。
その部屋は熱気が充満していた。
カーンカーンと響く音はここから聞こえていたらしい。
部屋の真ん中あたりには衝立があって、奥が見えない。
おじさんの息子さんが衝立の向こうで剣でも打ってるんだろうな。
おじさんは手前の作業場に腰を下ろす。
持ち手の部分を見て慣れた手付きで外していく。
その様子をじーっと見学させてもらう。
持ち手の無くなったナイフを角度を変えて色々確認してるおじさんの顔は真剣なもので、あたしも息を潜めて邪魔しないように見学を続ける。
刃を研がれなんだか切れ味が増したように見える。
口を開けたまま流れるような作業を見てたら、新しい持ち手に交換されたナイフを渡された。
「握ってみろ」
言われるまま持ち手を確認するようにぐーぱーぐーぱーと握ってみる。
前よりちょっと硬い。
そう言いながらおじさんにナイフを戻せば持ち手を確認して布を巻かれた。
おじさんがよし、と言うまでナイフが何度かあたしとおじさんの間を行き来した。
「いやあ、ありがとうございましたーっ」
勢いよく頭を下げればおじさんが鼻を鳴らした。
ナイフの修理が終わってからは息子さんの仕事を見させてもらっていたのだ。
カッコイイね!
仕事の出来る男サイコー!
いいもん見たわー。
無愛想なおじさんとは違って息子さんは微笑んでくれたよ。
仕事中は真剣な眼差しできりりとしてたのに、こう、ほわーってなる笑顔でした。
おっとよだれが……。
修理代を払ってお店を出る。
おじさんも息子さんもいい人だったー。
近くの店もいくつか覗いてみたけれど、心惹かれるものはなかった。
残念。
お昼ご飯は中央広場にあった屋台で買ってみました。
何かの串焼き(お肉)です。
まあまあ美味しい……かな?
濃い味付けに慣れてると物足りなさがあるけど。
お肉を齧りながら他の屋台を見てみるとパンも売ってた。
パンを買って真ん中を割るとそこに串焼きのお肉を挟む。
それを頬張りながら中央広場の真ん中にある噴水の縁に腰掛ける。
「いい天気だー」
ぼんやりとしながら串焼き肉挟みパンを頬張っていると視線を感じる。
きょろりと目を動かしてそちらを見れば可愛い女の子があたしを見上げてた。
口を開けたまま。
しかも涎垂れてるよ、おじょーちゃん。
どうやらあたしが食べてるパンを見ているらしい。
見た感じ貧しい子って感じじゃないんだけど、逆にお金持ちの子なのかもしれない。
庶民が食べてるものが珍しいってタイプね。
真っ赤な色のふわふわな長い髪をハーフアップにしてて、洋服は黒のドレス姿。
うん、お金持ちっぽい。
しっかしあたしが軽く観察してても動かないってどんだけこのパンに夢中なの。
「食べる?」
思わずそう言っちゃうよねぇ。
食べかけだけど、パンを差し出せばお嬢ちゃんが目に見えて輝いた。
もンのすごく嬉しそう。
自分の隣を叩いて示せば、大人しくそこに座る。
素直ないい子だ。
「はい、どうぞ」
「うむ、感謝するぞ」
「どういたしまして」
言い回しがやっぱり普通の子じゃない。
普通なら『ありがとう』だもんね。
しかし、こういう子って普通ならお供の人とか護衛とか連れてそうなものなのに。
もしかしてお忍び?
考えたくはないけど、家出の可能性もあるか。
これはどうするのがいいんだろうね。
送ってくべきか?
それともここでバイバイすべきか?
うーん……何かあったら嫌だなぁ。
「うむ、馳走になった」
「はっ、ああ、どういたしまして」
考え込んでる間にお嬢ちゃんが食べ終わっていた。
きらっきらな笑顔だ。
「そんなにお腹すいてたの?」
「うむ。ここに来る迄に邪魔な者が居た上、金を持ってなかったのじゃ。口惜しい」
はい、家出少女ー!
でもお金持ってなかったって計画性がないなぁ。
家出は計画的に!
いや、奨めないけどさ。
お嬢ちゃんの名前はブリジット・リリアーヌ。
もっと長いらしいんだけどね。
一人称は妾。
妾って言いにくくないのかな?って違うこと考えてしまうあたしは一般ピーポー。
ブリジットと呼ぶが良い、と胸を張って言われた。
つるぺた幼女がこうやって偉そうにしてるとほんわかするね。
そんなブリジットはパンだけじゃあお腹いっぱいにはならなかったらしい。
ブリジットのお供の人を探そうと手を繋いで街中を歩いてるんだけど、食べ物屋さんにふらふらーっと誘われて行くこと数回。
ブリジットの両手には食べ物。
ついでにあたしも持ってる。
両手で抱えてるブリジットに色々食べさせてあげながら探している。
何か餌付けしてるみたいだよね。
幼女を餌付けとか危ない?
いや、ギリ大丈夫だろう、多分きっと。
ブリジットのお供さんの容姿を聞いてみたところ美女らしいことが判明。
黒髪で涼し気な瞳とのこと。
引く手あまただけど、彼女のお眼鏡に適う男がいないとのこと。
なんと羨ましい。
しかし黒髪美女か……。
浴衣とか着物とか似合うんじゃないだろうか。
というかこの世界に和装があるのか?
あったらいいなぁ。
和装は結構好きだし。
着るとめんどくさいけどね。
「そういえばのぅ、其方勇者を知っているかや?」
「勇者?」
急に突拍子もないことを聞かれてしまった。
勇者ってあれよね。
魔王を倒すべく旅立つっていう。
「勇者っていう単語は知ってるけど……え、勇者っているの?」
質問されたのはあたしなのに、ブリジットに聞き返してしまった。
そんなあたしをブリジットはじーっと見つめていたけどふっと微笑む。
「勇者が召喚されたという噂がのぅ、妾の耳に届いたのじゃ」
「勇者が召喚……?」
おっとぉ?
ここで異世界トリップテンプレ話か?
一応知識として、魔族の住む大陸があるのは知っている。
これはジルの屋敷にあった本の内容だから、実際に見たわけじゃない。
それに魔族の住む大陸があるということしか書かれていなかった。
他にもいくつか魔族についての本があったけど、どれも内容が人間の住む大陸に生存する魔族についてだった。
そして共通して書かれているのは人を襲う忌むべき存在で滅すべき対象である、ということ。
ぶっちゃけてあたしが生きていくのに支障がなければ魔族とかどうでもいいんだよね。
「ユウナよ。勇者と聞いて其方はどう思う?」
「え……。うーん…………戦争とかは勘弁して欲しいかなぁ」
「それから?」
「えー?………………えー?」
「ないのか?」
ブリジットの質問に首を傾げて考えてみる。
「うーん…………どんまいとか?」
「どんまい?どういう意味じゃ?」
「え……お疲れ様とかご愁傷さまとか頑張れとか色々ひっくるめて……る?」
「ほう」
異世界云々は置いておいても他に浮かばない。
あたし関係ないし。
うんうん。
ブリジットはあたしを見て笑ってる。
ブリジットも色々考えることがあるんだろうけど、何故笑われてるんだろうか。
ま、いっか。
暗い話よりこうやって笑ってる方がいい。
ブリジットに微笑みかければブリジットもどこか嬉しそうだった。
「見つけましたよ」
不意に見下ろしていたブリジットの頭を鷲掴みにする手が現れた。
「いたたっ、痛いぞっ」
「痛くしているのです」
「やめ、いたたたたっ」
その手を視線で辿り、不機嫌な声の主を見れば。
「和風美女!」
彼女こそブリジットが探していたお供さんだとすぐわかった。
登場人物紹介とかいりますかね?
容姿とかわからなくて知りたいーって方おられましたら書こうかな、と思います。




