十一話目
街の入口までキャシーさんとキール君がお見送りをしてくれました。
うう、ちょっとうるっとしましたよ。
1週間程とてもお世話になったからね。
また来るんで忘れないでくださいね、ぐすっ。
そして門番さんにも激励の言葉をいただき、意気揚々と王都ヴォルベルクへ向かって歩きます。
途中で現れるゴブリンや狼を、新しく買ったナイフでぎったんばったん倒しながら進む。
解体用に買ってもらったコール鋼ナイフはポシェットの中です。
予備の武器扱いになりました。
はい、解体出来ません。
え、知ってた?
でーすーよーねー。
というか今まで知らなかったけれど、実は冒険者ギルドでも手数料を払えば解体してくれるらしい。
最初に貰った紙に書いてあるらしいんだけど、ちょっと記憶に……えへっ。
ま、まあ、あたしは持ち込むことにしよう、うん。
武器はもう少し長めのが欲しかったんだけど、ウェルセスの街にはなかった。
王都に行けば武器の種類も豊富らしいから、それまでの繋ぎにナイフを使うことに決めたのはあたし。
数が多い時は懐に入らなきゃいけないのが少し怖いけどね。
今は1匹とか2匹で現れるからそこまで危険視はしてない。
拳があるし、ナイフもある。
そして蹴りもね。
だがしかし、基本使うのは実は石礫だ。
これが距離を取って倒せる一番簡単な方法なのだ。
攻撃魔法系が使えないからね。
歩きながら手頃な石を拾って全力投球が今のところのスタイル。
ジルは見てるだけ。
あ、邪魔しに来そうな奴の足止めをしてくれてた。
だからあたしは一体一体を確実に石礫で仕留めていくっていう簡単なお仕事なのです。
そして倒したモンスターはポシェットに突っ込んでいく。
ポシェットの中身一覧にゴブリンが並ぶ。
気持ち悪いとは言わないよ、思うだけにしとく。
ジルとの道中は楽しいものになってます。
ジルは色んなことを知ってて、色々教えてくれる。
あれは胃腸薬になる草だ。
あの実は酸っぱい、食べられないことはないけど。
あっちに見えるのが元鉱山で、今は廃坑になってる。
などなど。
ぶっちゃけ覚えられないんですけどねっ。
そして辿りついた見たことあるようなないような場所。
「ここには昔街があったんだよ」
あ、なんか聞いたことあるよ、それ。
……あたしが最初にいた場所か!
あ、あっちの地面へこんでる……。
うん、間違いない!
あれあたしのせいだわ、あはは。
「ここでご飯にしようか」
「はーい」
今日は寒くないし天気もいいからピクニックみたいだなー、なんて思いながらポシェットから大きなシートを取り出し地面に敷く。
ジルの正面に腰を下ろしてポシェットに手を突っ込む。
キャシーさんが作ってくれたごーはーんー。
パンとおかず、そして水筒を2つ並べて手を合わせる。
「いただきまーっす」
うん、美味しい。
ただ、たまにはサンドイッチとかも食べたいな……。
ここには米もないし、おかずの味付けも似たようなものが多い。
郷土料理ってやつなのかもしれない。
王都ではどんなご飯が食べられるかな?
ご飯も食べ終わり水筒のお茶で喉を潤す。
ふー、美味しかったぁ。
「あ、そうだ」
「ん?どうしたの?」
「ちょっと試したいことがね」
すっかり忘れてたよ、召喚獣の卵のこと。
ここなら拓けてるし、もし大きなものが出てきても大丈夫でしょう。
ポシェットから召喚獣の卵を取り出してあたしとジルの前にトン、と置く。
大きさは大人の頭ぐらい。
重くはない。
「何これ?卵?なんで虹色?」
ジルが興味津々で卵を凝視する。
不思議だよねー、あたしも不思議だよ。
「これを今から孵化させようと思います、きりっ」
「どうやって孵化させるの?」
「うーん、それは今考える。使うってコマンドないからねぇ」
「これはどういったものなの?」
「名称は召喚獣の卵。召喚獣を孵化させて使役出来るようになるもの……かな?」
曖昧なのはあたしもわかってないからだけど。
今現物初めて見たしねっ。
「ふぅん……召喚獣って何?」
「…………ペットみたいなものかな?」
「へえ、何が出てくるの?」
「多分ランダムじゃないかな」
「はやくはやく」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ジルが食いつき過ぎる。
えーっと、まずは……。
《召喚獣の卵(虹色)》魔力を込めることで召喚獣を手に入れることが出来る。出現獣はランダム。
……うん、こんなもんだよね。
「どうしたの?」
「ううん」
読みは間違ってなかったね、よし。
両手を卵に当てて目を閉じる。
魔力を込めるってどうやるのかな。
ポシェットを作った時みたいにすればいいのかな?
とりあえず……やってみよう。
体の中にある魔力を掌に、そして卵に向かってゆっくりと、少しずつ流し込むイメージをする。
魔力の流れを感じながらゆっくり卵に満たしていく。
卵の中に魔力が満ちていくのがわかる。
可愛い子が出てくるといいなぁ。
卵の中に魔力が満ちた瞬間、小さな音が聞こえた。
閉じていた目を開いて卵を見下ろせば卵の天辺に小さな皹が出来ている。
うん、多分これで孵るはず。
ピシリ、ピシリ──
小さな皹が徐々に大きくなり卵の殻の破片がぽろぽろと落ちる。
ジルも真剣な目で卵を見つめている。
卵の天辺に入った皹がぱっと弾け、何かが飛び出た。
「……なにこれ可愛い」
「ネコ?」
卵の天辺からぴょこんと飛び出したのはネコの顔だった。
卵に猫のなまくbいや言うまい。
小さな耳をぴくぴくと動かしてきょろきょろと周囲を見渡している。
こちらを向いたその猫……。
「やべぇ可愛すぎて鼻血出そう」
「え!?」
可愛さに悶えてしまった。
くりくりとしたつぶらな瞳が潤んでいる。
あたしを見た瞬間、その瞳に喜びの色が見えた。
こう、ぱぁあっと花が咲いたみたいにね。
どう見ても子猫ちゃんですから!
やっばい、あたし赤ちゃんに弱いんだよ!
赤ちゃんは可愛い!
赤ちゃんは正義だよ!
「ちょ、大丈夫?」
「ふにぃー」
「ぐはっ」
あたしの様子に心配そうにするジルを他所に、子猫ちゃんに逆にダメージ食らいました。
やばい、鼻血出したら変人確定しちゃう……!
「ふにー、にゃあー」
未だ卵から顔が生えた状態になってる子猫ちゃんが、俯いて顔を手で覆い震えるあたしに慌てた声をあげた。
落ち着けあたし……!
子猫ちゃんは動こうと一生懸命卵を揺らしている。
カリカリと音が聞こえるから、多分爪で引っ掻いてるんだと思う。
だけど卵が割れる気配はない。
「ふにーっ、ふにゃあ!」
卵を揺らし過ぎて勢いに乗った子猫ちゃんが顔から倒れた。
そのままころころと転がり始めたではないか。
「あ゛あ゛あ゛!?」
慌てて立ち上がり転がる子猫ちゃんを追い掛けて捕まえる。
目を回しているようで小さな頭がふらふらと揺れていた。
「だ、大丈夫?」
「うにぃ……」
目を回してても可愛いなぁ。
子猫ちゃんを抱えてジルの元に戻れば何故か苦笑されていた。
「殻壊せばいいのに」
「違うよジル……コレが可愛いんだよ」
真面目に言ったのに物凄く可哀想なモノを見る目されちゃいました。
何故だ。
まあ、半分冗談として……これじゃ動き辛いもんね。
「じゃあ卵割るね」
子猫ちゃんを驚かせないように声を掛けて、子猫ちゃんに傷つけないように殻を割っていく。
殻から取り出してあたしの足の上に乗せた子猫ちゃんは、ぷるぷると震えて殻の破片を飛ばすとじっとあたしを見上げてくる。
銀色の毛並みに同じ色合いの瞳。
全体的に丸くて小さなその姿は庇護欲を刺激される。
しばし見つめ合った後、子猫ちゃんはあたしをよじ登り始めた。
肩まで登るとあたしの頬に小さな頭を擦り寄せてくる。
「ふぉ、可愛い」
顎を指先で擽ると小さく鳴いた。
あ゛ー、可愛い可愛い。
あ、そうだ。
「名前付けてあげなくちゃねぇ」
「にゃー」
子猫ちゃんはあたしの言ってることがわかるのか、肩でじっと待ち始めた。
うーん、どんな名前がいいかなぁ。
タマとかはまんますぎるし……。
「タマでいいんじゃない?」
どうやらジルは待つことに飽きたようでそう口にした。
あ、こっちでも猫といったらタマなんだ。
それはいいけど、どうしてジルは子猫ちゃんを睨んでるんですか。
暇なんですか、すいません。
「ふしゃーっ」
うん、お気に召さなかったようだ。
毛を逆立ててジルを威嚇している。
そんな姿も可愛いぞっ。
だけど何が原因で睨みあってるんですか、あなた達。
火花散ってますよ、落ち着いて。
「うーん……」
睨み合いを続ける1人と1匹をそのままに、あたしは腕組みをして頭を悩ませる。
猫……ネコ……いや、銀色……銀……。
「アルジェント……ううん、アルジェンタータの方でどうかな」
「うにゃっ!?」
あたしの言葉に睨み合いを放棄して子猫ちゃんがこちらを向いた。
その瞳が太陽の光とは違う輝きを放っている。
「アルジェンタータ?」
「安直すぎかな、とは思うんだけど……綺麗な銀色だから」
どうかな、と首を傾げれば子猫ちゃんがぺろりとあたしの唇を舐めた。
「ひょっ!?」
「はぁぁぁぁぁ!?」
「うにゃぁん」
ちょっと吃驚したけども、子猫ちゃんが可愛いし役得だな、うん。
ジルも驚いたらしく飛び上がってた。
文字の如く、ぴょーん、と。
驚くあたしとジルにお構いなしで、満足そうに目を細めて頬に頭を擦り付けてくる子猫ちゃん、改めアルジェンタータ。
これから宜しくね。
「さて、先へ進みますか」
鼻から流れる赤いものを拭きつつあたしは立ち上がった。
これから楽しくなりそうだ。




