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ゲームの世界で新しい人生?  作者: 冬生 羚那
おいでませ異世界?
1/26

一話目

何番煎じかな……

書いてみたかったんです

 カーテンを締め切った薄暗い部屋。

 外は快晴で雲一つない。


 光から逃げるように物体がもそもそと動く。

 目元までを毛布から出してぼんやりと天井を見上げるのは多田優菜(ただ ゆうな)

 ゆっくりとベッドから降りるとふらつきながら洗面所へと向かう。

 顔を洗ってさっぱりすると、キッチンへ立つ。

 一人分の簡単な朝食を作り席につく。


 親はいない。

 去年事故で、永遠に帰って来なくなった。

 祖父と祖母はいるが、性格があわない。

 お母さんは王子様と結婚したくておうちを飛び出しちゃったの、と駆け落ちを小さい頃カミングアウトされていた。

 あれじゃあ飛び出しちゃった気持ちもわかるわ、ともぐもぐ口を動かしながら頷く。

 金と家柄がなんだというのかあたしにはさっぱりわからなかったが、世間体の為に毎月金を振り込んでやると言われた時は物凄く嫌だったけど、受けた。

 嫌っていてもお金がないと生きていけないから。

 今はその振り込まれたお金と少しのバイトで生きている。

 ぶっちゃけそのバイトで貰わなくても生きて行ける分ぐらい稼いじゃったんだけどね。

 この先よっぽど馬鹿なことをしない限り問題ない。


「株ってすばらしー」


 これは株って儲かるらしいとニュースで億万長者番付の番組を見てて試してみようとなったのだ。

 あたしはホント運が良かった。

 神様さまさまである。

 それから欲張ることはしないで普通に一人暮らしを満喫している。

 外出は買い物以外ないが。

 引きこもりで悪いか。


「あ、そうだ。そろそろ始めよ」


 ……まあ、その話は置いておこう。

 あたしは今、とあるゲームにはまっている。

 VRMMOと呼ばれるものだ。

 現実世界にいながらファンタジーな世界を楽しめるという空想好きにはたまらないゲームだ。

 脳に何かが作用してなんちゃらかんちゃらと長ったるい説明はこの際省く。

 説明出来ないし。


「んしょ、ギアOK。電源ぽちっとなー」


 とりあえず、ゲームが大好きなんです、あたし。

 しかもそのゲーム、見た目とか種族とかも選べて『あたしのキャラ』って感じで作れて万々歳。

 あたしのキャラは銀髪赤目のイケメンキャラ!

 ……誰だネカマとか言った奴、ちょっと座れ。

 ネカマは置いといて、コツコツ毎日育てあげたクラーク──というキャラ名──は今ではレベルもカンストし、生産で創るレアアイテムもコンプしました。

 やり込んだよ……真っ白になるまで。

 ホント成功する確率の低さったらありゃしない。

 運が良かったのはここでも発揮されたらしい。

 もう狂喜乱舞しました。

 ええ、踊りましたよ、叫び声あげて。

 それが昨日の話。

 落ちる前に届いたメールがその証拠。


『リベラーレ・オンラインへようこそ』


 ゆったりとしたリクライニングソファにも似たシートに腰掛け、鼻の下までを覆うようなヘッドギアをつける。

 ログイン画面が開くまで視界に拡がるいくつかのウィンドウをチラ見すれば広告ばかり。

 総スルーだ。


『ログインIDとパスワードをどうぞ』


 機械が女性らしい丸みを帯びた声で告げる。

 手馴れた動作でIDとパスワードを打ち込めばキャラクター選択画面に移る。

 目の前には愛しのマイキャラ。

 白く輝くフルアーマーに真っ赤なマントをたなびかせ、大天使の羽根のエフェクトが輝く羽根を散らす。

 今は目を閉じているが美しさは損なわれていない。

 感無量で吐息が漏れる。

 こんなイケメンいたら惚れるわー。


 ふと、そんな愛しきマイキャラの斜め後ろに真っ黒な人影みたいなものがあった。

 それは某体は子供、頭脳は大人なアニメに出てくるわたしが犯人です、と言わんばかりのアバターだ。


「なんだこれ?あたしサブキャラ作ってないぞ?」


 不思議に思って愛しきマイキャラからそちらを正面へとスライドさせた。


「……真っ黒だ」


 キャラクターを選択するまで目を閉じている状態のせいで、真っ黒な人の形をしているだけのそれ。

 一体これなんなのさ。

 ピコーンと音がしてびくりと肩が跳ねてしまう。

 その真っ黒なアバターの横にメールを知らせる表示があった。

 なんだこれ、今までこんなことなかったぞ。


「…………あ、コンプのせいか?」


 もしかして、と思いメールを開けば差出人が創造主で一瞬呆気にとられる。


「え、なんだこれ、創造主?運営じゃないの?どゆこと?」


 とりあえず本文を開く。


『おめでとうございます!この度貴方様が選ばれました!』


「……何にだよ」


 思わずツッコミを入れてしまった……!

 いやだって、選ばれましたと言われても理解が出来なかったんです。

 仕方ないから何かつらつらと書かれている文章を読む。

 要約すれば、新しい人生を送りませんか、私がバックアップいたします。というようなことが書いてあった。


「新しい人生……」


 新しい人生ってなんだろう。

 もしかして大型アップデートでもあるのだろうか。

 それとも新しくゲームが始まるとかでβテストの参加者を募っているのかもしれない。

 お金があるから時間もある。

 今急いで就職しなくたって大丈夫。


 そんなことを考えながら目の前の新しい人生という単語に心惹かれる。


「あれ、まだ下にある……アンケート?」


 そこにはいくつかの項目が設けられていた。

 名前、年齢、性別等々……。

 ちょっとワクワクしてきたあたしは項目を一つ一つゆっくりと埋めていく。


「名前とか……心機一転で新しい名前にしてもいいけど、本名でいこう」


 プロフィールに関しては埋める項目がそんなになかった。

 こうなるときっとアバターよりもグラフィックとかそういうのが出来たばかりのβテストの線が濃いな、なんて思う。

 ただ、その後の項目がおかしい。


「なんだこのチート設定とか」


 ここはチェックを入れるだけらしいが、チート設定だとか逆ハーだ嫌われだとかVRMMOかこれ?という項目がいくつかある。

 更に要望とかいう欄もあって事細かに記入出来るみたいだった。


「うへぇ……これはあれか?女子にも興味を持ってもらおうって魂胆の設定か?」


 女の子が夢見るであろう逆ハー設定とかにあたしは興味ないんだけどね。

 モテたってお腹は膨れません。


「チート設定は欲しいな。デスペナ痛いとやだし」


 とりあえずチェックを入れたのはチート設定。

 死んでペナルティがあった時の予防線だ。

 これが地味に辛い。

 後はいらないや。


「それから……うん?」


『貴女は新しい人生を歩みたいと思いますか?』


 なんて聞かれた。

 新しい人生がどんなものかわからないけど、楽しく生きたいって気持ちはある。

 別に今悲観してるわけじゃないけど、楽しいかと聞かれたら、ゲームが楽しいとしか答えられない。

 干物でもいいじゃない。


「歩みたいでーす」


 YESをぽち。


『新しい人生を歩むことを後悔しませんか?』


 YES。


『進んじゃう?』


 おい、一気に口調が砕けたな。

 今までの説明文的なあれはどうした。


 まあいいか、YES。


『それでは新しい人生を楽しく生きてください』


 その文が目の前に出た瞬間、真っ黒なアバターがゆっくりと目を開いていく。

 視線があった、と思ったら急に目の前が真っ白になって思わず目をキツくとじた。

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