夏の思い出
「明里ってホント身長低いよね~」
「うんうん。150cmある?」
そう言って私の頭をポンポンと叩く女子二人。
「低くないって言ってるだろ~。周りが大きいだけ!」
つーか、別に好きで低いわけじゃねぇし。
二人共150cmという極めて普通の身長だ。ただ私が低いだけ。
そんなことわかってるっつーの。
するとさっきよりも強く大きめの手が乗った気がした。
「!?」
声にならない声を上げ、上を見上げる。
そこには久保が笑顔で立っていた。
「ホンット小さいよな~」
「久保!?」
久保は気にせずポンポンと頭を叩き続ける。
「ちょっとどけなさいよ!」
「や~だね!お前からかうの楽しいし」
出席番号が前後で部活も同じということからよく話すようになった。
そんな私たちを見て蚊帳の外状態だった二人が呆れたように言ってきた。
「はぁ~お熱いねぇ」
「リア充爆ぜろ」
「何言ってんの!?ウチらがそんなんじゃないこと知ってんじゃん!」
「いや、言わずにはいられなくて」
「なんかイラっとしたし」
「理不尽だなオイ!?」
ツッコミに疲れていると久保が思い出したと言わんばかりに髪を引っ張ってきた。
「菅原さんテスト大丈夫なの?」
「いや、言いわけないじゃん。赤点回避できたらラッキーだよ」
「全然ダメじゃん」
そう言うとまた笑う。
ホントよく笑うやつだなぁ。っていうか━━
「その『菅原さん』って呼び方いいかげんやめない?もう半年経つよ?」
そう言うと久保は困った笑いをした。
「そうしたいんだけど…なんか、菅原さんは菅原さんでしっくりきちゃって直せそうにないんだよね」
な、なんじゃそりゃ!意味がわからん!
「ま、そんなわけなんだよ。とにかくテスト頑張れよ~」
「はいはい、わかりましたよ」
「じゃ」
「うぃ~」
「ねぇ!ウチ普通にしゃべれてた!?」
「大丈夫だよー」
「平気平気ー」
「なんでそんな棒読みなの!?」
私は彼に一目惚れしたようなものなのだ。
入学式の時、メガネの似合う人がいるな~、と思っていてそれが彼だった。
メガネフェチである私はすぐさまその人に興味を持った。ま、部活まで一緒っていうのはビビったけどね。
そしてテスト当日。
緊張で胃を痛めていると後ろから背中をつつかれた。
「どうしたー?腹痛かー?」
「あ、いや、緊張による腹痛が…」
「…ふーん」
そう小さく言うと何を思ったのか耳に口元を寄せてきた。
「ちょ!?なにしてんの!?」
「大丈夫だよ。菅原さんならイケるって」
今までに聞いたことのない低音ボイスを耳元で囁かれる。
ちょ!?テストの緊張どころじゃなくなったんだけど!
「な、なな、な!?」
「お、もう大丈夫そうじゃん」
私は真っ赤になった顔を自覚しながら言った。
「あ、アンタのせいでダメそうよ!!」
こんな小っ恥ずかしいことを平気でやってしまう彼が憎い。
誰にでもこんなことをするのか。
それとも私だけ?
そんなことを考えずにはいられなかった。
そして、その時に気づいたの。
私は彼の中身にまで惚れていることに。