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結婚式

「娘さんをぼくに下さい。」

両親への挨拶というのは、そんなことを言うのかと思っていた。でも、全然違った。

彼女と一緒に実家に向かう。

「いらっしゃい。」

笑顔のお母さんが出迎えてくれた。

「おじゃまします。」

ぼくは少し緊張していたと思う。

リビングルームに案内されると、お父さんと小学校低学年くらいの妹、しらたきが好きな老犬ジェフが出迎えてくれた。テーブルには刺身やら唐揚げやら、焼き鳥やら豪華な料理がならんでいた。

「やぁ、よく来たね。いらっしゃい。」

お父さんもにこやかだった。

「こんばんわ。今日はお招きいただきありがとうございます。萩原悠斗です。」

ちょっとだけ、頭を下げる。

「どうぞ、お座りになって。」

お母さんが促す。

失礼します、と言って席に着いた。ぼくの左隣りに彼女、右隣りに妹、正面に両親が座る。

「やぁ、こんばんわ。未来(みく)ちゃんだね。」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんの彼氏?」

いきなり、そんな質問。

「ああっ。そうだよ。」

「お仕事は?」

子供にもわかりやすく答えようと、少し考える。

「パソコンを使いやすくするお仕事だよ。」

「ふーん。」どうやら、興味を示さなかったようだ。お酒をまじえつつ食事は進んだ。家族は皆、仲が良く笑が絶えないといった感じだ。家族でよく旅行をするらしく、宮崎の田舎にそば打ち体験や豆まき体験に行った話をしてくれた。仲睦まじいとはこういうことなんだなと思う。縁もたけなわという感じになったところで、お父さんが言う。

「こんな娘ですが、どうぞよろしくお願いします。」

「はい。大切にします。」

率直に答えた。両親への挨拶に行ったつもりが、逆に挨拶されてしまった。ぼくは一晩で、大切なものが三つも増えた。あっ、シラタキ好きのジェフを忘れていた。


それからは、結構大変だった。式場探し、ドレス選び、招待状や引き出物の準備、休みの日はほとんどそれらに追われた。でも、6月21日には結婚式を迎えることができた。招待客は30人とこじんまりしたものだったが、ぼくらにはちょうど良かった。結婚式は規模や華やかさは関係ないと思う。それを行うことが大切なのだ。


パパパーン、パパパーン、パパパン、パパパン、パパパン、パパパン、パパパーン、パーン、パパン、パン、パン、パーン、パン………

祭壇の前で待つぼくを、彼女と父親がゆっくりゆっくりバージンロードを歩いてくる。定番の白いドレスにブーケ。腕を組むスーツ姿の父親。その後ろに、ベールを持った女の子 2人が続く。一人は彼女の妹、もう一人は彼女のいとこ。

健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも…すこし片言の牧師がこんなことを言った後、尋ねる

「愛することを誓いますか?」

誓い。誓うとはどういうことだろう?絶対に破ってはいけないこと?

そんなことできるのか?

でも、彼女を愛することだったら、きっとできると思う。いや、絶対にできる。

「誓います。」

彼女にも同じ質問。

「誓います。」

彼女は軽快に答える。

「では、誓いのキスを。」

その瞬間は一瞬だったのに、彼女のくちびるに触れた瞬間無限の時間が流れた気がした。

彼女とは何度もキスをしたのに、このキスはなんだか違う。暖かい眼差しに見守られているからだろうか?

くちびるに少ししょっぱい滴が触れた。彼女のなみだ?ぼくのなみだ?

それとも、ぼくらのなみだ?

ある場所で蝶が羽ばたくと、やがて地球の反対側で嵐を巻き起こすという。僕らが流したなみだはやがて洪水になるのだろうか?

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