進まない、展開
「って、他人の回想に入れるかああぁぁぁぁ~!!」
美少女・俵龍一の眼前で大阪に遺棄され、千尋は絶叫した。遥か遠く、遠く、大阪はというと家政婦は見たヨロシク、離れた場所でこちらをうかがっている。ウインクをしながら。
脱力しながら、千尋は泣く泣く俵龍一と対峙した。
「ご無沙汰、してます……龍ちゃんこと俵龍一君」
俵は、千尋の何気無い、というか窮地の中で絞り出した挨拶に感激している。
「はい。やっとお会いすることが出来ましたっ」
「待て!」
抱きつこうと両手を広げた俵に犬を止める要領で千尋は叫んだ。俵はその命令に素直に従う。
千尋は、ふぅと一呼吸ついてから、
「私、実はなんで急に来られたのか分からないですが」
「千尋様にお会いするためです!」
「えと、それじゃよく分からないというか。それに美少女になられて、経過もよく分からないというか……」
見れば見るほど、俵は愛くるしい生き物であった。目は大きく、睫毛は単体で飛び立てそうなくらい長く艶やかなカールを描き、頬は天使のような柔らかな赤みをおび、唇はサクランボ、なわけで。
何を食べるんだろう、少なくとも排泄はしなさそうだと千尋は魂を奪われそうになり、おっととそれを引き留めた。
「俵龍一くん!」
「はいっ」
「説明頼もう」
「はいっ、千尋様がお望みなら!」
俵は立ち上がると、パチンと指をならした。するとパレードがモーゼのごとく二つに割れ、畳二畳はある巨大な液晶テレビが現れた。
「ビエラだとッ!?」
唖然とする千尋の代わりに大阪が呻くと、
「こんなこともあろうかと用意したのです。万全に万全をきしイレギュラーを滅するのが我が家訓ですから」
更に俵は指をならす。
今度は随分と高そうなアンティークちっくな西洋の円卓と椅子が用意された。立て続けに、円卓の上に用意される無数のケーキと紅茶の入ったティーカップ。
「どうぞお座り下さいませ」
俵にエスコートされ、千尋と大阪は椅子に腰をかけた。二人が落ち着くのを見やると俵は、一呼吸置いてから、
「レディースエンドジェントルメン! これから私俵龍一が誘うビューティフルライフストーリー! 是非ともご堪能下さいまし!!」
掛け声と同時に、ビエラから光が放たれる。美しい桜吹雪をバックに流れるように現れる明朝体。
『千尋一期一笑~あなたと出会えたこと、それが人生のすべてとなりました。サナギだった私は蝶へと生まれ変わりあなたのもとに羽ばたいてゆきます~』
「VTRだとっ……!?」
気絶しそうな千尋の代わりに呻く大阪。
「……これが千尋様との思ひ出です」
今、過去の扉が開かれた。