プロローグ
彼女の武器は鞭と低温蝋燭、ピンヒール。それになにより、サディスティックなその性格。人は彼女のことをこう呼ぶ、「勇者様」と。
勇者は今、モンスターに囲まれていた。
モンスターはビルドアッパーという名前で、人間の雄に酷似していた。丁度、全裸に木彫りの仮面をつけているようなビルドアッパーの筋肉は、極限まで鍛え上げられ、盛り上がり、ピクピクと痙攣していた。正に異形のものと言って差し支えないほどの肉体は汗ばんでいて、吐息も荒い。表情は分からないが、興奮しているようだ。
勇者は彼らをねめつける。一方、モンスターも、勇者を舐めるように見つめている。
モンスターの瞳に映る勇者の姿は、妖艶という言葉を具現化したよう。豊満な乳房と滑らかなくびれ、肉感のある臀部、それらをきつく締め付けるように包むタイトなレザースーツ。どこからどうみても扇情的な人間の雌である。モンスターどもの吐息が生臭く、熱いのも無理はない。
互いの視線を絡み合わせる、勇者とモンスターの群れ。まさに一触即発。
勇者は自身の武器である鞭を固く握り締め、ひとつ息を吐いた。そして刹那の間もおかず、鞭を左右に振るった!
瞬く間に、モンスターの肉体に鞭が噛み付き、跳躍する。強固なモンスターどもがバランスを崩し、陣営が壊れる。
その隙をついて、彼女は前進、更なる追撃。
雄叫びが弾け、モンスターどもが次々と大地に平伏してゆく。砂塵が舞い、大地に振動が重なる。
勇者は気合を溜めると、最大級の一発を放った。
「跪け、ウスノロのクズどもが!」
烈風が四散し、ついにモンスターの最後の一匹が吹き飛ばされた。尾を引く叫びを上げながら落下、砂が空を仰ぐ。彼女は平然とそれを見つめ、慣れた手つきで鞭を腰に巻いた。
「ふん、私にたてつこうなんて、百年早いわ。卵子からやり直しな!」
鬼畜気味にそう吐き出して、彼女は踵を返した。と、歩みだそうとしたピンヒールを止める何かがあった。
「くっ、待て……」
息の残っていたらしい。モンスターの何匹かの腕が、彼女の美しい足を掴んでいた。
「なんだい?」
「頼む……」
モンスターの粘っこい眼が勇者を捕らえる、そして、
「もっと打ってくれ!」
四つんばいになった。