嘘つきの・・・・・・
私は私のことが嫌いだ。
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私はよく嘘をつく。
嘘といっても色々あるが、私は話を誇張する嘘もつくし、他人のことを想って嘘もつくし、なんの意味もない嘘もつく。
冬の寒さも厳しくなってきた頃、私は意を決して告白することを決め、彼女をデートに誘った。
幸い彼女は二つ返事で「OK」をしてくれたので、私はデート当日にどこを回るか等考えて告白するプランまでを周到に練った。
私はあまりそういった計画をたてるのは得意ではないのだが「彼女と付き合うことが出来るならば」と必死に計画をたてた。得意ではない計画をたてることも「彼女が喜んでくれれば」という思いひとつで楽しい作業だった。
彼女と私はサークルの先輩と後輩でよく一緒に活動したりしている。
彼女は特別容姿が優れているわけではないが、可愛らしいリアクションや言動から一部の人たちには「かわいい」や「天使」などといわれている。
私が彼女のことを知ったのは一年半前で、そのとき見た小動物的な行動や表情で一息に心をもっていかれた。以来、私は彼女のことを意識し続けている。
しかし、ではなぜ私は一年半も経ってようやく告白を行おうというのか。なぜならもうすぐ彼女は卒業してしまうのだ。
彼女は地方から出てきているし、仕事は地元の企業に就くことが決まっている。そうなると中々会うことは難しくなるし、接点も減ってしまう。
そうして時節に押され私は告白を決心したのである。
私は子供のころからよく「しっかりしている」「君に任せていたら大丈夫」ということを言われ続けてきた。そうやって年を重ねてきた私はサークルでもよく、先輩後輩関係なく「頼りになる」「責任感がある」「なんでもできる」といったことを言われる。言われ続ける。
他人の評価とは残酷だ。人は勝手に他人の人間像を作り出し、それにそぐわないと「そんな人とは思わなかった」と言う。
私はその事を20年というこれまで生きてきた人生の中で学んだし、実際にそう言ったことを言われたこともある。
だから私は「頼りになる」「責任感がある」「なんでもできる」人間を演じている。本当はそんな完璧超人なんているはずないのに。
私は彼女のことを考えているときは自分に全く嘘をつかずにいれた。それが嬉しくて私のなかで彼女の比重がどんどん増していく。
やることが無いときにはふと「彼女とどこかに遊びに行けたらいいな」と考えたり、寝る前にはデートでどこをまわるか考えたりしていた。
そうして考え続けていたからだろうか。デート当日、彼女は私が必死に考えて決めた、行くところ行くところで無邪気に喜んで、楽しんでくれた。もちろん私はそれがうれしかったし、彼女が楽しんでいてくれたおかげで私も楽しかった。
私は彼女のことが好きだ。
これは偽りない私の本心である。
だから、この日、私は彼女に告白すると決めていた。
「好きです、付き合ってください」
色とりどりのイルミネーションが夜を賑わす観覧車の見える屋上で、私は彼女に言った。
彼女はそんなこと言われると欠片も思ってなかったのだろう。一瞬呆けた表情をし、次いでワタワタとあわてだした。
私はその反応を「かわいいなぁ」と見つめながら「やっぱりダメかぁ」と思った。
「君はいろんなことに一生懸命だし、頼りになるいい後輩だけど。やっぱりわたしの中ではそういう関係じゃなくて、可愛い後輩だから・・・・・・ごめんなさい」
そう彼女は言った。
そう言われて、私は表情を取り繕う。私は私に嘘をつく。
「ありがとう」
私は彼女にそう返す。ちゃんと真剣に考えて、きちんと断ってくれて、ありがとう。
帰りの電車で、私は「気にする必要はない」とは言ったが、彼女は少し気まずそうだった。もちろん私だって「気にするな」と言われたからといって、彼女がそのことについて全く気にしないでいられるような人ではないことは分かっている。
私は彼女のそういうところが好きなのだから。
乗換駅のホームで彼女は私のほうを見る。
「どうかしました?」
と私が問うと、彼女は
「君に悪いことした気がして」
と返した。
それを聞いて私は「あぁ、こういうのに断りなれていないんだろうな」などと思いつつ答える。
「人の気持ちなんだから良いも悪いもないですよ。私はあなたのこと好きです。けれどあなたは私をそういう対象としては見られなかった。だから----」仕方ないんです。
そうして私は嘘をつく。彼女と、私に。
「あなたがキチンと断ってくれたから、私は顔をあげることができます。次に進めます。真剣に考えてくれてうれしかったですよ」
彼女の最寄り駅が近くなってきた頃「追いコンは一緒に楽しく飲もうね」といった。
私も「そうだね」と返す。
ずいぶん遅い、初恋だった。
中学まではサッカーチームに入っていて、休日といえばサッカーの練習や試合か、男友達と遊ぶのに夢中だった。
高校は共学だったが理系であるため、女子は少なく、趣味の合う男子が多かった。女子と遊ぶよりも、そういった悪友と漫画談義やサッカー談義をしているほうが楽しかった。
高校にサッカー部がなかったのも原因のひとつだろう。学校のみんなが知らないところで、私は社会人に混じりフットサルをしていた。
大学に入って、初めて恋をした。人を、本気で好きになった。けれど、それも終わってしまった。
私はよく、嘘をつく。
他人にも嘘をつくし、自分自身にも嘘をつく。
私のことを周りの人は「頼りになる」「責任感のある」「なんでもできる」と言う。
けれど私は本当は、頼られるのが恐いし、責任なんて放り投げたい。もちろん「なんでも」なんてできるはずがない。
けれど私は周りの人が、それを私に望んでいるのを知っている。
だから私は私に対して嘘をつき続ける。
そうしてできあがったのが、頼りになって、責任感があり、なんでもできる、私。
いつも私は私に嘘をついている。
そうして私は、嘘に慣れてしまった。
だから私は「好きな人にフラれた」私にも嘘をつく。
初恋だったというのに、私は「好きな人にフラれた」のに泣けなかった。
「悲しい」という感情に嘘をついて、自分を誤魔化す。
「悲しい」のに「寂しい」のに、私の目からは涙がでない。
私は嘘をつき続けるあまり、どれが自分の本心なのか分からなくなってしまったのかもしれない。
「悲しい」のに泣けない。
「嬉しい」のに笑えない。
もう自分の感情なのに、どれが本当なのかも分からない。
そんな私を、私は嫌い