プロローグ~出会い~
僕は物心付く頃から人の感情や、心の声が分ってしまう子供だった。
善悪を知らない僕はそれを時折口に出しては、周囲の人を驚かせていた。
だけど、大きくなるにつれ、僕のその能力を周囲の人達は恐れた。
だって当たり前だろ。心の中を読まれてしまうんだ。
気味が悪いし、誰だってそんな人間に近寄りたくなんかないだろ。
そんなが事あって、次第に周囲から人は去り、僕は孤独になった。
生みの親でさえ僕を施設に入れた。
だから僕は思った。
この能力は人に知られてはいけないんだ。
ずっとずっと隠して行こう。知られないように…人が恐れないように…。
「おーい、おはよう!杏里!」
クラスメイトの松崎友哉が登校中の僕の姿を見つけて声をかける。
「おはよ、友哉。そういやお前風邪治ったのかよ?昨日ブラバンの練習風邪を理由に休んだろ?」
「あ、ああ!もうほら、すっかり元気!帰ってちょっと寝たら治った!あははは!」
―嘘だ―
クラスメイトが嘘を付いているのが分る。
僕、杏里こと、一条杏里はあの親にも見捨てられたテレパシー少年の慣れの果て。
現在高校1年。ぴっちぴちの16歳だ。
小学校低学年から中学が終わる頃まで児童擁護施設に入所していた。
そう、親が僕を気味悪がって虐待を理由に施設に預けていた訳だけど、僕もそこで学んだ。
能力を隠せばいい。能力を知られなければここから出られると。
そんな訳で少々時間はかかったけど、僕はこの「奇妙な能力」はなくなった、普通に少年になりましたよ、アピールを成功させ、無事退所できたのだが……
やはり、親との確執はそうそうなくなるものではない。
この春高校に進学したという理由で僕はアパートを借りて一人暮らしをする事になったという訳だ。
ま、僕としてもその方が気が楽でいいと言えばいい。無駄に負の感情に触れなくて済むし。
そうそう。僕の能力。皆は「奇妙な能力」というけど、正式は「テレパシー」だ。
なくなったアピールをしたけど、実際なくなってなどない。はい。ばっちり所持している。
でも子供の頃と違ってコントロールは上手くなった。必要に応じて行使する事が出来る。
つまり、無駄に周囲の人の感情や声を拾うことはない。子供の頃はこれが出来なくて苦労したけど…。
まぁ、ともかく普段は本当になんら普通の人と同じに生活する事が出来る。
…ただやっぱり、時々なんとなく表面上の感情などは伝わってしまうことはある。
それにしたってクラスメイトの友哉の感情は能力がなくったって分る!つーか、バレバレだろ!
同じ部活、ブラスバンド部に所属してる僕らだけど、元々練習嫌いな友哉はそうやって時々なんだかかんだと理由をつけて休む(さぼる)。
ま、僕だってそんなに真面目じゃないから別段怒ることはない。ただ本当に風邪でなかった事に良かったと安心している僕がいる。
「ま、風邪が治ったならそれでいいんじゃね?……今日はサボるなよ?」
「わかってるって!……って、だからサボりじゃねーってっ」
つい口を滑られそうになって慌てて訂正するクラスメイト。
そんな表情を見ながら僕は笑う。
なんて平和な日々。
僕に「奇妙な能力」があったってなくったって、なんら変わりのない日常。
こんな日々がずっと続くと思ってた。友人らと馬鹿な話をしあって笑って、ちょっと退屈な日々……。
だけど風が変わる。
新しい風が僕に吹きかける。
「あれ……?前のあの子。見た事のない制服着てるなー。転校生かな?」
クラスメイトの声に僕は正面を向く。
うちの学校の制服ではない、紺色の襟のセーラー服を身に纏った少女がゆっくりと振り返る。
長い黒髪に、その柔らかな笑顔。清楚という言葉が似合う彼女に周囲が釘付けになる。もちろん僕も例外でなく……
しかし次の瞬間。
僕の「奇妙な能力」が彼女の心キャッチした。そうそれはまるで……まるで……
『……ったく転校めんどくせー。皆こっちみんじゃねーよ!』
これから始まる僕の奇妙な日常の始まりの鐘の音のように…!……いや、銅鑼!?
なんたるギャップ!なんたる衝撃!!
僕はしばらく彼女から目が離せなくなった。
初めてここを利用させて頂きました。またよく分ってない事だらけですが、どうぞ宜しくお願い致します。