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「――シアにも不老不死を与える力があるということでしょうか?」
すべての話が終わったことを確認すると、顔を青褪め黙ったままのシアを気遣いながらオレは一番気になる質問をする。
「わからないわ。今まで一番最初の王女しか、その力を見せたものはいないの。それ以降は、父が身近な人間に『蘇生の術』を施すのを禁じたから」
守護騎士や守護騎士候補に『蘇生の術』を使うことが禁じられているのは、それが原因なのか。
「『蘇生の術』は巫女の対象者への想いが深いと、それに比例して強い力を出すのだろうと父は言っていたわ。だから、通常『蘇生の術』の対象患者は寝かされた状態で全身を布で覆い、手だけを出して術を施されるの。巫女が患者に対して特別な感情を抱かないようにね」
「……こちらに来る時、シアはダリヤ殿に『蘇生の術』を施しました。ダリヤ殿の身にもそういったことが起こる可能性はあるのでしょうか?」
オレの更なる質問に、サージュ様は首を横に振って否定した。
「レーシアはもう20歳を過ぎているから、それは大丈夫だと思うわ。癒しの巫女の『蘇生の術』は術が最初に使えるようになる10歳前後が一番強く、段々弱くなっていく。20歳頃にはなんとか使える程度の力しかなくなるから、それで近しい人に『蘇生の術』を使ったとしても父のような状態にはならないわ。それにレーシアはダリヤ様のことを祖父だと知らずに術を施したのでしょう? それなら、せいぜい少し人より長生きする程度だと思うわ」
サージュ様のその言葉で、こわばったシアの顔は少しだけ緩む。
「それに、父は『自分は正確には不老不死ではない』と言っていたわ。実は『蘇生の術』を施された患者たちはみな、術後しばらく病気に掛かりにくくなるし、怪我の治りも早いの。調べたわけではないからはっきりとは言えないけれど、寿命も少しは延びているのでしょうね。目に見えて分かるほど顕著ではないし、『蘇生の術』に関して研究や統計を取ることを禁じているからほとんど知られていないけれど……。
父はただとても強い『蘇生の術』を受けたただけで、不老でも不死でもない。証拠に術を受けた時に16歳だった父は千年以上経った今40代ぐらいの外見よ。何しろ18歳だったわたくしと親子としてしばらく一緒にここで暮らせたぐらいですもの。さすがに今は不信がられるから、ここに来れないのだけれどね。わたしくしも父にはずっと会っていないわ」
サージュ様は肩を竦めながら小さく笑った。
「その騎士は千年以上ずっと生き、癒しの巫女とその血縁者を守りつづけているんですね」
「ええ、そう。父は王女を亡くした時に思ったそうよ。『もし、娘に母親と同じ力があるのなら、同じことはきっと起こる。その時、きっとまたこの国は娘を守れない。そして幾ら不老不死に近いとはいえ、ただの人間でしかない自分も娘を守ることは出来ない。守れるとしたら絶対的な力を持つ神だけだろう』と。
だから、父は海を渡り他の大陸とほとんど親交がなかったこの大陸にきたの。自らが偽りの神になって娘を守るために。アーリリア教は癒しの巫女を守るためだけに小国から持ち込んだ防壁よ。宗教は国をまたがって広がる力だわ。そして、優れた技術も国をまたがる。でも医術だけでは権力者のエゴに対抗できる切り札にならなかった。医術、薬術、魔術、剣術を掌握する力と絶対的な神への信仰心、それらすべてを使って父は癒しの巫女を守ってきたのよ」
「母が不治の病だった父に『蘇生の術』ではなく、『癒しの術』を掛け続けたのは、父をその騎士と同じ境遇にさせないためだったのでしょうか?」
ずっと黙っていたシアは、硬い表情のまま口を開く。
「レージュは誰にもその行為を隠し続けたまま死んでしまったから、あの子がどんな考えで術を行っていたか本当のところはわたくしにも分からないわ。でも恐らく、理由はそれだけではないでしょうね」
「――他にどのような理由が推測できますか?」
オレの質問に黙ってサージュ様は身体を乗り出し、机越しにオレの左手首を掴んだ。
「これがもう一つの理由かしら」
「――守護騎士の刻印が、ですか?」
「おそらくね」
そう言うと、サージュ様はまだ包帯が巻かれたオレの左手首を離し、再び深く腰掛けた。
「守護騎士の刻印がどうして焼印であるのか分かるかしら?」
「――その守護騎士が『蘇生の術』を施されればすぐに明らかになるから、でしょうか?」
「ご明察、そのとおりよ。奥神殿に出入する際に必ず確認されるのは、何も本人確認のためではないわ。守護騎士に『蘇生の術』が施されていないかどうかチェックするためなのよ。施されれば、焼き印はたちどころに消えてしまうから」
「守護騎士が『蘇生の術』を施されたらどうなるのですか?」
シアが青い顔で言い募る。
「すべての権利は剥奪されて、幽閉されるそうよ。実際今までそうなった守護騎士はいないのだけれども、恐らくレーヴァンが何らかの処遇をするのでしょうね。巫女のこの力は絶対に秘さなければならないのだから。
だから、レージュは守護騎士のリュインに『蘇生の術』を施せなかったのだと思うわ」
サージュ様は悲しげに目を伏せた。オレは更に青くなってしまったシアを気にしながら質問する。
「では、ダリヤ殿も……」
「そうね、もし神殿に知られてしまえば、同様の罰が処せられるでしょうね。ただ、奥神殿に出入りしなければ刻印を確認されることはないと思うわ。ダリヤ様はもう二十年近く奥神殿へは入られていないから、不信がられないでしょう」
「そうですか……」
オレはひとまず安心するが、シアの顔色は悪いままだ。サージュ様もしきりにシアの様子を伺っている。
「レーシア、本来ならこの話は貴女が物心つく前から繰り返し母親から聞かされるべき内容だった。でも、レージュはリュインの命を永らえさせる為に早くに死んでしまったし、代わりに伝えなければいけなかったわたくしも奥神殿には戻らなかったせいで、貴女は何も知らずに今日まで来てしまった。
だから、今回ダリヤ様に『蘇生の術』を使ってしまったのだけれども、『蘇生の術』がどれほど危険をはらんだものだと分かってくれたかしら?」
「はい……」
シアは力なくうなだれ、サージュ様は思わずといったふうにシアの傍らに跪き、シアの手を握って視線を合わせる。
「貴女を責めているのではないわ。だって、貴女が知らなかったのはわくしのせいですもの。そのことは本当に申し訳ないと思っているわ。でも、これからは絶対に『蘇生の術』は使ってはいけないと約束して。
貴女の為にも、貴女の周りの大切な人たちの為にも……」
シアはサージュ様の真剣な顔をじっと見つめ返し、唇を噛み締めうなずいた。
「……はい、わかりました」




