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わたしとアルツ、そしてなぜかケニスは別の部屋に連れて行かれることになる。ヤリの怪我はこの店にある治療室で担当の医術師が診てくれるそうなので、そのままタックら三人は店員に引き摺られていった。
VIP用の応接室だという部屋に入った途端、女性はアルツに抱きつく。
「もう会えないと思ってた!」
アルツはしょうがない、といった感じにため息をついて彼女の頭を撫でる。
「別件で寄っただけだ。ポルテ達に会いに来たわけじゃない」
「それでも良いよ。会えたんだもん」
そういうと女性はアルツの胸に顔をうずめた。アルツは宥めるように彼女の背中をぽんぽん叩き、傍らに立つ彼女に良く似た男性に声を掛ける。
「クロトも久しぶり。背がまた伸びたな」
「――ぼくも抱きついて良い?」
「…………どうぞ」
苦虫を潰したような顔をしながらも、アルツはクロトに向かって手を広げ迎え入れる。戸惑うばかりのわたしに、アルツは申し訳なさそうな顔で謝った。
「こいつら、昼に言ってた手伝ってくれた仲間なんだ。ちなみに双子の兄妹」
「仲間の方は短い黒髪女性ではなかったんですか!?」
「なんでポルテの前の髪型知ってるの?」
「街に入ってから短い黒髪の女性に反応していましたから、アルツが」
「えぇ! シアは鋭いなあ」
アルツはわたしをなんだと思っているんだろう。思わずアルツを睨みつけてしまった。
どう考えてもポルテという女性はそういう意味でアルツのことが好きなのに、アルツも彼女の気持ちを知っているのに、彼女の今の髪型が誰かを思い出すのに、アルツはわたしが出会った頃の何も知らず何も分からない子どものままだと思っているのか、わたしがアルツを好きな余り嫉妬したり怒ったりしても、たいして気にせず軽く流す。
ポルテさんは涙を拭きながら顔をあげる。化粧を涙ですっかり落としてしまった素顔の彼女はひどく幼い。
「アルツの好みだと思って、別れてから髪型変えたの」
「んん? それ別にオレの好みじゃないよ」
「茶髪のふわふわした髪型の女の人を良くじっと見てたよ」
アルツは気まずげに視線を他に投げ、押し黙る。
――アルツが今もコズミさんの姿を探し続けていることは知っていた。でも、こんな形で知らされるのはやっぱり辛い。
「感動の再会も修羅場も幾らでもご自由にしてもらっていいんだけどさ、先にお金払ってもらえない?」
黙って見ていたケニスが、白けた顔で口を挟む。
「ああ、そうね。念のために来てもらったけど、問題無さそうだし担当から料金を受け取って帰っても構わないわ。ケニス、ご苦労様。流れのしょぼい詐欺師集団だったみたいだけど、ああいう輩を放置しておく訳にもいかないしね」
ポルテがアルツに抱きついたままケニスに手を振る。
「釣り師か」
アルツがケニスを一瞥し、ポルテに確認すると彼女は素直に頷く。
「そういうこと。子どもだけど頭も度胸も良くて、よく釣ってくれるわ」
どういうことだろう。アルツに確認したかったが、わたしのもの知らずは非常識レベルなので、人前で質問することを禁じられている。後で確認しよう、そう思ったのが分かったのか、アルツが説明をしてくれた。こういうことは本当に鋭い。
「こういうギャンブルの街には、素人から金を巻き上げる詐欺師がたくさんいるんだ。で、そいつらに騙される振りをして逆に騙して捕まえる手伝いをする奴らのことを、ここでは釣り師と呼んでいる」
「――でもケニスは彼らに勝ってましたよ、賭け事で」
「そうやって、最初は相手に勝たせておいて、後からイカサマで大敗させるのがあいつらの常套なんだよ。一度勝ってると、止め時が分からなくなるからね」
なるほど、だからケニスが一度負けただけで勝負を降りようとした時、彼らはあんなに怒っていたのか。お金を回収する前にやめられては詐欺にならない。
「ああやって軽く諍いを起こして、呼ばれた係りの人間に検めさせるんだよ。あいつらがイカサマしてるのは確認したし、ちょっと調べれば証拠は簡単に出る。お兄さんには迷惑かけてごめんね」
ケニスが悪びれなくわたしに謝ると、ポルテが苦い顔をした。
「子どものあんた一人じゃ釣れないからって、関係ない素人さんを巻き込むのは止めてくれない?」
「あいつらがこのお兄さんを騙そうと狙ってたから、助けるつもりで声掛けたんだけどな。感謝してもらいこそすれ、文句を言われる筋合いはないよ」
それを聞いて、わたしはほっとした。
「良かった。それならお姉さんが肺血病なのは作り話なんですね」
肺血病は特効薬が開発され、昔のような不治の病ではなくなったものの、肺以外の臓器に感染が広がれば致死率の高い病気である。大切な人には掛かって欲しくない。
「――お兄さん、お人よしだね。僕に騙されて利用されたんだよ」
アルツに貰った首飾りが壊れたことは悲しかったし、アルツに心配を掛けてしまったことは心苦しかったが、病気の方がいないのならそれに越したことはない。命に関わる問題ではないのだから瑣末な出来事だ。
わたしが「構いませんよ」と笑って答えると、ケニスは今までのふてぶてしい表情を崩して複雑そうな顔をした。
「――姉さんが肺血病で、最近薬の効きが悪いのは本当なんだ。釣り師の仕事は姉さんと一緒にやってたんだけど、病気になって僕一人でやることになってから上手くいってなくて……。
お兄さんを釣りの餌にして御免なさい」
ケニスはそう言ってわたしに再び謝った。
「それはいけません! アルツ、ケニスのお姉さんを診てもらっても良いですか?」
「シアってホントに……。まあ、それでこそシアなんだけどね」
アルツはぼそぼそと小声で呟き苦笑したが、パンと手を叩き、大きな音を立てる。
「お安い御用。オレの薬術師さんが望むままに。お坊ちゃん、紙に書いた君の住所は偽ってないかい?」
そう言ってアルツはわたしが宿に預けた紙をケニスに見せると、ニヤリと笑った。




