四嬢
とりあえずお嬢が書きたかった。
面倒を見てくれる人が、人間じゃないことを知っている。
幼少の頃、多分二歳から三歳くらい。
この話はお医者さんから聞いたんだけど、事故にあって目が覚めたら病院だったらしい。両親は亡くなってしまっていた。
幸いにも軽傷で、すぐ退院できたらしい。でも親族もいなくて。
ある一人の方が、私を引き取ってくれた。
森の中にあるお家へ連れて行ってくれて、お庭でパンケーキを食べさせてくれたんだけど、すごく美味しかった。
その時、ずっとベールで見えなかった顔が気になって、フォークを片手に、反対の手でベールを取ったんだよね。
そしたら、顔が滲んでよく見えなかった。
唖然としていたら、その人は笑って、口についたホイップを取ってくれた。
そのあとお家に戻って、髪を結んでくれた。
高い位置にある、ふたつの不格好なお団子。
ガーゼの貼られた頬で、私はにこりと笑った。
夜ご飯はお家で、コーンスープを作ってくれた。
にこりと微笑む彼の顔は見えないけど、スープは美味しい。
お風呂に入って、歯を磨いて、暖かいお布団で眠りについた。
翌朝。
目が覚めて起きると、彼の姿はない。
大きな扉を開けて外へ出ると、ベリーが生っているのが見えた。
輝く目を向けながらベリーを取りに行くと、お庭に彼の姿があった。
相変わらずベールを被っている。
僅かに血が全身に飛び散っていたが、それはすぐに塵となって消えていった。
こちらに気がつくと、笑顔を向ける。
「おはよう」
食べていたベリーで口の周りについた紫を、手で拭った。
「おいで」
その後に続いて、お家へ帰る。
洗面台で手と顔、口を洗い、タオルで拭く。
そして紙袋から現れたのは、可愛らしいお洋服。
キラキラと目を輝かせ、その服を着る。
フリフリとした可愛らしい服で、気に入っているようだ。
「買い物に行こうか」
街へ出ると、早速パン屋さんへ寄った。
「どれがほしい?」
指さしたのは、パンダと亀のパン。
彼は微笑んで、その二つを取るとレジへ向かった。
紙袋から現れたパンダのパンを、ベンチで食べる。
でも、彼は食べない。
「?」
少しちぎって、顔の前へ差し出す。
彼はまた微笑んでそれを受け取り、あーん、と食べさせてくれた。
「?」
黙々と亀のパンも食べ進める。
「麗、おいで」
抱っこされると、今度は食器屋に来た。
小さなフォーク、ナイフ、スプーン、お皿を買い占めている。
たくさんの買い物袋を持って、麗を抱いたまま家へ戻る。
ポストを覗くと、
『四条』
と書かれた手紙が一通。
お昼ご飯は野菜スープ。
ゴロゴロ入った人参を潰しながら、四条は麗に食べさせた。
着替えを済ませ、ゴロゴロと絵本を見ていると、お昼も食べたあとでうとうとしてきた。
そのままクッションで寝てしまい、四条はブランケットを麗にかける。
『消滅の呪い……ね。』
目が覚めると、何やらスープのいい香りが広がっていた。
外を見ると、あたりはすっかり暗い。
四条の元へ駆け寄ると、頭を撫でてくれた。
席に座ってスプーンを持ち、スープをいただく。
麗はお腹がいっぱいになった。
翌朝。
目が覚めると、カーテンはすっかり開いていて、庭の花がよく見える。
支度を済ませると、四条は麗に正装を着せ、持ち物を手に家を出た。
歩いていると、花束を持った人が通った。
麗はその花に目を奪われていた。
いい香りが後を追う。
「っ……」
気分が悪い。
視界は徐々にぼやけ、咳き込んで吐血してしまう。
四条は麗を抱きしめる。
「大丈夫。」
服を血で汚していくが、気にも留めない。
「ひゅーっ……ひゅー……」
過呼吸気味に息を吸う。
だんだん落ち着いてきた。
四条は麗の口元を手ぬぐいで拭う。
「今日、帰ろうか。」
麗を抱き抱えると、来た道を引き返していく。
『ーーー』
四条はそう呟いた。
一歩踏み出したと同時に景色が変わり、家の前にいた。
家に入って手を洗い、服を着替えてベッドへ行く。
「おやすみ。」
それだけ言うと、どこかへ行ってしまった。
目が覚めた時には、点滴が繋がっていた。
凄い孤独感に襲われた。
何故か急に涙が止まらなくなった。
「ぐすっ……」
点滴を無理やり取って、扉を開け、いつもご飯を食べるリビングへ行く。
四条の姿はない。
「ーーー!」
麗は泣き叫びながら外へ出た。
森の中へ入っていくと、声をかけられた。
「どうしたの?」
見上げると、藍色の髪に赤い口紅。
そして手には、あの花。
「ひゅっ……」
本能が危険だと言っている。
走っていくと、ボートのある泉に着いた。
「大丈夫だよ。怖くないよ。」
麗は首を横に振る。
「……『消滅の呪い』って知ってる?」
「?」
女はにこりと笑いながら、花束を差し出した。
「うっ……」
麗は咳き込み、過呼吸になる。
目からは大量の涙。
口からは出血。
「消滅の呪いと××は最強なんだって。」
その場に倒れようとした時。
ふわっと誰かに抱きしめられた。
誰かの声がする。
『何をしている。』
「ふっ。その子が誰か分かってないの?」
『黙れ。』
「『消滅の呪いの原型』だよね。」
女はにこりと笑う。
『ーーーーー』
鋭い氷を生み出し、こちらへ向けて飛ばしてきた。
だが当たらない。
ボートに当たったそれは、一瞬で凍った。
『ーー』
白い息が出るほど冷たく、空気は吸うたび凍てつくほどの脅威。
氷にも耐えられないほどの寒さ。
女が作った氷は砕けていく。
地面も、泉も、木も、葉も。
すべてが凍てつく。
「はっ」
一呼吸すれば、もうおしまい。
女は一瞬にして氷と化した。
「はぁ……」
白い息を吐く。
麗の視界は、少しずつはっきりしてきた。
抱き寄せていたその人は、四条。
「おはよう。一人で家から出たら危ないから、気をつけて。」
あたりの氷は嘘のように溶け始めていた。
女は、いつの間にかいなくなっていた。
麗は四条を見た瞬間、泣き叫んだ。
「ごめん。心配したかな。それと、遅くなってごめんね。」
『帰ろう。』
森を抜けると、すっかり氷はなくなっていた。
家へ入ると、四条は麗を抱きしめた。
「お願いだから、一人で外に出ないで。」
「……」
こくりと頷いた。
「ご飯にしようか。」
パンとスープとチーズを平らげ、支度を終えるとベッドへ入った。
「消滅の呪い」って、なんなんだろう。
まんぞく




