静寂世界
「わー!」
「ぎゃー!」
私は人知れずため息をつく。奇声を発しながらドタドタと走り回る子供達を見て、休日のファミレスに来たのは失敗だったと反省する。
私は大きな音が苦手だ。子供の頃からそうで、周りからは過敏だの気にしすぎだの散々言われ、今や人間不信でもある。
「きゃー!」
「(うるさ……。親は何してんだろ……)」
ちらりと子供を横目で見る。
そして、突然『それ』は起こった。
パァン。
「……え」
赤が、飛び散る。騒いでいた子供の頭が弾け飛んだと気づいたのは、柘榴の様になった子供だったものの頭と周囲に散乱する破片。
私は目の前の光景にただただ呆然とした。
「き……」
一部始終を見ていたウエイトレスがトレイを落としてガシャン! と音が鳴る。
パァン。
トレイと食器が弾け飛んだと同時にウエイトレスが悲鳴を上げる。
「きゃあああぁ!!!」
パァン。
ウエイトレスの頭が弾け飛んだ。辺りに血が飛んで他の人達も騒ぎに気づきだす。
「な、なんだ!?」
「ひっ……何これ……!!」
店内が騒がしくなる。比較的落ち着いている人もいれば、ウエイトレスの様に悲鳴を上げる人もいる。
パァン。パァン。
人々の頭が弾け飛ぶ。そこで私は気づいた。
「(悲鳴を上げた人の頭が弾け飛んでる……?)」
騒ぎを聞きつけた店員が状況を確認しに来、声を張り上げて客を誘導しようと……。
パァン。
店員の頭が弾け飛んだ。
「(違う……大声を出した人の頭が弾け飛んでるんだ……)」
パニックになり、あちこちから破裂音が聞こえる店内で、私は遠い景色を見ているみたいにどこか冷静だった。
なんとか家に帰ってネットニュースを見てみると、この現象は世界各地で起こっているらしく、世界中が大混乱になっているとの事だ。
家に帰る途中でもあの現象をたくさん見た。至るところから悲鳴と破裂音が聞こえた。
後日、政府からあの現象について発表があった。
調査によると、ある一定以上の音量を出すとその発生源が爆発するという。
人間だけじゃない、動物も、無機物も、なんであろうと爆発する。原因は不明であり、引き続き調査を続けると。
到底受け入れられる話ではない。けれど、受け入れなければ死ぬだけだ。
人々は変わってしまった世界に順応していった。
日々は過ぎ、世界の現状はというと……。
まず、人口が激減した。
赤ん坊、子供、衝動的に大声を出してしまう者や、声を出してはいけないと理解できない者達が死んでいった。
そして出生率の低下。
低下というかもはや零だ。出産時に赤ん坊は絶対に泣き声を上げる。必然的にそうなる。
人口だけではなく、動物の数も減った。
大きな鳴き声を出す動物は軒並み死んだ。ペットが死んで悲しみにくれる人が大勢いるらしい。
さらに工業の衰退。
何かを作るには大きな音が出る。工場なんて最たるものだ。
停電も度々する。
今使っているスマホも、壊れたらもう次は無いだろう。
そして文化の弱体化。
音楽はもちろんのこと、音の出るもの、絵画であろうと画材を作るのに音が出る。
これは残念だな、なんて思った。
言い出したらキリがないが、とにかくこの世界は緩やかに死んでいっている。
そんなある日、スマホに一通のメッセージが届いた。内容は……。
『この世界を悩ませている現象の元凶がわかった。けれど、それに立ち向かうには人数がいる。どうか力を貸してくれ。元凶は……』
私はそこまで読んで画面を閉じた。
私はこの世界を変える気はない。こんな居心地の良い世界を何故変える?
うるさいお喋り集団も、大声で怒鳴る上司も、爆音を鳴らす車やバイクも、私を悩ませるものはみんな消えた。
人でなしだと思われるかもしれない。
けれど、以前の世界で誰が私を助けてくれた? 正直ざまぁとしか言いようがない。
私はこの世界が気に入っている。だから私はこの世界で生きていく。
この、静寂世界で。




