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逃げ続けた私が、立ち止まった日

作者: 巳ノ星 壱果
掲載日:2026/05/09

私は、逃げ続けてきた人間だった。


楽な方へ、目をそらせる方へ。


それでも、ある出会いをきっかけに少しだけ、変わり始めた。

 第一章 逃げてきた私



 ふと振り返ると

 私は楽をして生きてきた人間だった。

 全てから逃げてきたのだと思う。


 周りが優秀すぎるあまりに、全てを投げ出してきた。

 きっと優秀な人たちは、陰でひたすら努力をしていたに違いない。


 周りには、すごい人がたくさんいた。

 当たり前のようにできているように見えていたけど、


 きっと見えないところで

 積み重ねてきたものがあったのだと思う。


 わたしにはそこが見えなかった。

 というよりも、見ようともしていなかったのだと思う。


 見てしまったら、自分が不完全な部分と向き合わなければいけないから。


 でも今は、少しだけ思う。

 ゆっくりでもいいから、自分なりに進んでいけばいいのだと。


 挑戦することにすら、怯えていたのだと思う。


「壱果ちゃんはゆとりだからね」


 その一言を、耳が痛くなるほど聞いてきた世代だった。


 ゆとりという言葉を向けられた時、

 真面目に取り組んでいた同級生たちが傷ついていたことも、きっと少なくなかったと思う。


 何も取り組んでいなかったわたしにとって

「ゆとり」という言葉は、とても楽で便利な言葉にすぎなかった。


 私は全てを、ゆとりのせいにしたかった。


 先生に叱られることもなく、

 両親に強く怒られることもなく、


 ただただ甘い蜜を与えてくれる両親に、甘えきっていたのだと思う。


「これを習いたい」と一言、気分で言えば、母はすぐに教室を調べて申し込みをしてくれた。



 でも、飽きたら


「もうやめる」


 その一言で、母はうなずくだけだった。


 自分勝手な、恵まれた環境にいたのかもしれない。


 でも、そのありがたみにも気づけなかった私は、愚かな人間にすぎないのだと思う。


 何がしたいのか、わからなかった。

 自分の特技も、見当たらなかった。


 甘い蜜の匂いを嗅ぎつけて、良いものだけを選んで吸う。


 それが、ずっと続いていた。


 ぬるま湯に浸かっているような日々

 それが、私の人生であった。




 第二章 選択と責任




 私を深く知っている友人は

「波瀾万丈な人生で大変だね」と言う。


 でも私は、自分で選んできた選択に後悔はない。


 たとえ間違っていたとしても

 それは自分で選んだ結果なのだと思う。


 だからこそ、簡単に他人のせいにはしたくない。


 例えどんな関係の中で、傷つく側になったとしても。


 それは、自分の見る目の弱さもどこかにあったのだと思う。わたしは、そうとしか思えない。


 周りから見たら、情けない姿だったとしても

 それが私が選んだ人生なのである。


 だからこそ

 心を許した相手にくらいしか

「実はこないだ大変だったんだよね」と言ったことがない。


 甘えることを、私は知らない。


 何年も何年も甘い蜜を吸い続けて、気がつけば

 私の人生は、浅くて薄っぺらいものになっていた。



 何度、過ちを繰り返してきたのか?と

 ()()()()()()()、自分に問い続けた。


 それでも答えは

 何年経っても、見つかることはなかった。




 第三章 それでも譲れないもの



 他者から見れば、私の人生そのものが

「目を背けたくなる生き方」だったのかもしれない。


 感情のままに、欲望のままに。

 それでも、譲れないものだけはあった。


 それは、私自身の信念であり、自分の選択に責任を持つということ。


 自分自身が背負ってきた傷だけは、自分で絆創膏を貼ってでも、守る。


 休んでいる暇はない。

 私は、くじけない。


 私は友人は少ないが、その数少ない友人のことを、悪く言われたとしたら?


 自分の目に映ったら?

 自分の耳に入ったとしたら?


 きっと容赦はしないと思う。


 群がるものよりも、その熱量のほうが、きっと勝る。


 譲れない本当の想いがあるのなら、私はきっと、立ち上がる。


 そんな想いを抱えながら、ずっと生きてきた。


 私自身、弱いと思われることもあるのだと思う。


 周りから見れば

 すぐに倒れてしまう木のように見えるのだと思う。


 でも、心だけは強く持つ。

 それが、私の信念なのである。


 それでも、目的は決まらないまま

 気が付けば、大人になっていた。


 いろんなことをしてきた。

 様々な人と出会ってきた。


 時には、作り笑いもしてきた。

 それが、私の生きる術だったから。


 何度回り道をしただろうか?


 時に裏切られ、沢山の挫折もしてきた。


 それでも、過去に戻りたいとは思わなくなった。


 それが、わたしの人生の転機だった。



 第4章 本物と偽物


 人生が変わったと気が付いたのは、二年前に遡る


 とある人との出会いだった


 私にとっては、敷居の高い方だった

 思わず話しかけることすら、躊躇してしまうほどの大物だった


 それなりに多くの人と出会ってきた私にとっても

 まるで雷が落ちたような、衝撃的な出会いだった。


 自分を大きく見せようとする人たちと

 これまでたくさん出会ってきた。




 コミュニケーションではなく

 ()()()()()()()()を延々と続ける人もいた。


 以前、友人に言われた言葉をふと、思い出した。


「会話はね、キャッチボールなんだよ。

 あの子のやっていることは、ドッジボールじゃない?」


 その言葉が、深く胸に刺さったのを覚えている、


 こちらが黙っているにも関わらず、延々と話を続ける。


 相槌を打つ隙も与えないまま、話し続ける。


 私がずっと黙っていることにも、気がつかないまま。


 私は、そんな人たちを何度も見てきた。


 こちらが聞き流しているにも関わらず、

 なぜ、それに気が付かないのだろうか?


 年下であれば、まだいい。

 人生経験が少ないのだと思えるから。


 でも、皆が黙っているのに

 いい年齢の大人であれば、気が付くものではないのだろうか。


 きっと一度くらいは

 誰かに言われたことがあるはずだ


「あなたの話は、誰も聞いていませんよ」と


 それとも

 誰も教えてくれなかったのだろうか?


 もしそうであれば、少しだけ、寂しいことなのだと思う。


 まるで自分を大きく見せようとするかのように

 止まることを知らない壊れたラジカセのように話し続ける。


 その時間だけ


 ふと、私の中の時が止まるのである。



「この話、いつ終わるのだろう」と




 私の時間は、24時間しかない。



 一日のルーティーンを決めている私にとって

 面白くもない会話や、自分が大切にしたい時間を削られることはただの消耗でしかなかった。


 悪口や噂話に時間を使う人たちを見て、そんなことで大きく見えるはずがないと、心の中で静かに距離を取っていた。



 第5章 本物を知った日


 その人と出会って、

 初めて、本物の佇まいというものを見た気がした。


 多くを語らなくても、私には伝わるものがあった。


 出会えたことに、自然と涙が溢れ出た。


 無理に自分を大きく見せることをしない。

 ただそこにいるだけで、空気が変わる。


 そんな人を、私は初めて見た。


 なぜ私は、全てから逃げてきたのだろうか?


 なんとなく年を重ねてきた時間が

 一瞬、無駄に思えてしまった。


 ふと、その方と自分を比べてしまった。


 その方は、何かを否定することもなく、誰かに押し付けることもなかった。


 自分自身の生き方を貫き、いつまでも学び続けるその姿勢に心を打たれた。



「この人に認められたい」



 そう、強く思った。



「人の性格なんて、変わらない」


 そう言っていた、若い頃の友人の言葉が脳裏をよぎる。


 それでも私は、ゲームをやることも、動画を見ることもやめた。


 学生時代、親に


「勉強したほうがいい」


 と言われ続けてきた。


 でも今は違う。


 誰かに言われたからではなく、自分の意思で、体が自然に動いていた。


 もう変われないと思っていた自分が少しずつ、変わり始めていた。


 もちろん、すぐに変われたわけではない。

 相変わらず、迷うこともある。


 自分の弱さも、消えたわけではない。


 それでも逃げることだけは、少しずつ減っていった。


 楽な道ではなく、()()()()()()へ。


 見て見ぬふりをしてきたことにも、少しずつ向き合うようになった。


 まだ未完成の、わたしのままだ。


 でも、それでもいいと思えるようになった。


 過去の自分を否定するためではなく、今の自分を受け入れるために。


 どれだけの長い時間、遠回りをしてきただろうか?


 でも、その分だけ、見えてきた景色もあった。


 傷ついた分だけ、気づけたこともあった。


 あの頃の自分がいたからこそ、今の自分がいるのだと思う。


 だからもう、過去を消したいとは思わない。


 どんなに無駄に思えた時間も、

 今に繋がっているのだと思えるから。


 周りから見て、どれだけ格好悪くても

 どれだけ遠回りでも


 これが私が歩いてきた道だから。


 これからもきっと迷うことはあるだろう。


 きっと、立ち止まってしまうこともあるだろう。


 それでも

 自分が譲れないものだけは、手放さずに、大切にしていきたい。


 自分で選び、

 自分で背負い、

 自分の足で歩くと決めた。


 それが今の私が選んだ道だと、身をもって知った。


 あの日のことを

 私はきっと、これからも忘れない




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― 新着の感想 ―
自分の今までを振り返り、冷静に分析して向き直ろうという姿が刺さります。 気持ちもわかるし、身につまされるところもいくつもあります。
やだ、ちょっと泣きそうになりました これから頑張れ!
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