食べられないカレーライス
「リュウジ、晩ごはんが出来たよ」
「うん」
ダイニングテーブルについてリュウジがカレーを食べ始めると父は食器戸棚から皿を出し白飯を入れカレーをかけた。
それを盆にのせる、二皿だ。
ギシ、ギシ
盆を持って階段をのぼって行く父の足音が聞こえる。
ギシ、ギシ
そして今度は下りてくる足音が聞こえた。
戻って来た父はテーブルに盆を置いた、カレーライスがのったままであった。
「お母さん、ご飯、食べないの?」
「今、忙しいみたいなんだ。邪魔しちゃダメだからね」
リュウジの母は有名な漫画家で仕事場は二階の角部屋である。
そこで若いアシスタントの男性と毎晩、遅くまで仕事をしている。
元々はリュウジの父も漫画家だったがいくら描いても鳴かず飛ばずだったので絵筆を折り、忙しい妻に代わり家事に専念するようになった。
だからこの家の主導権は母にあり父は妙に母に気をつかっているのを小学生ながらにリュウジは肌で感じ取っていた。
「お母さん、大変だね」
「うん、そうだね」
父は微笑んだ、寂しげな笑顔だった。
そして十年後。
「リュウジ、晩ごはんが出来たよ」
「ああ」
ダイニングテーブルについてリュウジがカレーを食べ始めると父は食器戸棚から皿を出し白飯を入れカレーをかけた。
それを盆にのせる、二皿だ。
ギシ、ギシ
盆を持って階段をのぼって行く父の足音が聞こえる。
ギシ、ギシ
そして今度は下りてくる足音が聞こえた。
戻って来た父はテーブルに盆を置いた、カレーライスがのったままであった。
チッ
盆にのったままのカレーライスを見たリュウジは舌打ちをした。
慌てて父が取り繕う様に言う。
「今、忙しいみたいだから邪魔しちゃダメだからね」
おどおどして完全に腰が引けている父に腹が立った。
「アンタがそんなんだから、あいつら好き勝手してるのが、わからないのか」
リュウジは激高しテーブルを叩くと部屋を飛び出し階段をかけ上がった。
そして二階の角部屋のドアを荒々しく開け
ベッドで絡み合っている二つの裸体の内、大きい方の首をしめた。
「うぐっ」大きい方は棒立ちになって変な声をあげた。
「やめて~、リュウジ、ダメよ、やめて~」
裸の母がリュウジの手に縋りつきながら叫んでいる。
「リュウジ、やめるんだ」
遅れて部屋に入って来た父の叫ぶ声が聞こえた。
「お前ら、どうかしてるよ」
リュウジはこめかみに青筋をたてながら両手に力をこめた。
動かなくなった大きな裸体を両親は納戸にしまうと階段に並んで座った。
「彼、天涯孤独だったから・・きっと死んだ事はバレないわ」
「そうか・・でも、これから・・どうするんだい?」父は暗い顔で母に尋ねた。
「・・そうね・・もうダメかも・・」母はそう言うと美人漫画家として有名な麗しい頬を涙で濡らした。
十二年前、漫画家だった母は、描けなくなった。
そしてストーリーがまるで浮かばなくなって二年が経った。
このままでは路頭に迷う事になる・・
後がない状態の両親の前に現れたのが、小説家志望の若者だった。
彼は美人漫画家の熱狂的なファンだった。
母は彼と取引した。
ストーリーを提供してもらう代わりに、若者を受け入れたのだ。
そして父はそれを黙認するしかなかった。
「どうしよう・・」
「どうしましょう・・」
ゴーストライターを失って途方にくれる両親の背中をリュウジは見ていたが、ふと気配を感じて・・納戸に目を向けた。
本当のゴーストになってしまった若者がうらめしそうに佇んでいた。




