たそかれ
なんてことない日だった。
放課後、クラスメイトと談笑し自転車を押しながら帰る。
昼と夕の混じり合った空は相反することなく溶け合っていた。
1人、また1人と道を別れついに1人になった。
いわゆる逢魔時。
夕陽に照らされ数メートル先の相手の顔すら見えない時間。
なんでも黄昏時というのは「誰そ彼(だれですか?)」というのが語源だという。
であれば僕はまさに今、この言葉が最も適していると思う。
眉下まで下りた前髪は、夕陽も相まって十分な雰囲気を醸す。
決して違和感のある服装でもない。
髪型も鞄も、なんの違和感もない。
普通の女子高生と言われればそれまで。
ただ道路の真ん中で山間に沈む夕陽を見つめる彼女の姿は僕にとって、異質であった。
「なは、あをいかに見ゆるか。」
透き通るような美しい声が鮮明に聞こえたかと思うと、少し考えたように彼女は口元に親指を当てうーんと唸る。
あの、と口を開きかけた時。
「君には私がどう見えてる?」
聞き馴染みのある言語、どうやら分かりやすく話そうとしてくれているそうだ。
「どうって、普通…?の女子高生ですかね。」
「ならいっか。」
数秒、沈黙が流れる。
見た目は男性な顔立ちをした女子高生、しかし異質と言わざるを得ない彼女に聞かずにはいられなかった。
「人…ですか?」
全くおかしな質問だ。
失礼を働いたと取り消そうとした時彼女はニカッと笑い話し出した。
「良い感を持ってるね。いやー私がなりきれてないだけかなぁ。結構自信あったんだけどなあー。」
「あの、…どなたなんですか。」
「神だよ。君らの言葉でいうならね。」
神、ヤハウェーや観音様、人から神化したイエスや仏陀。世界には名だたる神がいる。
日本なら天照大神や素戔嗚なんで有名だろうか。
彼女はなんの躊躇もなく続ける。
「神と言っても君らの想像する神のまた一つ上なんだけどね。アメノミナカヌシって呼んでもらってるみたいで、ははは。」
「すみません。聞いたことない名前ですね…。」
「まあ知らしめるには情報が少なすぎたかもね〜私。」
「もしあなたが仮に神だとして、こんな辺鄙な所で何を?」
「ちょっとした問題を解決しにきたんだ〜。もちろん君たちのためにね。」
終始話にはついていけないが、なぜか話がすんなり入ってくる。
どう考えたって嘘八百だ。
頭ではわかっている、しかしこの人を疑うことなど自分にはできない、と同時に本能で理解していた。
「家、行っていい?」
「あ、いや家ですか…なんというか姉が家にいるのでその女の子をあげるとかは…。」
「神の話、少し聞かせてあげるよ…。」
危険な好奇心もあると思えなかったのは彼女の放つオーラのせいなのか、自分がとてつもない愚者なのか。
二つの影が長く伸びていた。