2-3,物語で何かしらトラブルに巻き込まれないと進まないよね?
勢いよく事務所を飛び出し街中を走り回っていたサキだったが――ふと、とある重大な事を忘れていた事を思い出し足を止め、両手で頭を抱えその場に蹲ってしまった。その重大な事とは……。
「…し、しまったー。私……息子さんの事について詳しく聞くの忘れてたー。」
そう。助けたいという気持ちだけが専攻してしまい、肝心の“探す相手の情報”を一切聞かずに飛び出してきてしまという致命的なミスをしてしまったのだ。
更に、サキはこの街に来たばかりで地理もほとんど把握していないまま走り周り、気づけば知らない路地裏らしき所に立っていた……要するに迷子である。
迷子にもなり、肝心な捜索相手の情報も聞き忘れるという二重で恥ずかしい思いをしたサキは顔を真っ赤にさせその場で動けないでいると……。
「おうおう、そこの可愛いお嬢ちゃん。どうしたんだい、こんな薄暗い所で一人寂しく泣いちゃって。」
突然、路地の奥からいかにもガラの悪そうな三人組の男たちがこちらに歩いてきた。ひとりは頭を派手なモヒカンにし、破れた袖から筋張った腕を覗かせ、もうひとりは口元にいやらしい笑みを浮かべ、手にしたナイフのようなものをペロリと舐め、 最後のひとりは腕を組んだまま、サキを値踏みするようにじろりと見下ろしている。まるで世紀末からそのまま飛び出してきたかのような、いかにもガラの悪い三人組だった……というか出る作品を間違えていませんかね?
「迷子か~?だったら俺達が優しく道案内してやるぜ~。」
ガラの悪い男の一人がニヤニヤと笑いながら話し、最後には奇妙な悪い声でサキに話しかけた。サキがどうしようと悩んでいると……突然、三人組の一人が背後から誰かに物凄い勢いで蹴飛ばさせ、そのまま近くにあったゴミ箱に一直線に向かい……。
ガッシャァァン!!
派手な音とともに、男はゴミ箱の中へ頭から突っ込こんでいった。その衝撃的な光景に、残りのチンピラ二人はぽかんと口を開けたまま固まっていると……。
「おい、そこのチンピラ。な~にうちの可愛い看板娘をたぶらかしてんだ。」
チンピラの背後から突然、聞き覚えのある男の声が聞こえ、その声に残りのチンピラ二人が反応し後ろを振り返るとそこには――片手にホットドッグを握りしめ、そのホットドッグをもぐもぐと頬張るクロトが立っていた。
「あーん、なんだてめぇ! やんのかあーん!」
チンピラの一人がクロトに食って掛かるが、クロトはお構いなくホットドックを頬張り続けそのいけ好かない態度に腹を立てたチンピラが怒りに任せてナイフを突き立てた。
「クロトさん!!」
クロトを心配するサキの悲鳴が路地裏に響いた……が、その瞬間――
パキッ!!
という乾いた音が鳴ったかと思うとクロトの手元から何か黄色い何かと赤い何かが飛び出し、そのままチンピラの目に直撃。
「ぎゃあああああああっ!!」
大きな叫び声をあげながら、その場で両目を押さえて悶絶してしまった。すると、一人のチンピラが雄たけびを上げながら突進してきたが、華麗にかわす。勢い余って通り過ぎたチンピラは、慌てて振り返ると目の前に円盤状の何かが飛んできてそのまま直撃。チンピラは変な声を上げながらそのまま地面に転がりるように後ろに倒れ込み、円盤状のなにかは男の目の前で“カランカラン…”と軽快な音を立てて跳ね返った。よく見るとそれはゴミ箱のフタで、クロトがまるでフリスビーでも投げるかのようにフタを投げたようだ。
一瞬のこと過ぎて何がどうなったのか分からず目を丸くし驚いていると、クロトが近づいて来て手に持っていた後一口のホットドックを口に頬張り全部食べ終わった。
「全く、一人で勝手に突っ走ってまたこんなトラブルに巻き込まれて。あれなの、トラブルにまきこまれないと死ぬ病気かなんかなのか君は?」
「私だって好きで巻き込まれてるわけじゃないですよ!」
顔をぷくっと膨らませクロトに言い返えす。クロトはさり気にサキに手を伸ばし、サキもその手を掴み足りあがった。立ち上がったサキは手で埃を叩き落とし辺りを見渡し、目の激痛に悶絶しているチンピラに目が止まり、何をしたんですか?と尋ねる。
「……ん?あーこれ。」
手元から小さなプラスチック容器見せた。それは、よくコンビニとかでホットスナックを買うと付いてくる、マスタードとケチャップが半分ずつ入った“パキッテ”だった。後でホットドッグにかけるために持っていたそうだ。
サキは目を丸くして口をポカーンと開け驚いていた。そんな“無防備すぎる顔”を見た瞬間――
パシャリ!
カメラのシャッター音らしき音が耳に入った。その音にハッと我に返り音の方に目を向けると、片手にスマホをこちらに向けるクロトの姿があった。
「何してるんですか?」
声色を変えジトーとした目でクロトを睨みつけるサキに、またシャッター音が響いた。
「って、なんでまた撮るんですか!」
「なぜって? ふ、それは……そこに可愛い顔があったから!!」
顔を真っ赤にさせ声を張り上げながら怒るサキに対しクロトは、拳を握りしめキリっとした顔で言い切った。その姿はまるで物語のクライマックスで決め台詞を放つ主人公のようで……いやこんなところで主人公感をだされても困る……。
「さて、可愛い写真も撮れたことだし。いくぞサキ。」
「あ、ちょっとクロトさん!その写真消してくださいよ!」
満足したクロトは、写真を撮ったスマホをポケットにしまい、まるで何も無かったかのように背を向け何処かへ歩き始め、サキはさっき撮られた恥ずかしい写真を消すように促しながら後を追った。




