2-2,考えるより先に身体動いてしまうことってあるよね!
「そういえば、サキ。あなた何か特別な能力とかあったりするかしら?」
何でも屋に入ってすぐ、シーナの問いが投げかけられた。 その言葉にサキは一瞬ビクッと肩を震わせ、冷静を装いながら返答する。
「えっと、特別な能力……ですか。」
「ええ。もし何か持っているのなら教えて貰えると助かるわ。その能力にあった依頼をあなたにお願いすることができるからね。」
サキは言葉を探すように視線を宙に泳がせた。 冷静を装ってはいるものの、額にはじんわりと汗が滲み、指先は落ち着かず小さく動いている。
「……えっと、戦う力とかそういったものはないんですが。その……人を癒す力を持っています。」
「人を……癒す? 可愛いあなたを見て精神的に癒すという意味かしら?」
恥ずかしいことを平然と告げられ、サキは思わず声を張り上げる。
「いや、そういう意味じゃありませんから!」
顔は一瞬で赤く染まり、耳まで熱を帯びる。慌てて両手を振る仕草がぎこちなく場に残り、空気は張り詰めた緊張から一転して、どこか微笑ましいものへと変わっていった。
「そうではなくて、傷ついた人……というか生きている生物のケガを治癒する能力です。」
「治癒する能力……ね。……ちょうどいいわね。」
能力を聞いたシーナは少し考え込んだ後、治癒能力が本当かどうか試すために、二話の冒頭からずっと包帯ぐるぐる巻きで天井にぶら下がっていたミイラ男の紐を切り落とし床に落とした。床に落ちたとき、鈍い音と共に妙な声が響いたがあえて聞こえなかったふりをした。
「そこに転がっている男を治してみてもらえるかしら? あなたの能力を疑っているわけではないんだけど一度この目で確かめてみたいのよ、出来るかしら?」
サキはクロトの現状を確認し少し暗い表情を浮かべしばし考え込んだ後、出来るか分からないがやってみます!という意気込みでクロトを治癒し始めた。両手をクロトの方に向けそっと目を閉じ、祈るように深呼吸する。すると、サキの両手が淡く光だし、じんわりとその光が広がり始めた。その光景に驚きを隠せないでいたシーナだったが、だがそれ以上に目を見張ったのは――先ほどまでボロボロだったクロトが、光に溶けるように少しずつ癒えていき、しばらくすると完全に傷が無くなりだした。そして徐々に光が収まり、完全に消える頃にはクロトもすっかり元通りになっていた。
治癒が終わると、サキの額から汗が伝い落ち、少し疲れた様子で荒い呼吸を繰り返していた。 その姿を見てシーナが考え込んでいると、突然クロトが目を覚まし勢いよく起き上がる。
「はっ! ここは一体……俺は何を……」
テンプレートのような台詞を口にしながら周囲を確認していたクロトの視線が、シーナに止まった。 次の瞬間、憎しみを込めた叫びと共に襲い掛かる――が、見事に返り討ちに遭い、再び床に転がることとなった。シーナはまるでゴミを片付けた後のように両手を交差させ、パンパンと軽く手を払い、 サキは慌てて駆け寄り、ボロボロになったクロトの傍らに近づき再び治癒をかけ始めようとした時……。
――ピロピロピローン♪ ピロピロピローン♪
突然、コンビニの入店音のような電子音が鳴り響き、その音に驚いたサキだったが、すぐにシーナがこれはインターホンの音だよと説明すると……。
「「「いや、これ……絶対におかしいでしょ!!」」」
綺麗なツッコミを炸裂させたサキをよそに、シーナは冷静に玄関へと歩みを進める。そして扉に手をかけ、ゆっくりと開いたその瞬間――
「た、助けて下さい!!」
勢いよく獣人の女性が飛び込んできて、切羽詰まった声で叫んだ。何事かと思い、とりあえずその女性を落ち着かせるため、シーナは事務所の中へと案内した。 女性は肩で息をしながらも、シーナに導かれるままソファーへ腰を下ろし、その対面のソファにシーナが静かに座り、依頼人をじっと見つめる。部屋の空気は張り詰めていたが、その横ではサキがボロボロのクロトに治癒を施しながらも、依頼人へと顔を向けていた。
しばらく沈黙の時間が流れ、獣人の女性は肩で息をしながらも、やがて落ち着きを取り戻し、震える声で口を開いた。
詳しく話を聞くと、どうやら数日前から自分の息子が家に帰ってこず行方が分からないため息子を探して欲しいとの事。
行方不明者の捜索は本来、警察や自警団といった組織に頼む常識だが、
警察や自警団に相談しても、のらりくらりと返事するばかりでまともに取り合ってくれないとのこと。
恐らく、自分が獣人だからまともに相手をしてくれないのだろうと説明。
確かにこの国は、他の国に比べ比較的平和であり種族間同士のトラブルも少ない、だがそれでも決してゼロというわけでもない。
一部の者は自分以外の種族の事をよく思わない人も存在するのも事実。
警察などに頼ることが出来ないと悟った女性は、途方にくれどうしたものかと考えていると。
風の噂で、どんな種族だろうと依頼すれば受けてくれるという何でも屋があると知り、藁でもすがる思いで家に依頼しに来たそうだ。
そしてある程度話した女性は、目に涙を浮かべ両手で顔を覆うように再び泣き出してしまった。
胸を締め付けられるような思いで聞いていたサキは、どうにかしてあげたい――そう強く願い、突然立ち上がり依頼人の傍に駆け寄り、依頼人の手をギュッと握りしめた。
「安心して下さい!必ず息子さんを探して見せますから!!」
そういうとサキは一目散に一目散に玄関へと飛び出していった。 その背中は迷いなく、ただ「助けたい」という思いに突き動かされているようだった。その突然の行動に、驚いたシーナはすぐに先を止めようとしたが時すでに遅くサキは走り去ってしまった。 普段なら冷静に状況を見極めるシーナだったが、サキの無鉄砲な飛び出しは予想外で、頭を抱え深いため息をこぼしてしまった。シーナは依頼人の女性へ向き直り、静かに謝罪の言葉を口にする。 女性は涙を拭いながら小さく首を振り、かえってその真っ直ぐさに救われるような表情を見せる。 シーナはその様子を見届け、再び深く息を吐き頭を抱えながら、倒れているクロトに話しかけるのだった……。




