2-1、何でも屋の朝って壮大だよね!?
サキは目を覚ました。視界に映ったのは見知らぬ天井。 気づけばいつの間にかベッドで寝ていた。とりあえず身体を起こし、周りを確認する。 見慣れない家具、知らない部屋。
(ここは……どこ? どうして私はここで寝ていたの?)
昨日の記憶を辿らせていた――確か昨日は変な事件に巻き込まれて、あれやこれやと事件が解決してそれから…。
(そうだクロトさんと話していたら急に力が抜けてそれから…もしかしてここって……クロトさんの家!?)
その考えが頭をよぎった瞬間、サキの顔は一気に真っ赤になった。
「~~~~っ!!」
頬から熱がこみ上げ、顔から湯気が立ち上ってきた。 ベッドの上で慌てて身を縮めていると――。
コン、コン。
扉の外からノックの音が響いた。 ノックを聞いた瞬間、サキの心臓は跳ね上がる。
(ま、まさか……クロトさん!?)
心臓の鼓動が早くなり、どうしようと考えていると――ガチャリ、と扉の開く音が響いた。慌てて姿勢を整えたその瞬間、部屋に入ってきたのは――。
「あら、起きていたのね。」
落ち着いた声とともに現れたのは、シーナだった。
「え?あ、あなたは…あの時の」
シーナの姿を見た瞬間、サキは変な妄想をした自分に対し恥ずかしくなり顔が一気に熱くなる。
「~~~~っ!」
恥ずかしさに耐えきれず、サキは布団に顔を埋めてしまった。シーナはそんなサキを見て…。
「大丈夫? 顔が赤いようだけど……どこか痛むのかしら?」
「え、あ、あぁ……だ、大丈夫です! 大丈夫ですから!」
顔の赤さを心配されてしまい、余計に恥ずかしくなったサキは慌てて話題を切り替える。
「そ、そういえば……ここはどこなんですか? どうして私はここに?」
「あ、そうだったわね。説明がまだだったわ、ごめんなさい。」
シーナは落ち着いた声で続ける。
「ここは何でも屋の事務所で、昨夜、あなたが急に倒れてしまったから、とりあえず私たちの事務所に運ばせてもらったの。おそらく緊張の糸が切れて、一気に疲れが出てしまったんでしょうね。」
「そうだったんですね……ありがとうございます。」
サキは胸を撫で下ろし、ひとまず安堵の息をついたが…。
(あれ?私…たち?)
ふとシーナの言葉に違和感を覚えた。
「あの、さっき私たちっていいましたか?もしかしてこの事務所にはあなた以外誰かいるですか?」
シーナは少し肩をすくめ――しかし、笑みではなく、わずかに怒った顔を見せた。
「ええ、もちろんよ。あなたも知っている人が一人ね。」
そう言われ、二人は階段を降りて一階へ向かう。そこは何でも屋の受付らしき部屋だったが、サキの目に飛び込んできた光景は常識を超えていた。なんせ天井から吊るされている、包帯ぐるぐる巻きの人影があったらかだ!
「「「なななななんですかあれ!?」」」
驚愕な光景思わず大きな声でツッコミを入れてしまうサキ。すると天井から吊るされたミイラ男が、モゴモゴと何か言いながら急にクネクネと暴れ始めた。
「んんんん~~っ! ……おろせぇぇぇ……!」
包帯に巻かれた体がギシギシと揺れ、まるで奇妙なダンスを踊っているかのように天井からぶら下がる。 その異様な動きに、サキは絶句した。
「……え、えぇ……な、なんですかあれ…」
「クロよ。」
シーナは淡々と告げた。
「…えっ!? あ、あれがクロトさん!?」
サキの声が裏返り、驚愕のあまり目を丸くする。
「ど、どうしてクロトさんはあんなことに?」
サキは恐る恐る尋ねる。
「ああ、あいつは私の大事なプリンを奪って逃走したから、その罰よ。」
シーナは少し怒った顔で淡々と答えた。
「あ~……」
サキはもう納得するしかなかった。
「そういえば、お互い自己紹介がまだだったわね。私はシーナ。」
シーナはサキに手を差し出し、握手を求める仕草を見せた。
「あ、よろしくお願いします。私はサキって言います。」
「サキね。改めてよろしく。」
少し緊張しながらも自己紹介を終えたサキは、シーナと軽く握手を交わす。 その瞬間、ほんのわずかに緊張がほぐれ、胸の奥に温かい安心感が広がった…その時。
――ぐぅぅぅ。
静かな部屋にサキのお腹の音が響き渡り、サキは顔を真っ赤にして慌てて両手でお腹を押さえた。シーナは目を瞬かせ、すぐに口元を緩め…。
「ふふ、朝ご飯まだだったわね。すぐ用意するわね。」
サキは顔を下に向けてながら小さく顔を縦に振った。
受付の奥にある小さな食卓に軽い朝ご飯を用意してテーブルに並べた。湯気の立つ味噌汁、焼き鮭、ほかほかの白いご飯、そして漬物が小皿に添えられている。 質素ながらも心が落ち着く献立で、朝の空気にぴったりだった。
「さぁ、どうぞ。」
シーナが手を軽く差し向けると、サキは緊張気味に箸を取った。
「……いただきます。」
小さな声で呟き、味噌汁をひと口すすると、ふわりと広がる出汁の香りに思わず目を細める。
「おいしい……」
サキの頬がほんのり緩み、赤みが残る顔に安堵の色が差した、するとサキは箸を止めて少し考え込んだかと思うと、シーナの方をじっと見つめた。
「あの……シーナさん……」
問いかけられたシーナも顔を向ける。短い沈黙が流れ、やがてサキが口を開いた。
「あの……もし可能でしたら……わ、私を……。私をここで雇ってくれませんか?」
「いいわよ。」
「……へ?」
真剣な面持ちで言葉を紡いだサキだったが、あまりにも軽い返答にハトが豆鉄砲を食らったような顔になってしまう。
「ほ、本当にいいんですか?」
思わず聞き返すサキ。
「ええ、本当よ。」
シーナは肩をすくめ、まるで当たり前のことのように微笑んだ。
「提案した私が言うのもあれなんですが……本当にいいんですか? こんな身元も何も知らない人を、そんな簡単に入れてしまって。」
サキは不安げに続ける。
「それに、こういうのはもっと上の人と慎重に話し合って決めた方がいいのでは……」
「大丈夫よ。」
シーナはきっぱりと言い切った。
「私が見て大丈夫と判断したのだから大丈夫。誰が何と言おうとね。」
か、カッコいい……!
シーナの男前な発言につい心がときめいてしまったサキ。これ、誰が主人公か間違えるレベルなのでは……。
「まぁ、それにうちには訳ありな奴らしかいないから、今さら一人二人増えた程度でどうこうでもないしね。」
「そうなんですか……」
「ええ。まぁ、とりあえずこの話は後にして、今はご飯を食べましょ。」
「はい!」
二人が仲良く会話している隅で、完全に存在を忘れられているミイラ男……。
食事を終えた二人は、改めて何でも屋ついて話し出す事に。
「それじゃあ、改めてうちに入ってもらう訳だけど……」
シーナが真剣な声で切り出す。
「まず、うちは“何でも屋”って呼ばれてるけど、実際は依頼の内容がかなり幅広いの。掃除や買い物の代行から、ちょっとした護衛や調査までね。」
シーナは指を折りながら説明する。
「意外と多いんですね。」
サキは小さく頷き、納得したように微笑んだ。
「ええ。まぁ、うちには――あれ、《クロト》の他にもう二人いるんだけど。二人は今、別の依頼で手が離せない状態だから、人手はいくらあっても困らないのよ。」
シーナは深くため息をついた。……かなり疲れが溜まっているようだ。
「そんなに忙しいんですか?」
サキが恐る恐る問いかける。
「え、いや別に仕事自体が忙しいというわけではないんだけど……ちょっと、あれも含めて癖が強めな奴らばっかりでね。」
シーナは肩を落とし、再び深いため息を吐いた。とても苦労している様子がありありと伝わってくる。
「とにかく、うちに入ってくれるなら大歓迎よ。改めて私からお願いするわ。」
そう言ってシーナは立ち上がり、サキに手を差し伸べた。
「は、はい……! これからよろしくお願いします!」
サキはすんなり握手に応じ、緊張と喜びが入り混じった笑顔を浮かべる。
こうしてサキは、無事“何でも屋”の一員となったのだった。




