5-1,見た目で判断していると痛い目にあうぞ!!
何でも屋に入って数日――。
今日もこれといった依頼は一つも来ず、ただ時間だけがだらだらと溶けていく。そしていつもの居間には、クロトとサキ、そしてスキ太郎の姿があった。
「おりゃおりゃおりゃー!」
「なんのこれしきでござる!」
クロトとスキ太郎は、今人気の大乱闘ゲームで真剣勝負の真っ最中だ。
「今だ!」
「ふ、甘いでござるよ。避けてからカウンターでござる!」
「ぬおー! 負けたー!!」
「ふふふ、まだまだでござるなクロし」
クロトは両手で頭を抱え、心の底から悔しそうな顔をし、スキ太郎は満面の笑みで勝ち誇っている。
「もっかい! もう一回勝負だ!」
「ふふふ、何度やっても同じでござるよ」
「……あのー、二人とも。一体何をやっているんですか?」
そんな二人の背後でずっと見ていたサキがじと目で二人に問いかけ、クロトは振り返り、胸を張って言う。
「何って見ればわかるだろ! 男と男の真剣勝負をしてるところだ! 邪魔をするな!」
「そうでござるよ! 男と男の真剣勝負でござる!」
二人の堂々とした反論に、サキは俯き、肩をプルプル震わせ――次の瞬間。
「……な……何が真剣勝負ですかぁー!!」
「「ぎゃぁーー!!」」
昭和の親父のような勢いでテレビをひっくり返し、大の大人二人をその場で正座させた。
「今は、仕事中でしょうが! それなのに何呑気にゲームなんかしてるんですか!!」
「いや確かにサキ殿が言いたいことはわかる。しかしここ最近、これといった依頼が来ず暇を持て余しているのであってでござるな」
スキ太郎の言葉に、クロトも勢いよく頷くがサキが鬼の形相で二人を睨みつけ二人は固まってしまった。
「確かに最近依頼が来ないのは事実ですが!それならチラシを作って配るとか、SNSで宣伝するとか色々あるでしょ!」
サキは必死に案を出すが――
「いやー、無駄だよきっと。今どきチラシ配ったって誰も見ないし、SNSで宣伝したって、無料ゲームに出てくる鬱陶しい広告みたいにスルーされるだけだよ」
クロトはサキの提案を一刀両断し、再び漫画へ視線を戻す。……というか、返答が妙に生々しい。
「じゃあどうするんですか!」
サキが詰め寄ると、クロトは顎に手を当て、思いついたように言った。
「うーん……じゃあ駅のホームに黒板を設置して、困ったことがあったら“XYZ”って書いて――」
「いやそれ別のなんでも屋が来ちゃいますよ!!」
サキの全力ツッコミが炸裂した、その時――
――ピンポーン。
突然、事務所のインターホンが鳴り響いた。
「ほ、ほら噂をすればなんとやらだぞ!」
インターホンの音が鳴ったことをサキに伝えると深いため息を吐いたあと、玄関の方へと歩いていき、そっとドアノブを回し、ゆっくりと扉を開ける。
「はーい、どちらさ……ま」
ドアを開けた瞬間、サキは目の前に立っていた人物の格好を見て固まってしまった。
・血管が浮き出るほど鍛え抜かれた太い腕。
・タンクトップ越しでも分かる分厚い胸板。
どこぞのボディービルダーと間違えられてもおかしくないほど立派な体格。――だが、それ以上に衝撃だったのは。その大男の顔が、なぜか――ウサギの被り物 だったことだ。顔は可愛いうさちゃんフェイスなのに、身体はゴリラ並みの筋肉という、お巡りさんが職務質問しに来てもおかしくないレベルの奇妙なギャップ。そのあまりのインパクトに、サキはしばらく放心状態になり、
口を半開きにしたまま固まってしまった。玄関には、ただ静かな沈黙だけが流れる――。
……
「……あ、あの」
しばらく経ったあと、巨体の男性が喉を震わせ、絞り出すような声でサキに話しかけた。その声に、放心状態だったサキはようやく我に返る。
「はぁ! す、すみません。え、えっと……それで、あなたはどういったご用でうちに来られたのでしょうか?」
「……」
サキの問いかけに、ウサギの被り物の大男は黙り込んでしまい、再び沈黙が落ちる。サキは困ったように眉を下げ、恐る恐る声をかけた。
「あ、あの~……?」
すると――
「……ぃ……」
大男は顔をモゴモゴと動かし、何かを小さな声で呟き始めた。
「へ? 何ですか? すみません、もう少し大きな声でお願いします」
「……い……らぃ……い……依頼……があって……きました」
「あ、うちに依頼をしに来たんですか。すみません、何度も聞き直してしまいまして。では詳しく依頼内容を聞きたいので、中へどうぞ」
まるで勇気を振り絞って声を出したかのように、か細く途切れ途切れの声。ようやく目的が分かったサキは、礼儀正しく頭を下げ、依頼者を事務所内へ案内した。
クロトたちがいつも集まる居間まで依頼者を案内し、客用ソファに腰かけてもらった。……が、その瞬間。
ミシッ……ミシミシ……!
依頼者の巨体が沈み込むと、ソファは悲鳴を上げながらあり得ない形に凹み、布地は引きつり、脚はわずかに傾き、今にも折れそうな不安定さを漂わせていた。クロトとスキ太郎は依頼者と向かい合うように腰を下ろし、サキはお茶を出したあと、そそくさとクロト達の後ろに回る。
「それで、うちに依頼しに来てくれたって聞きましたが。どういう依頼を?」
クロトが問いかけるが、依頼者は大きな手をぎゅっと握りしめたまま、微動だにしない。まるで仁王像のように固まっている。気まずくなったクロトが、そっとサキ達の方へ顔を向け、小声で囁く。
「……おいおい、なんでさっきから黙ったままなんだよ」
「わ、分かりません。」
サキも同じく小声で返すが、顔は完全に引きつっている。
「てか、何なのあの人の恰好……。あの人スゲー怖いんだけど、スゲー不気味なんですけど」
「失礼でござるよクロし。人を見かけで判断しては――」
「おめぇーにだけは言われたくないんだよこの昭和オタクが!」
その瞬間、スキ太郎の中で何かがブチッと切れた。
「はぁー!! 何でござるか! クロしもオタクのことを馬鹿にしているでござるか!!そうであるなら、いくらクロしであっても許さないでござるよ!!」
「誰もオタクを馬鹿にしてねぇだろうが! お前の恰好が古いって言ってるだけだろうが! 一体いつの時代の服だよそれ! もう少し時代に合わせろ!」
「ちょ、ちょっと二人とも! お客様の前でそんなみっともない姿を見せないでください!!」
サキが慌てて止めようとするが、“クロトVSスキ太郎”の口喧嘩は完全にヒートアップ。
その時――
ドガァンッ!!
大きな爆発音のような音が事務所内に響き渡り、それを聞いた三人は驚いて音のした方へと顔を向けた。
そこには――
上半身を九十度に折り曲げ、深々と頭を下げている依頼者の姿。その衝撃のせいか、目の前のテーブルは見事に真っ二つに割れていた。三人は目を点にして固まる。
「「「……え!?!?」」」




