4-5,面白そうだったかで許されるのは幼稚園児までだよね!!
間一髪、クロトがサキを抱きかかえ、飛んできたナイフを紙一重でかわした。
「あ、ありがとうございます。クロトさん」
「おいおい、一体何がどうなったんだ!?」
突然すぎる事態に思考が追いつかなかったが、だがロボメイドは容赦なく、次々とサキめがけてナイフを投げ続ける。クロトはサキをお姫様抱っこしたまま、悲鳴を上げながら左右へと跳び回った。その様子を横目で見ていたシーナは、状況が掴めず完全に混乱していた。
「へ、何? 何がどうなったわけ。ちょっとミオ、どういう事か説明しなさい!」
いつの間にか横にいたミオの襟首を掴み上げ、説明を求める。しかしミオはなぜか落ち着き払った声で淡々と説明を始める……かと思われたが。
「まぁまぁ落ち着いてよシーねぇ。ドーナツでも食べる?」
「食べない!! というかそんな呑気にしている場合じゃないでしょ!!」
どこから取り出したのか分からないドーナツを差し出すが断られてしまい、仕方なく自分で食べることにした。
……いや自分で食べるんかぃ!
「安心してよシーねぇ……モグモグ。今のコンちゃんは……モグモグ。獲物を仕留める……モグモグ。」
「物を食べながらしゃべるんじゃありません!!」
ドーナツを頬張りながら喋るせいで何を言っているのか聞き取れず、さらに礼儀の悪さに耐えきれなくなったシーナは、まるで母親が子どもを叱るようにミオへ礼儀指導を始めるのだった。ミオが礼儀指導を受けている間にも、ロボメイドの攻撃は容赦なくクロト達に振り注ぐ!
「ちょ、ちょっと!? し、シーナさん!? 今はお説教とか良いから……これ何とかしてくれぇぇぇぇ!!」
クロトはサキを抱えたまま、必死で避け続けながらシーナに訴えかけていた。
「あ、そうだったわ。ミオ! あのメイドを止める方法はないの?」
シーナはミオを自分の顔の高さまで持ち上げ、ほぼ揺さぶる勢いで問いただした。ミオは食べていたドーナツを……。
ゴクン
と飲み込み、少し考え込んだ後――ゆっくりと口を開く。
「えーっと……ないです」
あまりにも爽やかに言い放たれ、シーナの表情はさらに険しくなった。
「ないってどういう事よ。あれはあんたが作った物でしょ。だったら停止ボタンとか、なんかあるでしょ!」
「そんなものはないよ。あるのは、さっきシーねぇが間違えて押した起動スイッチだけだよ」
「間違えてって……しっかり管理していないミオのせいでしょうが!!」
シーナは両手でミオの頬を挟み、上下にぐにぐにと揺らすようにして引き伸ばした。
「うう、止めてよ……」
ミオは、つぶれた犬のような顔で可愛らしく懇願する。……が、シーナは止めなかった。
「というかそもそも!なんで起動ボタンを押しただけで、あんな暴走状態みたいな事になるのよ!!」
「うう……だって。……その方が面白そうだったから!!」
その言葉を聞いた瞬間……
ブチッ
と何かが切れる音がシーナの内側で鳴り響いた。
「面白そうだったからって、何でも許されると思うなよー!!」
シーナは両手をグーに変え、ミオの頭を左右から挟み込むようにして――
グリグリグリグリ!!
「ぁああ、あぁあ……あぁあ!!」
ミオは涙目でバタバタしながら、まるで某クレヨンアニメの“母に叱られる子供”そのものだった。
そんなカオスな光景の中――
「……あのー、すみません!いい加減こっちを助けてもらえませんかー!?もうそろそろ限界なのでー!!」
クロトの必死すぎる声が響いた。シーナはようやく手を止め、ミオの頭から手を離しながらサキたちの方へ顔を向ける。
「うぅぅ、痛いよぉぉ……」
解放されたミオは、頭から白い煙をふわふわと立ち上らせながら、涙目で頭を押さえ、そのまま地面にぺたんと座り込んだ。
クロトたちの現状を見たシーナは、左手を額に当てて深いため息をつき、重い足取りでクロトたちの方へ歩き出そうとした。……が、その瞬間。ミオがシーナの服の裾をつまんで引き止めた。
「ちょ、離してミオ」
「大丈夫なのだシーねぇ」
ミオは涙目で頭を押さえながらも、なぜか妙に落ち着いた声で続けた。
「今のコンちゃんは、狙った獲物が消滅するまで他のものには一切危害を加えない “必殺人モード”に入っているのだ。だから安心するのだ」
「それのどこが安心材料になるのよ!!」
「……というかシーねぇが介入したらすぐに解決して、尺的に物凄い余ってしまうのだ」
「妙に生々しいこと言うんじゃないわよ!!」
ミオは“物語の尺”というメタすぎる理由でシーナを止めようとしたが、当然そんな理屈が通じるわけもない。
「それに、あんたの言うその必殺なんとかって状態でサキが狙われてるっていうなら……余計に放っとけるわけないでしょ!」
シーナの闘志はむしろ燃え上がった。だがミオは、まだ落ち着いた声で続ける。
「……大丈夫だよシーねぇ。サキお姉ちゃんには絶対に攻撃は当たらないから。だってサキお姉ちゃんには、兄者が付いているんだもの」
クロトの名前を聞いた瞬間、シーナはピタリと足を止め、ゆっくりとミオの方へ顔を向けた。そして、まるで安心しきったよう表情を見せたかと思うと、次の瞬間、表情が一変する。
「……ミオ。あんたの言うその兄者、今にも死にそうな顔してるけど」
シーナが左手でクロトの方を指す。そこには――
サキを抱えたまま、汗だくで、顔面蒼白で、今にも魂が抜けそうなクロトの姿があった。まるで、どこぞの試験でゴールの見えない洞窟を延々と走らされるパソコンオタクのような表情で。
「……もう……無理、限界」
「頑張って下さい!!」
「いや、もう無理。いくらサキの体重が五十“ピー”だからって言っても、五十キロの重りをつけたまま逃げ続けるなんて、常人が亀の甲羅を背負って修行するくらい無謀だ……」
「重いとか言わないで下さい!!というかなんで私の体重知ってるんですか!!」
サキは顔を真っ赤にし、クロトの胸倉を掴んで前後に激しく揺さぶった。すでに限界を迎えていたクロトは、二日酔いで今にも吐きそうな人のような顔で、声を出すことすらできずに立ちすくむ。
その隙に――ロボメイドがサキへと迫り、ナイフを振りかざした。
「きゃぁぁぁぁ!!」
サキの悲鳴が響いた、その瞬間。
クロトの口から――キラキラとした何かが飛び出し、ロボメイドに直撃した。
「きゃぁぁぁぁ!!」
今度は別の意味で悲鳴を上げるサキ。直撃を受けたロボメイドはその場でピタリと硬直し、バチバチと火花を散らしながら黒い煙を噴き出し――
ボン!!
小さな爆発音と共に、ロボメイドは完全に機能停止した。




