4-3,あれあれでは何を言っているのか分からない!!
シーナはミオの襟をつまんだまま、ひとつ咳払いをした。
「……それにしても珍しいわね。出不精のあなたが自分の意志で部屋から出てくるなんて、ましてやまだ面識もないサキの部屋にいるだなんて。 何かあった?」
シーナがミオに向かって、今回の出来事について質問しだした。するとドーナツを食べ終えたミオが口を開く。
「……匂い。」
「匂い?」
「私と……同じような匂いがしたから?」
首をかしげながら言うミオに、意味が分からず、サキがその場で固まっていると――いつの間にかクロトがサキの隣に立っていた。
クンクン……
鼻を突き立て、サキの匂いを嗅ぎ始める。
「……クンクン。うーん別にミオと同じ匂いではないぞ。どちらかと言うともっとフローラルで女の子らしい匂いと言うか……。」
妙に生々しい、変態チックな感想を述べた瞬間――。
パチン!!
顔を赤面させたサキの強烈な平手打ちがクロトの右頬に炸裂した。
「な、な……何してるんですか!!」
大きな音が事務所内に響き渡ったと同時に、クロトの身体は宙に舞い上がり、そのまま地面に倒れ込んだ。 平手打ちを食らった右頬には、くっきりと手形が残るほど赤く腫れ上がっている。
「……良い……平手打ち……だ」
かすかに残った意識を振り絞り、右親指を立てて褒めたあと、クロトは白目をむいて意識を失った。
「……自業自得ね」
シーナがぼそりと呟く横で、ミオは倒れたクロトに近づき、まるで壊れた玩具をつつく子どものように、ツンツンと指で突いて遊んでいた。
「同じような匂いがしたっと言うのは恐らく、何か似た波長を感じ取ったって言う意味よ……多分。」
「同じような”波長”……ですか。」
シーナが言っていた“波長”という言葉について、その場でサキはしばらく考え込んでいた。すると、ふと何かが閃いたように顔をぱっと上げる。ぱっと顔を上げ、キラキラした目でシーナを見る。そして気づけば、いつの間にかミオを両手で抱え上げていた。まるでお気に入りのぬいぐるみを掲げるように、高々と持ち上げ、猫のように上目遣いでシーナを見つめる。
「可愛いところでしょうか!!」
サキとミオの視線から、キラキラしたビームのようなものがシーナへ向かって放たれる。
シーナはその光景を見て、
(……サキちゃん、ずいぶんうち色に染まってきたわね)
と、ほんの少し罪悪感を覚えながらも、心ここにあらずの声で返した。
「……あー、うん。そうだね」
肯定された瞬間、サキとミオは両手をバンザイして大喜びし、シーナは苦虫を噛み潰したような表情で頭を抱えた。そんな天国と地獄のような光景が広がる中、ミオが突然思い出したように声を上げる。
「あ、そういえばシーねぇ。ミオ、ついにあれの試作品ができたんだよ!!」
「しー……ねぇ? あれ?」
ミオの言うあれが何なのか分からず、サキは首をかしげる。
――そして場面は変わる。
何でも屋の四人は、近くの川場へと足を運んでいた。目の前には、いかにも怪しげで、やたらと頑丈そうな鉄の箱が鎮座している。サキは恐る恐る口を開いた。
「……えっと。ミオちゃん、こ《・》れ《・》は?」
「これは、今ミオが開発しているとある物が保管してある箱だよ。」
いつの間にか、自分の体より明らかに大きい白衣を着ていたミオが、ぶかぶかの袖をブラブラ揺らしながら説明する。
「ま、まさか……ついにあれが完成したのか!!」
突然クロトが大声を上げ、サキはびくっと肩を跳ねさせた。
「な、なんですか急に!」
「まだ試作品ではありますが……完成しましたぞ!!」
「おおおおおおおおお!!」
クロトだけ異様にテンションが高く、まるでライブ会場の最前列にいる熱狂的ファンのように興奮している。サキとシーナは、その熱量についていけず、遠い目で見守るしかなかった。
「じゃあ、開けるよー。はい、ポチっ!」
「え、ちょっとミオちゃ……!!」
サキたちの心の準備など完全に無視して、ミオは手に持っていたボタンを迷いなく押した。
次の瞬間――。
鉄の箱から白い煙が四方へ一気に噴き出し、内部からガガガッと機械音が響き始める。鉄の扉がゆっくりと上へ持ち上がっていく。
クロトは新しい玩具を買ってもらった子どものように目をキラキラさせ、サキは不安そうに唇を噛み、シーナは冷静を装いながらも心の中で
(……もう何でもありね、この事務所)
と触れてはいけないタブーに触れていた。
そして――鉄の扉が完全に開いた瞬間、三人の視線が一点に吸い寄せられる。鉄の箱の中に立っていたのは、メイド服姿の女の子だった。




