3-4,一難去ってまた二難?
目を覚ましたサキは、目の前で繰り広げられている光景にまったくついていけず、ただ呆然と瞬きを繰り返すしかなかった。
「えっと、これはどういう状況?」
「あはは、面白いねあの人間!」
「わぁ!?」
「あはは、驚いた?ねぇ驚いたっしょ?」
別の妖精が音もなく先に近づきサキを驚かせたかと思うとサキの周りをぐるぐると周り始めた。すると別の妖精がぐるぐる飛び回る妖精に叱咤しながら近づいてきた。
「もうお姉ちゃん! そんな人を驚かせてばっかりだといつか痛い目に合うよ! すみません急に驚かせてしまい。」
「あー、良い子ちゃんぶってる。ぷぷぷ、うけるー!」
「もーお姉ちゃん!!」
サキの目の前で妖精姉妹の口喧嘩が始まってしまい、その横でもクロトともう一匹の妖精との血で血を洗う子供の喧嘩のような戦いが始まっていた。
「あのー、すみません。ちょっといいかな?」
そんなカオスな状況に一人冷静な態度……というかこういう状況に慣れているかの様子で妹……恐らく三女だろうと思われる妖精に話しかけるサキ。
「あ、すみませんお見苦しい所を見せてしまい。 それでなんでしょうか?」
「ここ最近このビル内で起こる奇怪な出来事はあなた達が行っていたんですか?」
単刀直入に質問をぶつけにいくと、妖精は「そうです」と素直に返答した。サキ続けて「どうしてこんなことを?」と質問すると妖精は素直に答えだした。
そもそも彼女らは妖精ではなくピクシーという種族に分類され、ピクシーは悪戯をするのが大好きな種族だが、ただ意味もなく悪戯をしているわけでなく、人間が驚いたときに生まれる“負の感情”――恐怖、困惑、焦り、そういったエネルギーが彼女たちの生命活動に必要なのだという。
つまり、悪意ではなく生存のための行動だった。……ただ時々は意味もなく悪戯をすることもあるとのこと。
話を聞いてある程度は納得したサキだったが、それでも全て納得したわけではない。
「……事情は分かりました。でも、人を驚かせなければ生きていけないとしても、迷惑をかけていい理由にはならないわ」
ピクシーの特性状、人を驚かせなければ生きていけないが、人に迷惑をかけていいというわけではないとピクシー達に説明。話を聞いていたピクシーはしゅんと肩を落とす。
「……そうだったんですね。 それは申し訳ありませんでした。」
「いえ、謝らないで下さい。 あなた達に悪意があってやったわけではないと分かっていますから。……でもどうしようかしら。
人に迷惑をかけず、なおかつ効率よく人を驚かせる方法とかあればいいのだけど。」
真剣な表情でこれからについて考えているとその時――
「……話は聞かせてもらった!!」
ドタドタと足音を立てながらクロトが近づいてきた……頭にピクシーを乗せたまま。そして胸を張りながら「俺に任せてもろ!!」と自信満々に言い放った。
翌日。
クロトとサキは依頼人に今回の一連の出来事を丁寧に説明し、原因が“ピクシー三姉妹の悪戯”であったこと、そして今後は奇怪な現象が起きないよう対策済みであることを伝えた。
依頼人は胸を撫で下ろし、二人は無事に依頼を完了させた。
……そしてさらに数日後、クロトとサキは最近話題になっているというとある店へと足を運んでいた。
「おー、凄い行列だなー!」
「ホントですね! あの子たちすっごい頑張ったんですね!」
店の外にまで続く長蛇の列を見て思わず声を上げるクロトに、サキも感心しながらあの日に起きた出来事を思い出し、二人が店の前で立っていると――
「あ、サキさんにクロトさん!」
突然、どこからともなく二人を呼ぶ声が聞こえ、見上げるとピクシー三姉妹の三女が嬉しそうに飛んできた。
「お久しぶりです! 来てくれたんですね!」
「よっ、久しぶり。ずいぶん繁盛してるじゃねぇか」
クロトは手を振りながら笑いかけ、サキも微笑みながら頷く。
「ありがとうございます。 それもこれもあの時クロトさんがくれたアドバイスのおかげです。」
三女は誇らしげに胸を張り、羽をぱたぱたと揺らした。
……数日前。
「「「お化け屋敷!?」」」
ピクシー三姉妹が、声を揃えて叫び、羽が一斉に逆立った。その反応はまるで、雷に打たれた猫のようだった。三人がぽかんと固まっている中、続けてクロトが話し出した。
「そうだ! お前らあの悪戯は、めちゃくちゃ怖かった……。でも人には迷惑をかけられない。だったらいっそ、その悪戯を”商品”として売ってしまえばいいって話よ!」
ピクシーたちは目を丸くしながらも、クロトの言葉に興味津々といった様子で耳を傾ける。三姉妹はこそこそと円陣を組むように集まり、ひそひそ話を始めた。しばらくして、三女が不安げな表情でクロトに向き直る。
「先ほどの提案とても素晴らしいものでした。ですが、私達だけでは何をどうしたらいいか分からなくて……。」
「ふ、安心しろ。そういう時のために俺たちがいる。依頼されればなんでも解決する――
それが俺たち何でも屋の仕事だからな!」
クロトはニッと笑い、親指を立てて自分の顔の横で決めポーズを取った。その言葉を聞いた三姉妹は安心しきったような表情を浮かべクロト達に依頼を出した。
その言葉を聞いた三姉妹は、ぱぁっと表情を明るくし、安心しきった顔で正式に依頼を申し出た。それからしばらく、クロトとサキは新しい店を開くために大忙しだった。店の場所選びから内装の準備、仕掛けの調整まで、やることは山ほどあった。
……そして現在。
ピクシー達が経営している体験型脱出ホラーアトラクション……
《ピクシーの驚愕迷宮》
が大人気に。心臓が飛び出るほど恐ろしく、
複雑な謎解きと没入感のある演出が話題を呼び、毎日長蛇の列ができるほどの盛況ぶりだ。ピクシーたちも毎日大忙しだが、その分たっぷりエネルギーを吸収できて満足しているらしい。
「……そうなんですね、それは良かったです。」
サキは店が安定していることに安堵したように微笑む。その隣では、まるで“全部俺のおかげだ”と言わんばかりに鼻を伸ばし、ドヤ顔で立っているクロトの姿があった。
こうして、ピクシーたちの依頼も無事完了したのであった。
……深夜。
皆が寝静まりかえった何でも屋にて突然、サキの部屋の扉が”ギィー”っと不気味な音を立てて開いた。暗闇の中から、謎の影がゆっくりと部屋へ入り込み、影はサキが眠るベッドへと、音もなく近づいていった――。
翌日、早朝。
スマホのアラームが鳴り響き、サキは眠い目をこすりながら目を覚まし、ベッドから起き上がろうとしたその瞬間、自分の体が妙に重いことに気づく。特に胸のあたりがずっしりと重い。視線を下げると、布団の一部が不自然に盛り上がっていた。
何が起きているのか分からないまま、
恐る恐る布団をめくっていくと――そこには。
”銀色のような輝きを放つ髪をした……見知らぬ少女”が眠っていた。




