3-3,腹から突き出てくる演出ってホラーあるあるだよね!
しばらくビルの前で茶番を繰り広げた二人は少ししてようやくビルの中へと足を踏み入れた。その頃には、クロトはいつもの服装に戻っておりサキはクロトの後ろに隠れながらおろおろした足取りで歩いていた。
「なぁ、俺の後ろに隠れるならさもっと密着したくれないか?その方がムードが出て嬉しいのだが?」
「絶対に嫌です!」
ガタガタと身体を震わせながらもクロトの提案を全力で拒否、声が廊下に反響するほどだった。
「そんなに全力で拒否しなくてもいいだろ……」
勢いよく拒否されたことがよほど答えたのか、肩をガクンと落とし、しょんぼりした目で視線を下に向けた。……とはいたものの、それでもサキはずっとクロトの後ろから離れずビクビクと小刻みに震えていた。
その時……。
ぱりーん!!
何処からか乾いた破裂音が、静まり返ったビルの内部に鋭く突き刺さった。その音を聞いた二人は心臓を一瞬で鷲掴みにされたような表情を見せた。サキは反射的にクロトの背中へしがみつき、喉の奥で悲鳴を噛み殺した。クロトも一瞬だけ肩を跳ねさせたが、すぐに懐中電灯を構え直し音のした方向へ光を向けた。
「ひっ……ななな、なんですかあの音!?」
「わ、分からん。分からんが……とりあえず行ってみよう。」
冷静を装いながらサキに話しかけるクロトだったが内心、心臓がバクバク脈打ち今にも破裂しそうなくらい早まっていた。クロト自身そこまでホラー耐性が強いわけではない……むしろ壊滅的に苦手。ではなぜこのような発言をしたかと言うと。理由は単純……ただサキにカッコいいと思われたいうシンプルかつ単純な考えで行動している。……男とは実に単純な生き物である。
そんな邪な動機など知る由もないサキは、驚きと焦りが混ざったような表情でクロトを見上げた。
「い、行くって……まさか。音のした方へ行く気ですか!?」
「そりゃそうだろ。何のためにここへ来たと思ってるんだ。このビルの調査のためにだろ? だったら行くしかないだろ。」
正論すぎる返答に、サキは言い返せなくなり、しぶしぶクロトの後を追って歩き出した。
「そういえば、今回の依頼にシーナさんは来ないんですか?」
音のした方へ歩いていた二人だったがふとシーナがいない事に疑問をもったサキがクロトに問いかけクロトは懐中電灯を向けたまま答える。
「ん、シーナか? あいつは別にやることがあるって言って、物凄い形相で俺に言ってきたぞ。 あれはまじで怖かった。」
「また何か怒らせるような事をしたんじゃないんですか?」
「いや何もしてないから!……まだ。」
まるで恐怖体験を語るかのように言うクロトに、サキは冷徹な目を向ける。クロトは必死に潔白を訴えるが、日頃の行いが悪すぎるせいか信じていないサキ。寧ろ疑ったような眼差しでクロトを睨みつけた。……というかまだって。
そんな会話をしていた二人だったが突然――
ぱんっ!!
薄暗い廊下に、再び乾いた破裂音が鋭く響き渡ったかと思えば次の瞬間、二人の目の前を白い人型をした何かが音もなくスーっと現れ次の瞬間……首を勢いよく九十度曲げ二人の方向へ顔を向けニヤリと笑う。
「「ぎゃああああああああ!!」」
その光景を見た二人は大きな奇声を上げながら来た道を全力で引き返す。
「ななな、なんですか! なんですかあれ!?」
「分からん! 分からんがとりあえず全力で走れ!!」
背後では、白い人型がギラリと銀色に光る“何か”を手に持ち、ものすごい勢いで追ってくる。二人は涙目になりながらなにか必死に打開策を探す。
「クロトさん! この状況どうにかならないですか!?」
クロトは突然キュッと足を止め、くるりと方向を変え、白い人型へ向かって真正面から立ち向かう姿勢を取った。
「えっ!? なんで止まるんですか!!?」
急に足を止めたことに驚いたサキも足を止めクロトに話かけた。するとクロトは「ここは俺が食い止める!」と勇者顔負けの死亡フラグを建て、襲い掛かってくる白い化け物に飛び掛かった。
「クロトさーん!!」
サキの悲鳴が廊下に響き渡り、”クロトVS白い怪物”の戦いが始まろうとした……が決着は思いのほか早く片付いた……というより、一瞬だった。クロトが振りかぶった右ストレートが怪物にクリーンヒットし、そのまま倒れてしまった。
「……え?」
一瞬のこと過ぎて何が何やらで目を丸くし、口をぱくぱくさせる事しか出来なかったサキに、自分でも驚いているクロト。まさか幽霊に物理攻撃がきくわけないと思っていたし、何よりあれだけ意気込んで死亡フラグまで建設したのにも関わらず一瞬で片が付いてしまったことに対し……。
(……これ大丈夫か。こんなあっさり終わってしまって。盛り上がりとか、緊張感とか……全部どこ行った?)
まるで裏方スタッフのような視点で反省し始めるクロト。
そんなことを考えている突然、すすり泣くような声が、廊下に響いた。また何か起こると構えだす二人だったが次の瞬間白い怪物がモゴモゴと動きだした。
「ひぃ!! クロトさんクロトさん、まだあれ動いてますよ!?」
突然奇妙な動きをする怪物に驚くサキだったが次の瞬間、白い怪物の腹部が突然ポコポコと膨らみだし……そして腹部が突然破裂し中から一斉に何かが出てきた。まるでどこぞのホラー映画みたいだった。
「うわーー!」
大きな悲鳴を上げ、恐怖のメーターが限界が来たサキは白目を剥いてその場で倒れてしまった。クロトはというと、驚愕と恐怖で心臓が跳ね上がりながらも、なんとか踏みとどまって“それ”を凝視した。するとそこには……小さな羽をパタパタとさせる……。
「……妖……精?」
小さな妖精?らしき生き物が三匹?三人?ほど宙に浮いていた。妖精事態初めてみるクロトはしばし方針状態でその場で立ちすくんでいると一匹の妖精がクロトの目の前まで飛んできて近所のおばちゃんのような勢いでまくし立てる。
「ちょっとあんた! 何こっちに攻撃なんかしてきて来るわけ! ここは普通、悲鳴を上げながらあちこち逃げ回るっていうのがセオリーでしょ!それなのにアンタって人間は!!」
妖精の怒号がクロトの顔面に直撃する。クロトはフリーズしていた……というか、こういう時どうすればいいのか――彼は知っていた。……そう。
“無”
心を無にし、言葉を右から左へ流し続ければ、いつか嵐は過ぎ去るというという人生経験から導き出された消極的かつ実用的な知恵だった。
そんなクロトの悟りなど露知らず、妖精はさらに勢いを増してクロトの顔の前までぐいっと寄ってきた。
「見なさいよこれ!アンタのせいで私の可愛い顔に傷がついちゃったじゃない!どうしてくれるわけ!?」
妖精の問いかけに無反応なクロト……というか心ここにあらずの状態で目に光が灯っていない状態だった。
「ちょっと! 聞いてるの!? 無視してんじゃないわよ!!」
そんな態度に頭の来た妖精は怒り、クロトの鼻に ガブッ!! と勢いよく噛みついた。
「いってぇーーー!」
鼻に鋭い痛みが走り、クロトの悟りは一瞬で粉々に砕け散った。クロトは痛みに悶えながら、廊下をあちこち走り回り、妖精は鼻にしがみついたまま、まるでロデオの牛のように振り回されながら叫んだ。
ドタバタドタバタとうるさい音を立てたおかげ?なのか気絶していたサキが目を覚ました。




