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1,主人公だからと言って何でも出来ると思うなよ!!

この物語は――街の片隅で活動する「何でも屋」の記録である。 掃除から荷物運び、怪しい依頼まで、頼まれれば基本的に断らない。そんな彼らは5人組。


ただし、依頼を受けるたびにまともに終わることはほとんどない。 性格も得意分野もバラバラな5人が集まれば、結果はいつも予想外。依頼よりも騒ぎの方が多く、街の人々からは「便利屋」ではなく「騒動屋」と呼ばれることもしばしば。


それでも彼らは今日も依頼を受ける。 ――依頼よりもドタバタが本編になってしまう、5人の何でも屋の物語がここから始まる。

「えーと……こっちが北で、あっちが……え?」

 サキは地図アプリを見ながら、路地裏で完全に迷っていた。 異界と現世が交差する都市クロスライン。とある理由のため、田舎から引っ越してきたばかりの彼女にとって、この街はすべてが未知だった。

 建物は奇妙な形をしていて、空には浮遊する屋台。道を歩けば、獣人や鬼人、リザードマン、オークなど、人とは異なる種族が普通に暮らしている。 本でしか見たことのない存在が、目の前を通り過ぎていく。

「すごい……本当に、別世界みたい」

 興奮と不安が入り混じる中、どこからとなく犬の唸り声を聞こえた。何事かと思い声のする方へ向かうとそこには──犬に噛みつかれながら倒れている男がいた。

「えええええっ!?」

 サキは驚きつつも、すぐに駆け寄って安否を確認する。

「だ、大丈夫ですか!?」

……返事はない。まるで屍のようだ。

某RPGのテキストが脳裏をよぎるほど、男はピクリとも動かない。

 サキは眉をひそめ、しばらく考え込む。そして何かを決意したような顔で、両手を男に向けて差し出そうとした──その時。

「ぐぅ~~~」

 どこからともなく、お腹の鳴る音が響いた。サキはその場で硬直する。

「も、もしかして……」

再び、腹の音。偶然は確信へと変わった。

(ま、間違いない。この人、ただお腹空いて倒れてるだけだ!)

 本来なら、知らない人に深入りするべきではない。 でも、困っている人を放っておけないのがサキの性分だった。近くの飲食店でおにぎりをテイクアウトし、男の前に差し出す。

「あの……よかったら、これ食べてください」

 すると、先ほどまで微動だにしなかった男が、おにぎりの匂いを嗅ぎ まるでゾンビのように地面を這いながらサキに近づき、そして次の瞬間──目にも止まらぬ速さでおにぎりを奪い、食べた。

 サキの手からおにぎりが消えたことに驚く間もなく、男は満足げに口を動かす。

「ゴクン……はぁ~、満足満足。よっと!」

 男はふっと立ち上がり、笑顔で言った。

「いやー、助かった助かった。ありがとな、後少しで異世界に転生しちゃう所だったよ。ホント、ありがとうごうな見ず知らずの人よ!」

 男は立ち上がったかと思うと、急に地面に座り込み全身全霊の土下座をかました。

「そ、そんな!お礼なんて大丈夫ですよ! 私はただ、当たり前のことをしただけですから! というか、こんなところで土下座はやめてください!」

 サキは慌てて止めに入る。 正直、ヤバい人を助けてしまったかもしれないと、──今さらながら後悔し始めていた。


 とりあえず、近くに公園があったため、二人は場所を移すことに。ベンチに腰掛けると、男は改めて礼を述べた。

「改めて、ありがとう。あのままだと本当に死んでたよ。 いやー、まさかこの街にも君みたいに優しい人がいるなんて…… この街もまだ捨てたもんじゃないってことだね、うん」

「いえ、そんな……私はただ、人として当たり前のことをしただけですし。 それに、私この街に引っ越してきたばかりなので、元々の住人ってわけじゃないんです」

「そうだったんだ。どうりで見たことないと思ったよ。 君みたいに可愛い子を俺が見過ごすわけないからな!」

「えっ!?」

 サキの脳内に危険信号が点灯する。

(この人……やっぱりヤバい人なんじゃ!?)

しかし──

「まぁでも俺、人の顔と名前覚えるの苦手だから、 もし会ったことがあったとしても、すぐ忘れてるんだけどな。アハハハ」

……気のせいだった。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったな。 俺の名前はクロト。まあ、気軽にクロって呼んでくれ」

「あ、はい。よろしくお願いします、クロさん。 私はサキって言います」

 二人は軽く自己紹介を交わす。その直後、クロトが真顔で言った。

「それで、助けてもらったお礼をしたいところなんだが…… 実は今、狂暴な鬼から逃げてる最中なんだ。だから、今すぐお礼とかできないんだけど…… また今度、俺が生きてたらお礼させてくれ。それじゃ!」

 そう言い残すと、クロトは一目散にその場から走り去っていった。サキはしばらくポカーンとしたまま、ベンチに座り続ける。

(……変な人だった)

 それが、彼女がクロトに抱いた第一印象だった。さて、そろそろ自分も行こうか──そう思ったその時。

「すまない、少しいいかな?」

 急に背後から声を掛けられ、振り返るとそこには美しい女性が立っていた。 よく見ると、その頭には二本の角。彼女はただの人間ではなく、亜人、それも極めて珍しい種族“鬼人族”だと瞬時に理解するサキ。

 ――鬼人族はそれは他の種族と比べて戦闘能力が非常に高く、戦いを好むいわゆる戦闘民族。 その本能ゆえに多くは戦場へ赴き、戦いの果てに命を落とすため数が非常に少なく、実際に目にしたことがある者はほとんどいない。そのため畏怖の対象として恐れられることも多い。

 そんな希少な鬼人族であり、女性であるサキですら思わず見惚れてしまうほどの美貌を持つ彼女が、どうして自分に声をかけてきたのか分からず頭の中で必死に整理していると。

「すまない、大丈夫か?」

  再び声をかけられ、サキは我に返った。

「は!? す、すみません。つい綺麗で見とれてしまって……」

 つい本音が出てしまった…。

 それを聞いた女性はしばらく唖然とした後、ふいに顔を横に向けて、くすっと笑みを漏らした。

「え?」

「あぁ、すまない。初対面でいきなり綺麗だなんて言われて、つい笑ってしまったよ。私を初めて見る者は、たいてい怖がるか逃げ出すことが多くてね、すまない。」

 紅の髪が揺れ、柔らかな笑みが浮かべた横顔をみて少しドキッてしてしまったため慌てて本題へ戻したサキ。

「えっと……それで、私に何のご用でしたか?」

「あ、そうだったねすまない。実は私この男を探しているのだがどこかで見たことはないかな?」

 そう言うと女性は懐から何かを取り出しサキに見せてきた。それは指名手配書と書かれた一枚の紙で中央には先ほどまで一緒にいたクロトの写真が印刷されていた。 サキはその紙を見た瞬間、心臓が跳ね顔から冷や汗が噴き出し、身体が震えだす。先ほど一緒にいた人が悪い人だったなんて…。

「あぁぁあのあのあのええええっと……」

 言葉が詰まり、サキはただ後ずさる。

「その反応を見るからに、どうやらこの男について知っているようだね。」

  女性は何かを察したように怖い顔でサキへとジワジワと近づいてきた。

「その反応を見るからに、どうやらこの男について知っているようだね。」

 そして女性は…ふいに表情を和らげ、サキの肩にポンと優しく手を置いた。 「すまない、私の連れが大変迷惑をかけたようで。」

「……へ!?」 

 深々と頭を下げ、真摯に謝罪するのだった。


 詳しく話を聞いてみると、彼女はとても気さくな人で、クロさんの言う“怖い人”にはとても思えなかった。 そしてやはりお二人は知り合い同士らしい。どうしてクロさんを探しているのか尋ねてみると…。

「あいつは私の目の前から大事なものを奪っていった極悪人。だから私の手で報いを受けさせるためよ!」

 彼女から並々ならぬ殺意の波動を感じた…。二人はどうやら何かしらの因縁があるようだ。私の印象ではクロさんはそんな卑劣なことをする人には見え……いや、確かに変な人ではあったけど。 人は見かけによらないものだな、と改めて思う。

 事情を知ったサキは、クロトが走っていった方角を指差し、鬼人の女性はサキにお礼を言い、その後を追おうとした…が急に足を止める。

「あ、そうだ。教えてもらったお礼とまではいかないが、少し忠告しておく。 最近、様々な種族の子がいなくなる事件が多発しているらしい。だから一人で外をうろつかず、早めに帰った方がいいわよ。もし変な人が現れたらいつでも私を呼んで。絶対に助けになるから。それじゃあ。」

 そう言って彼女はクールにその場を去っていった。

 …カッコいい人だったな、まるで頼れる姉御って感じで、本当にカッコよかったなぁ。といいうかさっき言っていた事件普通に怖いなぁ…都会怖いな。

 あ、そういえば困ったら呼んでって言われたけど、私、彼女の名前も連絡先も聞いてない、どうしよう…。まあ、クヨクヨしても仕方ない、次に会えたらその時に聞こう。そう楽観的に考えるサキだった。

 そして「変な人に気をつけて」と言われた時、一瞬クロトの顔が浮かんでしまい、「……まさかね。」と、さすがに失礼だと思い直し忘れることにして、その場を後にした。

…背後から怪しげな視線が向けられているとも知らずに。


 数時間後――ある程度街を回ったサキは、街を一望できる高台へと辿り着いていた。

「本当、大きな街だな、ここ!」

 高台から街の景色を眺め、少し今後のことを考えていると、背後から子供たちの楽しげな声が聞こえてきた。 振り返ると、人間や獣人など様々な種族の子供たちが分け隔てなく仲良く遊んでいる光景が広がっていた。

 その様子に微笑ましい気持ち見ていると突然走っていた獣人の子が転び、軽いかすり傷を負って泣き出してしまった

 仲間の子供たちが駆け寄り「大丈夫?」と声をかけるが、泣き止む気配はない。 サキもすぐにその子に近づき、優しく頭を撫でて声をかけた。

「大丈夫、大丈夫だからね。」

 見たところ骨に異常はなく、ただのかすり傷のようだ。

「他に痛むところはない?」

と尋ねると、獣人の子は涙を浮かべながら首を横に振る。 きっと痛みを我慢しながら答えてくれたのだろう。子供にとっては小さな傷でも大きな痛みに感じるもの。今にもまた泣き出しそうな顔を見て、サキは優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ!」

 そう言って両手を傷にかざし、祈るように目を閉じる。 するとサキの手が小さく輝き、みるみるうちに傷が癒えていく。 やがて光が消えると、傷は跡形もなく治っていた。まるで最初からなかったかのように。サキは少し汗をかき、疲れを見せていたが、それを顔に出さず子供に声をかける。

「これで大丈夫。もう痛くない?」

 子供は傷が消えたことに気づき、恐る恐る足を延ばしてみる。 痛みがないことを確かめるように、少し動かしてから顔を上げた。

「う、うん! もう大丈夫!」

 先ほどまで泣いていた子は嘘のように笑顔を取り戻し、立ち上がる。

「ありがとう、お姉ちゃん!」

と元気に礼を言い、仲間たちと再び楽しそうに走り出した。

 サキも”バイバイ”と手を振り、その場を去ろうとした…その瞬間。 背後から大きな影が現れ、視界が揺らぎ、意識が遠のいていった。


 次に目を覚ますと、そこは見覚えのない建物。 手足をロープで縛られ、冷たい床に寝かされていた。

どういう状況なのかまったく分からない。とりあえず体を起こし、辺りを見渡す。 室内は暗く、上窓から差し込む月の光がなければ何も見えないほどだ。

――月の光? って、もう夜なの!?

 改めて窓から外を眺めると、星が綺麗に瞬いていた。 …って違うでしょ! 一体どれだけ寝ていたの、ここはどこ、どうしてこんな状況に!?頭の中で疑問がぐるぐる巡っていると――。

「お、ようやく目を覚ましたみたいだな。」

 突然、唯一の扉が開き、男たちがぞろぞろと入ってきた。 その中の一人が語りかけてくる。おそらくこの集団のリーダーだ。まだ頭の整理が追いつかず、サキは黙ってその男の話を聞くことにした。

 男は一歩ずつ近づき、目の前まで来ると全身を舐め回すような視線を向けてきた。嫌な視線に耐えきれず顔を逸らすと、顎を掴まれ無理やり正面へ向けられる。

「それにしても……改めて見ても良い女だ。このまま売っぱらうのが惜しいくらいだ。 なぁ嬢ちゃん、よかったら俺の女にならねぇか?悪いようにはしねぇからよ。」

 その言葉に背筋が凍る。

「ボス!?」

「わーってるわーってる。冗談だって。だから騒ぐな。 つい良い女だからからかっただけだろうが。 少しでも傷がついたら、良い値で取引できなくなるからな。」

 ――商品?取引?その言葉に、脳裏に電流が走る。

「……人身売買。」

「お?」

「もしかして、あなた達……人身売買をしているの?」

「へぇー、ようやく閉じていた口が開いたと思えば第一声がそれか。 意外と頭の回転は速いようだなぁ、嬢ちゃん。」

「その反応から察するに……」

「ああ、嬢ちゃんが思っている通りだぜ。」

「やっぱり……」

 人身売買――それは人を人として扱わず、道具のように扱う非道な行為。 法律で禁止されているはずなのに、目の前の男たちは平然とそれを口にしていた。

「どうして、そんな卑劣な行いをしているの、あなた達は!」

「卑劣?おいおい……まさか嬢ちゃん、この状況で俺たちに説教か?笑わせるなよ。」

 ボスが笑い出すと、周りの部下たちもつられて笑い出した。

「いいか嬢ちゃん、状況をよく見てから発言しろ。 今嬢ちゃんは手足を縛られた状態で俺らに捕まっている。 この周辺にはもう誰も住んじゃいねぇし、通行人だって滅多に通らねぇ。 だから助けを呼んだって誰も来やしねぇ。 つまり今嬢ちゃんの生死は俺たちが握っているってわけだ。 いくら嬢ちゃんが質の良い品だからといっても、発言には気をつけた方がいいぜ。 分かったら黙って大人しく――」

 ボスが最後まで言い切る前に、天井から妙な音が響いた。 次の瞬間、ボスの頭上の天井が崩れ落ち、反応が遅れたボスは瓦礫に直撃され、そのまま瓦礫の山に埋もれてしまった。

 かろうじて下敷きにならなかったサキだったが、土煙で視界が塞がれ、何が起こったのか状況を掴めずにいた。 すると瓦礫の中から人影が這い出てきて、ぶつぶつと独り言を漏らす。

「いってぇ……あぁくそ、まさか床が抜けるなんて聞いてないぞ、全く。 うーんと、ここはどこ……って、あれ? 君は確か朝の……」

 徐々に土煙が晴れ、天井から差し込む月の光がその姿を照らす。 現れた人物を見て、サキは思わず目を見開いた。――今朝、危うく転生しかけたところを助けてくれたクロさんだった。

 クロトはわき目もふらずサキに近づき、にやりと笑う。

「まさかこんな所でまた会えるなんて……これはもう運命の赤い糸ってやつかもしれないな、うん!」

「今そんな状況じゃないでしょ!」 

 女の子をナンパするような軽い口調に、サキは思わず怒鳴った。

「てめぇ、いったい何者だ!」

  部下の一人がテンプレのような問いを投げかける。クロトは肩をすくめ、流れるように返す。

「ん、誰だあんた? 悪いけど今俺この子の相手で忙しんだ後にしてくれないか。て言うかそもそも相手に名前を聞く前にまず自分から名乗り上げるのが礼儀だろ。そんなのも知らないのかこんなもん最近の小学生でも知っていることだぞ。お前はまず小学校からやり直してこい。」

 そのいけ好かない態度にブチ切れた男は、大声を上げてクロトに襲い掛かる。

「だーかーら……忙しいって言ってんだろうがぁ!!」

 クロトの目がギラリと光り、襲いかかる男にカウンターを放つ。

――“昇〇拳!”

 有名な格闘ゲームを彷彿とさせるような綺麗なアッパーカットが男の顎に直撃。 それを喰らった男は宙に舞い、そのまま仰向けに倒れてKO!

 その光景を目にした部下たちはクロトに警戒心を抱き始める。するとクロトは――。

「全くよ、人がせっかく良い雰囲気でおしゃべりしてるっていうのに邪魔しやがって。 君らあれか?羨ましいの?女の子と話してるのがそんなに羨ましいんですか? リア充撲滅委員会ですか、この野郎!」

 カッコよく決まったと思ったクロトだったが、改めて辺りを見渡すと敵の数が予想以上に多いことに気づく。 瞬時にヤバい状況だと理解し、頭から冷や汗が流れ始めた。

「あのー、もしかして俺お邪魔でしたか?お邪魔ならすぐ退散するんで、そこをどいてもらえると助かるんですが……」

 もちろん聞く耳を持つはずもなく、部下たちは臨戦態勢のままクロトたちを取り囲む。 クロトはズルズルと後退しながらサキに近づき、ボソボソと話しかけた。

「……もしかしてこれってヤバい状況だった?」

「ヤバいも何も、ここ人攫い達のアジトよ!どうしてクロさんがここにいるんですか!」

「あー俺か?ちょっと疲れて屋上で日向ぼっこしてたら、ついうたた寝しちゃってこの有様よ。 すまないんだけどさー、俺を助けてくれない?」

「助けて欲しい相手に普通そんなこと言います!?というか私縛られてるんですよ!どうやって助けろって言うんですか!」

 二人が痴話喧嘩のようなやり取りをしている間に、完全に取り囲まれてしまい、一斉に襲いかかってきた。 クロトは間一髪でサキを抱え、攻撃を避ける。突然のことにサキは何が起こったのか分からなかったが、クロトの表情は真剣そのもの。

 ――もしかして、この人……強い!?

そう思った矢先。

「あ、あんなところに橋本〇奈がいる!!」

 意味不明なセリフと共に指差すクロト。部下たちが反射的に振り向いた隙に、クロトは一目散に逃げ出した。

「追え!逃がすな!」 号令と共に部下たちが工場内を走り回り、クロトたちを追い始める。

「どうして戦わないんですか!」

「無茶言うな!いくら俺が主人公補正かかってる主人公だからって、あの人数を一人で相手するなんて無理だ! そもそも俺はどこにでもいる量産型主人公であって、万能型主人公じゃないんだよ。 量産型がエース機に勝てるわけないだろ!」

「「一体何の話!!」」

 謎の会話を繰り広げながら工場内を逃げ回る二人。だが相手の数が多く、あっという間に角へ追い詰められてしまった。

「いやー参ったな~。たった二人相手にここまで歓迎してくれるなんて、モテるって大変だな~」

「そんな悠長なこと言ってる場合ですか!?どうするんですかこの状況!」

 呑気なクロトに慌ててツッコむサキ。

「もうこれはあれだな、さっさと諦めて転生先で俺つぇ主人公になるしかないな……」

「すでに諦めムード!?」

 諦めムードの主人公に向かって、部下たちが一斉に襲いかかる――。

「「「キャーーーッ!!」」」

 今度こそ終わったと思った瞬間、右側の壁から物凄い音が響き、次の瞬間壁が粉々に破壊され、その衝撃で部下たち数人が吹き飛ばされた。

 クロトは咄嗟にサキを庇い、反対方向へ体を向けて瓦礫から守る。次から次へと起こるハプニングに混乱していると、破壊された壁の穴から一人の女性が姿を現した。

「ようやく見つけた。まさかこんな所に隠れているなんてね。」

 おどろおどろしい声にクロトの背筋が凍る。恐る恐る振り返ると、鬼の形相で睨みつける鬼人の女性が立っていた。

「「「ギャーーー姐御!!」」」

「誰が姐御よ!」

 クロトが叫んだ人物は、今日偶然出会ったあの美しい鬼人女性だった。

「よ、よく俺がここにいるって分かったな……」

 舌が震えて上手く回らず、まるで壊れた機械のように言葉を噛み続けるクロト。

「まさか私から大切なものを奪っておいて、本当に逃げられると思っていたかしら?」

「め、めっそうもないでございませんです、はい!!」

 クロトにとって彼女がどれほど恐ろしい存在なのか、サキは改めて思い知らされる。 その怯え切った表情と震える声は、ただの冗談ではなく本物の恐怖だと伝わってきた。

 女性はクロトとサキを見比べ、何かを察した女性は、深いため息を吐いた。

「いつも“モテたいモテたい”と愚痴っていたと思ったら……とうとう犯罪にまで手を染めるなんて。 呆れを通り越して、軽蔑を覚えるわ。」

 まるでゴミを見るような視線に、クロトは悪寒を覚える。

「あ、あのシナさん!もしかして大きな勘違いをしていらっしゃるのでは!? 俺は犯罪なんてしてません!この子とは偶然ここで会っただけで、襲われそうになっていたところを助けただけで……」

「はいはい分かった分かった。分かったからさっさと警察に自首してきなさい。」

「「「全然分かってねぇじゃねぇか!!」」」

 まるで漫才のような二人のやり取りをよそに、周囲の部下たちは小声で囁き合う。

「……おい、見ろよ。あの女、鬼人族だぞ。それも二本角。 あの女を捕まえられれば、とんでもない利益になるんじゃ……」「そうだ、そうに違いない。今のうちに……」

 部下たちは慎重に女性へ近づいていく。それを見たサキは慌てて声を上げる。

「ふ、二人とも!今こんなことしてる場合じゃ――」

 言い終わる前に数人の部下がシナへ飛びかかった……が、逆に返り討ちにされ、壁や天井へ突き刺さってしまう。一瞬の出来事にサキは何が起こったのか理解できずにいた。

「人が話してる途中に襲いかかるなんて、礼儀を知らないようね、あんたら。」

――あれ?さっきも同じような光景を見たような……デジャブ?

 禍々しい殺気を放ちながら部下たちを睨みつけるシナ。 するとクロトが声を張り上げた。

「姐御!あいつらだ!この子を誘拐して、あんなことやこんなことをしようとした犯人だ!」

「「「ちょ!変なこと言わないでください!!」」」

 頬を赤らめながらツッコミを入れるサキに対し、シーナはクールな態度で現状を把握する。

「なるほど、あんた達が最近巷を騒がせている人攫いの犯人ってわけね。 ふっ、それは助かるわ。ちょうど依頼で探していたところだから、手間が省けて助かるわ。」

 不敵な笑みを浮かべると、シーナは胸の辺りまで手を上げて指を鳴らした。

「とりあえずここにいる全員、再起不能になるまでぶっ飛ばすわ!」

 物騒なセリフを吐いた直後、シーナの姿は一瞬で掻き消えた。 次に視界に映った時には、すでに敵の眼前――。

「――遅い。」

 低く呟いた瞬間、拳が閃光のように走る。 轟音と共に敵の顎を捉えたその一撃は、まるで大砲に撃ち抜かれたかのような衝撃を生み出した。敵の体は宙を舞い、数メートル先の壁へ叩きつけられる。 分厚いコンクリートが悲鳴を上げてひび割れ、男の体はそのまま壁にめり込み、ずるずると崩れ落ちて動かなくなった。その場にいた者たちは誰一人声を発せず、ただ呆然とその光景を見つめるしかなかった。 一撃――それだけで戦意を根こそぎ奪う、圧倒的な力。

 その光景を目撃した部下たちは、恐怖を振り払うように一斉に襲いかかった。だが――結果は惨憺たるものだった。拳を振るう暇もなく、次々と叩き伏せられ、床に転がる。ナイフを構えた者も、叫び声を上げた者も、すべて一撃で沈む。

まるで嵐の中に放り込まれた木の葉のように、彼らは抗うことすら許されない。 ただ一方的に殴り倒され、積み上がっていく敗者の山。

 もはや戦いと呼ぶにはあまりに一方的――蹂躙。 その圧倒的な光景に、誰もが一瞬、頭の中で混乱する。


――数分後。


 建物内の犯罪者たちは一人残らずシーナに殴り倒され壊滅。 騒ぎを嗅ぎつけた警察が全壊状態の工場に到着し、瀕死の犯罪者たちを次々と逮捕していった。人攫いによって捕まっていた人々は、私も含め全員保護され――こうして事件は「無事解決」した……はずだった。

 だが、目の前に広がるのは瓦礫と呻き声だけの地獄絵図。 壁は穴だらけ、床はひび割れ、天井は半分落ちかけている。 もはや事件の解決というより、災害の後処理にしか見えない。

「……これ、本当に“事件解決”って言っていいのかな……」

 私は思わず呟いた。 救われたはずなのに、どうしてか胸の奥に妙な不安が残っていた。

 クロトはというと、瓦礫の隅で膝を抱えながらぶつぶつと文句を言っていた。

「おかしい……絶対おかしい……。主人公の俺が活躍ゼロってどういうこと!?普通さ、こういう物語の一話目って決まってるだろ? 主人公とヒロインの馴れ初めが始まって、終盤で主人公が大活躍。 その活躍を見たヒロインが『あ、素敵……』って恋心を抱く――それが王道パターンじゃないの! なのに……なのに……どうして俺だけ全然活躍できてないんだよ!」

 頭を抱えたまま、さらに愚痴をこぼす。

「だいたい最近の主人公ってさ、俺TUEEEからのチートスキルで無双して、なんやかんやで女の子にモテモテ、最後はハーレム完成!って流れじゃん? なのに俺はどうだよ!なんだこの格差! よそはよそ、うちはうちってか!? この野郎ーー!!」

 早口でまくし立てながら、謎の怒りと嫉妬をぶちまけるクロト。 ……いや、他作品にケンカ売るのはやめてくれ、色々と危ないから!

「てか、担当者これ読んでんだろ!? 今すぐ主人公の立ち位置を変更しろ!」

――まずい、このままじゃ超えてはいけない壁を突破しそうだ! 話を逸らさないと……そうだ!

「そ、そういえばクロさん、一つ疑問があるんですが…… どうしてシーナさんに追われてたんですか? なんだかすごい怒りで探してましたけど……大事なモノを奪われたとかなんとかで?」

「ん? あー、それか……実は――」

 よし、話題転換成功! ……でももし本当にクロトが極悪人だったら、私は……私は……。

サキは目を閉じ、覚悟を決める。

「実は……シーナが楽しみにしてたプリンを間違えて食べちまってさ。 そのせいで三日三晩、追われ続けてるんだよ。アハハハ!」

「……へ? そ、それだけ?」

「それだけ。」

「……」

「「えーー!!」」

 まさかプリン一つでこんな大騒ぎになるなんて……都会って、怖い。

 驚きと疲れが一気に押し寄せ、サキはその場で倒れ、口から魂がふわっと抜けてしまった。 クロトは慌てて駆け寄り、必死に呼びかける。

 こうして、この物語は――終わりを迎える……はずだった。


完。


……いやいやいや!まだ俺が大活躍してないまま終わらせるとか、絶対許さねぇからなーー!!


――続く?

作品を呼んで下さりありがとうございます。

投稿次第初めてで、小説を書くことも初めてでまだまだおぼつかない部分や読みにくい部分などあると思いますが、そういったことでしたどんどん指摘して下さると助かります!

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