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エピソード12 彼が軍靴を履いた日Ⅱ

 1648年 夏 アストレア王国


 初夏を迎える王都の空は、どこか薄暗かった。

 風はまだ温かいはずなのに、胸の奥を締めつけるような重さを含んでいる。

 街角では工場の炉が絶えず燃え、昼夜を問わず金属の響きが鳴り続けていた。

 銃、砲弾、銃弾、それらはもう王都の日用品になっていた。


 アリシアは城壁上の見張り台に立っていた。

 手袋の内で指先を擦りながら、遠くの空を見つめる。

 その目には疲労の色が滲んでいたが、背筋だけは微動だにしない。

 誰もが彼女を「勇敢」と呼んだ。

 だがカイルだけは、彼女がその言葉を好まないことを知っていた。


「……勇敢なんて言葉は、負けた時にしか使われないのよ」


 かつてそう言って微笑んだ顔を思い出す。


 カイルは休憩時間を利用して城壁の階段を上っていた。

 背には銃、腰には短剣。胸当の留め具が擦れる音が小さく響く。

 見張りの交代時間を計って、彼女の元に向かうのはもう日課のようなものだった。


「少尉、差し入れです」


 カイルは紙袋を差し出した。

 中には焼きたてのパンと、街外れの老舗で手に入れた乾燥果実。


「はぁ、また買ってきたの?」


 エリシアが苦笑する。


「ちゃんと給料で買いましたよ?」


「ふふ……分かってるわ。でも、ありがと」


 彼女が指先でパンを割る。

 中からほのかな湯気が立ち、香ばしい匂いが漂った。

 それだけで、空気が少し柔らかくなる。


「ねぇ、軍曹」


「はい?」


「最近、夢を見るの」


「夢?」


「ええ、誰かの声がするの。『生きろ』って」


 その言葉に、カイルの胸がざわつく。


「戦場の夢ですか?」


「分からない。でもね……その声は、北の風と一緒に聞こえるの」


 彼女は城壁の北を見やった。

 遠く白い霧の向こう。

 そこには――ノルム城塞がある。

 かつて彼女が戦い片目を失った場所。


「ノルム城塞、あそこにはもう誰もいないはずでは」


「報せがあったの。敵軍が進軍を再開したって…遅滞防御に転移した北部方面軍からの最後の通信だった」


「……」


「そしてね、その報せを伝えてくれた中に一人だけ知ってる名前があったの」


 アリシアは小さく息をのんで言った。


「エイデン・ノア特務中尉」


 カイルはその名を知っていた。

『北壁の大狼』と呼ばれるノルム城塞の英雄。


「あなたも知ってるでしょ?」


「……ええ、まぁ噂程度には。中尉に憧れてる人は多いですから」


「私も、そうだった。軍大学を出て初めて配属された部隊に彼がいた」

 

 エリシアの目が少し柔らかくなった。


「彼は強かったわ。でもね、強さだけじゃない。部下を決して見捨てない人だった。自分がどんなに傷ついても」


 風が彼女の髪を揺らしカイルは唇を噛んだ。


「その人は今も?」


「分からない。でも、報告には確かに彼の名前があった」


「……中尉に会いたいですか?」


 エリシアは答えなかった。

 ただ、ゆっくりと微笑んだ。


「今は、あなたがそばにいるもの」


 その言葉に、胸が締めつけられた。

 彼女の瞳に映る“誰か”が、まだ遠くにいると気づいた瞬間でもあった。



 大陸歴1648年 冬 アストレア王国第七防衛線


 風が冷たい。

 冬の訪れを告げる風ではなく、遠く燃えた硝煙が混じった風だった。


「……また、焼けてる」


 見張り台の兵が呟く。

 北の地平に、淡い赤が滲んでいる。敵軍が村を一つ、焼いたのだ。


 報告は日ごとに増えていた。

 北部に続き西部防衛線の崩壊、補給路の遮断、砦は次々に落とされていた。

 それらの報せが積み重なるたび、王都の空はどこか薄暗くなっていった。


 王はついに避難命令を出した。

「王都民、近隣住民の総員退避」という通達が鳴り響いた日、通りの露店は一斉に店を閉じ、家々の窓には木板が打ちつけられた。


 人々は荷車に家財を積み込み、泣き叫ぶ子どもを抱えながら東へと向かう。

 東部方面軍の支配下にある都市へそこだけが、まだ安全圏と呼べた。


 王都守備隊にも命令下達が行われた。


 王都北門の外郭。

 夜明けの光が差し始めたばかりの空は、灰色で、重く垂れ込めていた。

 そこに、五百の守備隊と北部西部から生き延びた二千の将兵。

 沈黙は、祈りにも似ていた。

 守備隊の総司令官『暁鐘の騎士(アウローラ)』オズワルド・バーン大佐はゆっくりと前へ歩み出る。

 外套の裾は破れ、義手の表面には砲弾片の傷が無数に刻まれている。


 彼は、西部方面軍の生き残りだった。

 敗走の只中で、部下を半分以下に減らしながらここまで退いてきた男。

 その背に負った死者の重みは、彼の歩き方にさえ現れていた。


 大佐は兵たちを一望し、静かに声を落とす。


「……諸君。私がここに立つのは、武勲があるからではない」


 誰も息をつかない。

 彼がそう言うことなど、誰も予想していなかった。


「西部戦線で敗れ、生き残ってしまったからだ。部下を置き去りにし、退くしかなかった。それが、私が今ここに立っている理由だ」


 その言葉は、兵たちが抱える痛みと恐怖を正面から掴む手のようだった。


「諸君の中にもいるだろう。戦友の手を離してしまった者、戦場で叫ぶことしかできなかった者が……私も同じだ。恥辱に塗れ泥のなかを転げ回りながらここまで生き延びてしまった」


 誰も目を上げられなかった。

 それでも、大佐は続ける。


「だが敢えて言おう。胸を張れ。恥じるな。生き残ったのは、弱さではない。この国がまだ諸君らを必要としているからだ」


 そして、大佐はゆっくりと剣を引き抜いた。

 その刃は、曇った空に浮かぶ白光を拾って鈍く光った。


「もはや我々の背にはすべてがいる。退く場所は何一つない」


 息を呑む音が波のように広がる。


「敵は強大、東部方面軍からの援軍も期待はできない。それでも我々は戦うしかない!我らが剣を握らなければ敵は躊躇なく避難民に牙を剥くだろ!それだけは許されない。断じて許されない!」


 その瞬間、兵たちの表情が変わった。

 憔悴が、恐怖が、後悔が、ひとつずつ剥がれ落ちていく。


「我々は死に場所を与えられた!彼らを守れるのは──今ここに立つ我々だけだ!!」


 剣先が空を指し声が城壁に反響する。


「「「応ッ!!」」」


 足踏みが大地を揺らし、兵たちの胸に炎の色が宿る。


「諸君、配置につけ!武器を握れ、心を固めろ!敵軍は刻一刻と迫っている!」


 義手で剣を高く掲げたまま、大佐は叫んだ。


「──ここが我らの死に場所と心得よ!!」


 その声は、王都の朝空へ力強く響き渡った。


 その夜、王都は妙に静かだった。

 人影の消えた街路を、避難誘導部隊が灯を掲げて行進する。

 遠くで荷馬車の軋む音と、祈りの歌が聞こえる。


「王国を守ってくれ…頼む」


 教会の鐘が低く鳴った。誰もが祈りながら、諦めるように歩いていた。


 カイルの胸には、重く沈む感情があった。

 訓練の頃に見た王都の光景――露店の明かり、子どもたちの笑い声、そしてアリシアの姿。


 あの頃は、永遠に続くと思っていた

 今はもう、笑う声すら風にかき消されていた。


 防衛本部からの通信が入る。


 《敵軍、王都へ向け進軍開始。規模、およそ五万》


「五万だと……!?」


 報告を受けた士官たちの顔が強張る。


「……まるで狩りだな」


 誰かが吐き捨てるように言った。

 狩るのは敵軍。狩られるのは、今この王都に残る者たち。


 最後の避難誘導任務を終えたカイルの部隊にも、新たな命令が届いた。


 部隊長が地図を広げる。


「北門方面をエリシア少尉の隊が抑える我々は西門の防衛線に合流する。持ち場を間違えるな!」


 夜の帳が下り、王都の街並みが暗闇に沈む。遠くで火の手が上がり、風がそれを運ぶ。

 空の星々は静かに瞬き、まるでこの地の滅びを見下ろしているかのようだった。


 ーー戦いの夜が始まろうとしていた。




 硝煙と焦げた油の匂いが、夜の街を覆った。


 大砲の砲声が絶え間なく轟き、城壁に張り巡らされた魔力障壁はすでに砕け、大蛇が解き放たれたように炎が市街をうねり回していた。


 街を守るために築かれた外郭陣地は、わずか半月しか持たなかった。鋼鉄の装甲列車は轟音を立てて爆発四散し空からは雪と巻き上がった粉塵とが降り注いでいる。


 王都はいま炎に包まれていた。


『第三街区、敵の外壁突破を確認!弾が持たない!補給隊、応答しろ!』


『こちら第七小隊、後退する!戦線を維持できない!我はこの街区を放棄する!』


『第二中隊応答せよ!繰り返す応答せよ!クソ、誰か確認に向かわせろ!』


『北門より敵が雪崩れ込んで……もう止められない!え、?嫌!来ないで!ごめんなさいごめんなさい!やめて食べないでぇぇ…!』


『【暁鐘の騎士(アウローラ)】戦死を確認!次級者は指揮引き継げ!』


 魔導通信はすでに報告ではなく、死と戦いと祈りが入り乱れた地獄の合唱であった。


 それでも仲間たちは必死に抗おうとした。ライフルを握り、魔法を唱え、あるいは最後の銃剣突撃に身を投じた。

 空を裂く光弾が街路樹や家屋を粉砕し、誰かの泣き声が夜を切り裂いた。


 硝煙の霧が一瞬だけ薄らいだとき、カイルは自分の持ち場である街区が完全に崩壊したことを悟った。


 壁は砕け、味方の死体が折り重なり、街路はすでに道の形すら保っていない。

 敵の影は建物の上を這い、炎に照らされたシルエットが不気味に揺れている。

 誰かの叫び声が、カイルの耳のすぐ横でちぎれた。


「前線維持、もうムリだ!下がれ下がれぇ!!」


「弾切れだ!誰か、誰でもいい、増援を──!」


 カイルは振り向かない。

 振り向けば、アリシアと交わした約束が崩れ落ちる気がした。


 北門が落ちる。

 その報せを聞いた瞬間から、鼓動が耳の奥を殴り続けている。


 北門はアリシアの持ち場だ。

 彼女は最前列の指揮官として、死の通廊を守っている。


 もし、すでに彼女が──


「いや生きてる。絶対に俺が迎えに行く!」


 歯を食いしばった瞬間、爆風がカイルを横から殴りつけ、視界が灰色に飛んだ。

 耳がキィンと鳴り、頬に鉛弾がかすめていく。


 倒れた兵士を飛び越え、炎の中を走る。

 膝が震え、肺が焼け付くように痛む。

 だが止まらない。止まれない。


 目の前に敵の影が踊り出る。


「どけぇッ!!」


 カイルは術式を起動させる。基礎的な風系の魔法だが、血が昇っていたカイルは魔力出力を最大に解放させる。


 瓦礫諸ごと敵を風の刃で斬り刻むとその骸すら蹴り飛ばし、倒壊した民家の残骸を駆け抜ける。

 空からは尚も光弾が降り注ぎ、地面が何度も跳ねた。


 魔導障壁の残骸が散乱する路地を横切った瞬間、背後で爆発が起こり、温い血の雨が降った。


 胸が裂けるように痛む。

 ただの恐怖ではない。


 あの夜、酔った勢いで告げた言葉。

 城壁の上で真正面から向き合った、あの想い。あれだけは絶対に嘘ではない。


 だから、生きていて欲しい。

 生きて、あの場所で待っていて欲しい。

 大通りに出た瞬間、吹き上がる火柱が夜空を裂いた。

 赤黒い煙の向こうで、北門の影が一瞬だけ見える。


 あそこだ。

 アリシアのいる場所。


 カイルは血反吐を吐きながら、なおも前へ踏み出す。


「アリシアぁぁぁぁッ!!」


 叫びは炎に掻き消されていった。

 それでも彼は走り続けた。


 北門へ──

 彼女の元へ。


 たとえそこが、死地の中心でも。



 カイルが北門へ辿り着いたとき、

 そこには――地獄そのものが広がっていた。


 折れた銃、砕けた剣。

 魔導障壁の残骸が青白く光りながら散乱し、

 兵たちの骸が道の端から端まで埋め尽くしている。


 熱と硝煙と血の匂いが渦巻き、

 黒い煙が夜空へ千切れるように上がり続けていた。


 その骸の海の中央でただ一人。

 炎の残光を背に剣を振り抜く影があった。


 アリシアだった。


 片目の無い顔に、血が流れても気にも留めず。

 ボロボロの軍服は裂け、腕は震え、それでもなお、彼女は戦っていた。


 彼女の剣が閃くたび、血飛沫が光の尾を引き、死に瀕した魔族たちが倒れていく。


 その姿はあまりにも美しく、そして痛ましかった。


 カイルの喉が、裂けるように震えた。


「アリシアぁぁぁぁぁッ!!」


 叫びが夜空に突き刺さった。

 彼女の肩がびくりと震え、振り返る。


 焦げた風が、二人の間をすり抜ける。


 アリシアは、目を見開いた。

 だがすぐに、それは安堵の色に溶けていった。


「……軍曹?」


 その瞬間だった。


 アリシアの足元、死体の山の隙間から――

 まるで闇そのもののような影が、ぬるりと這い出した。


 死んだはずの魔族が、最後の殺意を剥き出しにして。

 顎を開き、牙をむき、アリシアの背へ跳びかかった。


「アリシアッ!!避けろッ!!」


 カイルの叫び。

 アリシアの瞳がわずかに揺れる。


 ――間に合わない。


 彼女はその事実を瞬時に悟り、

 ほんの一瞬だけ、カイルへ視線を戻した。


 そして、微笑んだ。


 それは、初めて彼に向けられた、

 優しい微笑みだった。


「カイル……生きて」


 その言葉が夜に溶けた直後、

 魔族の牙が、彼女の脇腹へ深く突き刺さった。


 鮮血が、花びらのように舞い散る。


 アリシアの身体がくの字に折れ、

 強い衝撃に剣が手を離れ、地面に転がった。


 カイルの心が、音を立てて崩れていく。


「アリシアぁぁぁぁぁッ!!!!」


 叫びも祈りも、炎に飲み込まれていった。


 彼女は倒れ、

 骸の海に――静かに沈んでいった。


 アリシアが崩れ落ちた場所へ駆け寄る前に、死に損ないの魔族が不気味に身を起こす。肉の裂けた音がしたかと思うと、そいつは赤黒い口腔を広げ、まだ温かい血を滴らせながらカイルに向けて嘲るように笑った。


 次の瞬間、世界が裂けた。


「——ッアアアアアア!!」


 怒号とともにカイルの周囲が荒れ狂い、北門の瓦礫と死体を巻き上げる暴風が生まれた。

 その風は刃となり、魔族の身体を一瞬で八つ裂きにする。肉片が飛び散り、黒い血が雨のように降った。風が止んだ時、魔族だったものは跡形もなく粉砕されていた。


 荒い呼吸のままカイルはアリシアのもとへ膝をついた。


「アリシア、アリシア……!」


 震える手で彼女の身体を抱き上げる。

 まだ温かい。けれど、その胸は上下しない。

 視線を辿れば、白銀の鎧の隙間に深々と魔族の牙痕が刻まれ、止まることなく血が溢れていた。


「いやだ、そんなはず、そんなわけ……アリシア……!」


 呼びかけても、彼女のまつげはひとつも揺れない。

 その唇はもう、生きて笑うために動くことはない。


 北門の向こうから、ずるり、と何か巨大なものが近づく音が響いた。

 敵はまだ侵入を続けている。大地が殴られるような重低音が、確実にカイルへと迫ってきていた。


 戦わなければ。

 ここで止めなければ。

 アリシアが守ったこの場所で立たなければ。


 そう思うのに。


 足が動かない。


 膝が震える。視界が滲む。喉が締まる。

 魔力を使いすぎたのだ。血が頭に登りすぎてそこまでの配慮ができていなかった。

 そして頭を上げると圧倒的な“死”がこちらへ向かってくるのが分かった。


 ーー死ぬ。


 そう思った瞬間、耳の奥でアリシアの声がふっと蘇る。


『生きて』


 あの時。

 自分を見て微笑んで、死へと飲まれていった彼女の最期の言葉。


「……ッ、ごめん……アリシア、ごめん……!」


 逃げるように彼は後ずさりし、北門から背を向けた。

 迫る敵影が咆哮を上げた瞬間、カイルは振り返ることもできないまま——夜の炎の街へと駆け出した。


 その背に、亡き彼女の最期の願いだけが焼き付いていた。


 そしてこの日、王都は魔族の手に落ちた。

 その光景をカイルは少し離れた小高い丘の上から見ることしかできなった。

 生き残った安堵感、生かされたという罪悪感が心を支配していた。


 肺は焼けるように痛み、全身が震えている。それが恐怖なのか、寒さなのか、あるいは喪失のせいなのか、自分でも判別できない。

 だが、振り返らずにはいられなかった。


 闇に沈む王都は、すでに都市としての形を保っていなかった。

 炎の柱がいくつも立ち上がり、魔族の咆哮が街の中心まで響き渡る。

 崩れた城壁、倒れた塔、燃え落ちる屋根——そのすべてが、王国の象徴がいままさに滅びゆくことを物語っていた。


「……あ……」


 声にならない声が漏れる。

 膝が勝手に地面へ落ち、乾いた土を掴む指先が震えた。


 街が死んでいく。

 自分が守りたかった場所が、守れなかった場所が——音も光も、全部が消えていく。


 そして、その中にアリシアもいる。

 最後の瞬間まで自分を守ろうとした彼女が。


 彼女の面影が脳裏に浮かぶ。

 血に濡れながら、それでも優しく、あまりにも優しく笑った顔が。


 胸が潰れそうだった。


「……なんで、俺だけ……」


 悔しさも、恐怖も、悲しみも、全部混じって喉を締め付ける。

 風が吹き、丘の草を揺らす音だけが静かに耳に届いた。


 遠くで、城が崩れ落ちる轟音が響く。

 最後の塔が、王家の象徴だった高塔が、炎に包まれて倒れ込む瞬間が見えた。


 それは、王国の終わりそのものだった。


 カイルはその光景から目を逸らせなかった。

 逃げ延びた自分に突きつけられる、どうしようもない現実。


 アリシアの最期の言葉が、また聞こえる気がした。


『生きて』


 その声が、いっそう痛かった。

 涙を拭くこともできず、崩れゆく王都をただ見続けた。


 世界が終わるその瞬間を、逃げた者として見届けることが彼に残された最初の罰だった。


週末ですね!

華金ですね!

皆さん、よい週末を!



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