プロローグ:血と灰の果てに
はじめまして、激務マンです。
初投稿なのでクソ生温かい目で見てやって下さい。
――大陸歴1646年6月、北部高原戦線――
鉄と泥の匂いが鼻を突いた。硝煙の混じった冷たい風が、裂けた軍服の隙間から肌を刺す。
遠くから響く砲撃の轟音と、それに続く断続的な銃声。地面は無数の砲弾の痕でひび割れ、血と泥が混ざり合ったぬかるみが足首を絡め取った。
エイデン・ノアはゆっくりと膝をつき、片手で額の汗と泥をぬぐった。
胸の内で、再び痛みが波のように押し寄せる。重い呼吸を整えながら、彼は周囲の死の匂いが鼻腔を突いた。
彼の肩には古びた銃のおい紐が食い込み、左腕の筋肉は痙攣を起こしている。傷だらけの銃を握る指は震え、意識の片隅では「もう動けないのではないか」と囁く声があった。
しかし、それでも彼は立ち上がった。すべては終わったわけではない。まだ、ここに残った者たちのために動き続けなければならなかった。
ここ北部高原は、アストレア王国と魔導王朝クオンザールの最前線だった。長年にわたり牽制し合っていた両国は、遂に激しい戦火へと変わった。血と火が交差するこの場所で、エイデンは幾度となく仲間の命を見送り、自らも数えきれぬ傷を負ってきた。
その心には、戦友の顔が浮かぶ。炎の中で倒れた仲間、大きな代償を伴ってなお戦いが終わることはなかった。終わりの見えない地獄のような日々が続いている。
「……まだ、終わってねぇよな」
エイデンは拳を握りしめた。死神の足音が彼の耳元で囁くが、それでも足を止めるわけにはいかなかった。故郷を失い、仲間を失い、肉体も精神も限界に近づいている。
それでも戦うのは僅かに残された希望故だった。
エイデンは痛む右肩をさすりながら、ゆっくりと歩を進めた。足元には倒れた兵士たち、彼らの血がまだ乾かずに染み出している。顔に泥が張り付き、どこが傷か判別できない。
だが、その一人一人が、彼にとって大事な存在であり先にヴァルハラへと旅立った同胞たちだ。
彼はふと立ち止まり、空を見上げた。鉛色の雲が厚く垂れ込め、太陽の光はかすかに霞んでいるだけだった。戦争に疲れ果てた心は、もはや光を求めることを忘れかけていた。だが、そんな時、頭の片隅にある記憶が蘇る。
幼い頃、兄と共に駆け回った故郷の森。神樹の恵みを讃える人々の笑顔。平和だったあの頃。すべてが遠い夢のように感じられる。
「あいつは……今、どこにいんだろうな」
そう呟くと、彼の胸にわずかな温もりが戻ってきた。
兄は強い。戦争の中で生き残り、今もどこかで戦い続けているに違いない。生きている限り、希望はあるのだ。
しかし、エイデンの体は限界を迎えていた。魔法を使う余力はほとんど残っていない。彼はゆっくりと膝をつき、深く息を吐いた。何度も戦場で死の淵をさまよい、心も体もボロボロになった。
だが、運命はそう簡単に彼を逃がさなかった。戦火は消えず、彼はまた戦いの渦中に巻き込まれていく。故郷を守るため、仲間のため、自分自身のために。
しかしその後、戦況は悪化の一途を辿り、アストレア王国は徐々に追い詰められていった。クオンザールの魔族たちは、彼らの魔導力と非情な策略で次々と領土を奪っていく。血で塗られた大地は、まるで終わりなき地獄絵図のようだった。
そしてその年の暮、燦々と振る雪さえも灰で埋もれた時分、アストレア王国の三百年続いた栄華は終止符を打たれた。
読んで頂いてありがとうございます。
仕事で割と本気で激務なため不定期更新となりますが、頑張ります。
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