うーまれったて!
「はーい、おむつ替えますよー。」
いつもありがとうございます。
感謝の言葉を心の中で叫びながら、
大人しくおむつ替えをしてもらう。
「あらぁ、リアちゃん今日も大人しいわねぇ。」
赤ちゃん生活にも慣れたもので、
オムツを替えも食後のゲップも恥ずかしくは無くなった。
「今日は神父様お仕事だから寂しいわよねー。」
どうやら、私は捨て子らしく教会の前に置かれていたらしい。
教会の神父様が私を保護し養子にしてくれたのだ。
前回から出ているこの女性は近くの村に住む、
マチルダさん。
私のお世話をしてくださっている方だ。
さすがに神父様といえど、お乳は出ないので
このひとの母乳をもらってるのだ。
現在生後6か月の男の子がいる。
「それじゃ、働きますかねぇ。」
マチルダさんにおぶられながら、仕事に同行する。
同行する以外の選択肢はないが。
彼女の仕事は、巻き割りから洗濯、料理を作ったり、まぁいろいろしている。
私と息子さんの面倒を見ながら働いているのだ。
私をおんぶしつつ息子さんは抱っこしている。
結構ストロングスタイルで働いているのだ。
抱っこ紐なるものは存在しないので、
布をうまく使って、身体を密着させている。
いつ落ちるかひやひやしているが、意外と落ちないのだ。
そして、マチルダさんの仕事は
くそデカい蜘蛛のケツから糸を引っ張り出して束にすること。
カラカラと音を立てながら、糸車が回る。
その先にはくそデカい蜘蛛がいる。
世界最大長の蜘蛛はるブロンオオツチグモで
体長は最大で30cmらしい。
対して目の前の蜘蛛は、1m以上はある。
だが、不思議と気持ち悪い感じはしない。
虫というよりも犬とか羊とか鶏みたいな感じがする。
ひっくり返されて、腹から糸を引っ張り出されている。
完全に家畜化されているようだ。
まぁ、薄々わかっていた。
私は死んで転生したのだと。
しかも、ただの転生ではない。異世界転生だ。
いや、ここ最近のネット小説的に転生といえば異世界以外ないのか?
とにかく、私は死んだ。
分かっていたことだしずっと覚悟していた。
それでも、いざ死んでみると心にくるものだ。
まぁ、それも1ヶ月で克服した。
ひたすらに、赤ちゃん返りしたのだ。
赤ちゃんなのに赤ちゃん返りとはこれ如何にと思ってしまうが、ここ1ヶ月ギャン泣きしたり甘えたり色々としているうちに吹っ切れてしまった。
死んだものは仕方ない、新しい生を精一杯楽しもう。
というわけで、第2の人生、初の異世界楽しむことに決めたのだが。
マチルダさんが蜘蛛の糸を束にしてると、遠くで「ドォン!」っと低い音が響いて、地面がぐらぐら揺れる。
「また魔物かしらねぇ。最近多くて困るわぁ。」
彼女は平然と呟き特に気にせず作業をし続けているけど、私の心臓はいまだにバクバクしてる。
赤ちゃんなのに、危機感だけは一人前だ。
こんだけ揺れたら普通は狼狽えるものだが、マチルダさんは特に何の反応もなくあの発言をするので相当な猛者である。
異世界転生に初めはワクワクしていたが、どうやらこの世界魔物とかいるらしい。
目の前の蜘蛛とか明らか魔物だけどこいつらはそんなに怖くない。
怖いのは、村の周りにいる魔物だ。
結構定期的にドンパチやっているらしく、村の男達が
せわしなく戦っている。実際に戦っているところは見たことないが。
震度3の地震並に揺れているので結構不安になる。
地震ではなく魔物との戦闘の結果揺れているので
どんな化け物と戦っているのか想像もつかない。
少なくとも、そこでひっくり返って人間に糸を引っ張りだされている情けない蜘蛛よりは強い筈である。
「そろそろ帰ってくる頃合いかしらね?」
マチルダさんがそういうと、小屋にノック音が響く。
「戻りました。」
「はいはい。いつも通り時間ぴったりね。」
白髪の神父が小屋に入ってきた。私の養父である。
「いつもすみません。」
「気にしないでいいのよ。神父様には、助けられてばかりだから。
ヤギのミルクは足りてる?」
「えぇ、しばらくは大丈夫かと。」
「そう。良かったわぁ。リアちゃーん。パパですよー。」
マチルダさんの背中から降ろされ神父様にバトンタッチされる。
斜め掛けのボディバッグみたいな抱っこ紐で横抱きにされ、
神父様の左手で支えられる。
「帰りましょうか。」
ようやく、帰宅である