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元勇者の話
齋藤悠真は勇者であった。
日本にて学生であった彼は、
異世界に召喚され勇者となった。
仲間と共に魔王を倒し世界を平和に導いた。
しかし、役目が終わった彼の力は世界に必要なかった。
そう感じた彼はひっそりと身を潜めていた。
帰ることも出来ない彼は、
静かに少し早めの老後をすごしていたのだ。
それから約20年がたった。
彼が住む山奥の村の教会に、赤子の泣き声が響いた。
「こんな山奥まで、一体誰が。」
彼がドアを開けた先には、籠に入れられた赤子がいた。
その赤子の魂は異質であった。魂の本質を目分けることの出来る勇者の瞳には、女神の加護と混ざりあった魂が映った。
「この子は……。」
チリンと、凛とした鈴の音が鳴り響いた。
この子を育てろ。
そう言われたような気がした。
あぁ、昔と同じ感覚だ。懐かしい。
啓示に従い、仲間と共に世界を救ったあの時を思い出す。
きっとこの子は自分と同じような運命を辿るのだろう。
女神の使徒として、使命を果たす。
ならば私は、この子に与えられる限り全て与えよう。
元勇者として。