転生
「私、死ぬんだよね?お母さん。」
母は後ろを向いたままこちらを見ようとしない。
「な、何言っているのよ。先生がお薬を強めにしたから大丈夫って言ってたじゃない。」
相も変わらずこちらを見ないまま、鼻声で話す母に私は申し訳ない気持ちになった。
「ねぇ、もうさ大学行くの無理だよね。」
「大丈夫よ、休学しているだけだし。1年生の単位はと
ってたじゃない。あなた。」
多分無理だろう。私の医療費で、学費どころでは無いだろうし。そもそも、大学行けるようになるまで回復するのは不可能だろう。
私も薄々感じてはいた。
いつからか母は私の目を見れなくなった。
きっと目を見てしまったら嘘をつくことが出来なくなるからだろう。
「そうだね。」
なんて適当な返事で誤魔化す。
もう、院内のコンビニすらいけなくなってしまった。
「そ、そうだ。桜を見に行きましょ!
みんなでお弁当を一緒に食べてお花見するの。来月までにはきっと退院出来るわ。」
「え、めっちゃ楽しみ!頑張るわー。」
きっと桜は見れないだろう。
「じゃあお母さんもう行くね。」
「うん。そんなに来なくてもいいよ。
お母さんも大変だろうし。私放っておいても平気だから。由奈たちの面倒見なよ。」
鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
「そんなこと、言わないで。」
母がついに、ボロボロと泣き出してしまった。
言ってはいけないことを言ってしまった。
「……ごめん。」
泣かせたかった訳じゃないんだ。
本当に大変だろうと思ったから、つい口にしてしまったんだ。
そんな言い訳も口に出来なかった。
「また、明日も来るから。来週は由奈とお父さんも来るからね。」
何事も無かったかのように、泣き止んだ母は真っ直ぐと私を見つめた。
「うん。」
私もお母さんの顔が見れなかった。
その日から段々と起き上がれなくなって、体が痛くなってきた。寝てる時も起きてる時も
四六時中ずっと激痛が走ってた。
辛くて、辛くて、寝ることも出来なかった。
日に日に衰弱していくのがわかった。
「先生を呼んで!!」
ある日急に容態が急変した。
息が苦しい。
辛くて必死にもがく。
あぁ、みんなとお花見をしたいなぁ。
私も遊園地に行きたいなぁ。
大学に行きたい。立派な教師になりたい。
家族と一緒に過ごしたい。
歩きたい。ゆっくり寝たい。
採血したくない。
病院食以外の美味しいご飯を食べたい。
生きていたい。生きたい。死にたくない死にたくない。
生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。
生きたい!
―――――――――――――――――――――――
なんだか、暗いところにいるような気がする。
でもとても居心地がいい。
ずっとここにいたい。
でも、なにかしたいような気がする。
誰かが指を指す。
あちらに行けばいいのかな。
光りが輝く方向に流されていく。
あぁ、心地いいなぁ。
いつ間にか川にいて、その中をふわふわ漂っていた。
そうしたら海について、あっという間に
底の方まで沈んで行った。
何もなかったことにしたい。
しかしながらそれは不可能です。