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出会い

私とヘルベルトが出会ったのは、今日のようなシュテインス城で開かれた夜会の場であった。

私は14歳のデビュタントとアシェルナ大公家の次期としてのお披露目の場であった。

夜会の会場の入場を待つ控えの間。

私は領地にいる父に代わってエスコートしてくれる兄リンウッドと共に緊張しながら待っていた。

そこにカイングベルグ大公が一族の年若い青年達を連れて控えの間に入ってきた。

その中の1人の青年、ヘルベルトが私の方を見て固まってしまう。

「君は……」

お互いの挨拶をする前に、ヘルベルトが驚愕の表情を浮かべて私から視線を外さない。

私はその視線に捕らえられ、怖くて兄の後ろに隠れるように移動した。

「久しぶりだな、リンウッドくん」

そんな私とヘルベルトの様子に気付いてないカイングベルグ大公が兄へと挨拶するためにこちらに近付いてくる。

「や……」

私の漏らした小さな悲鳴にリンウッドが気付いてこちらを振り返る。

「お互いの連れを紹介し合おうか」

「リシャー、どうした?」

カイングベルグ大公は私が恥ずかしがっているとでも解釈したのかもしれない。

でも、私はヘルベルトの視線が怖くて怖くて、両手を握りしめた。

「おい、ヘルベルト!?」

連れてきた人を紹介しようとカイングベルグ大公も後ろを振り返る。

そして、ヘルベルトの異様な雰囲気にようやく気付いた。

「おにい……さま」

「どうした、リシャ!?大丈夫か!!?」

どんどんと顔から血の気が引いていくのがわかる。

それなのに鼓動だけが速く打っているのが耳に響く。

「おいっ、ヘルベルトッ、待てっ!!」

ヘルベルトがカイングベルグ大公の静止を振り切り、私の方へと足を動かす。

「オレの…………番……」

フラフラとした足取りながらも、ヘルベルトが私の数歩手前までやってくる。

あと少しでヘルベルトの手が私に触れそうになる。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!??」

恐慌状態に陥った私は、甲高い悲鳴をあげた。

「ヘルベルトを押さえろっ!」

一瞬呆気に取られたカイングベルグ大公だが、すぐに正気になりヘルベルトを羽交い締めにかかる。

「離せぇぇぇ!!」

連れてきた青年達も加わり、暴れるヘルベルトの手足を押さえていく。

「リンウッド、彼女をこの場から連れて行けっ」

カイングベル大公は今にも倒れそうな私を連れて行くようリンウッドに指示をする。

「リシャ……」

リンウッドは何がなんだかわからないが、私の身を抱えて部屋から連れ出してくれた。


「リシャ、大丈夫?」

先ほどの部屋から少し離れた控室。

私はリンウッドに支えられながら、なんとかソファへと座る。

リンウッドは私を落ち着けるように、肩を抱いて頭を撫でてくれていた。

「リシャ、何がそんなに怖かった?」

そう問われても、私も何があんなに怖くてパニックになったのか自分でもわからない。

ただ、カイングベルグ大公達が入ってから、聞こえていたのは自分の鼓動だけだったように思う。

今は早鐘を打っていた鼓動もだいぶ落ち着いた。

「カイングベルグ大公達は竜族の方だから怖かったのかな」

私達妖精王の加護を受けるアシェルナ大公とその一族は、カイングベルグ大公や一族が苦手だ。

それはヴァーデリングの地での争いの時、竜達がその圧倒的な巨体と攻撃力で妖精達を薙ぎ払うように妖精の棲まう地を蹂躙したからだ。

今でもカイングベルグ大公はアシェルナ大公の治める東の地に足を踏み入れることは許されていない。

「リシャは今日、初めて竜族の方に会ったからな」

領地でずっと暮らしていた私は、そこに棲む妖精達から竜達への恨み言を聞いていたから、それで潜在的に怖かったのかもしれない。

「今日はもう家に帰ろうか」

「ごめんなさい……」

「謝ることはないよ。君がそれだけ妖精達に愛されているという証拠でもあるんだ」

しっかり者の兄リンウッドではなく私がアシェルナ大公の次期になるのだ。

こんなことでやらなきゃいけない社交から遠のいてしまうなんて。

せっかくのこの国でのお披露目(デビュー)だったのに。

「大丈夫、こんなことで僕の可愛いリシャを悪く言う人なんていないから」

リンウッドに慰めながら、私は二人で城を後にした。


デビューできなかった夜会から2日後。

首都にあるアシェルナ大公邸にカイングベルグ大公からの使いの者がやってきた。

「怖くなったらすぐに言って?」

私は同席しないと伝えたのだが、相手がどうしても私の同席を要望しているという。

「大丈夫だよ、僕がいるから」

嫌だとダダをこねても、これ以上は兄を困らせるだけになってしまう。

私は気分が悪くなったらすぐに退席してもいいという条件で、兄の横に座ることになった。

「この度はお会いいただきありがとうございます」

私達が応接室に入ると、直立不動で待っていた男性が直角に腰を折った。

「顔を上げて下さい」

いきなり平身低頭な使者の態度に、二人で面食らう。

兄に促され、使者も私達の対面に着席した。

「私はカイングベルグ大公首都屋敷を任せられているスカイラーと申します。私のような立場の人間が使者として遣わされましたのは、私にはほぼ竜性がございませんので、アシェルナ大公女様を怖がらせることが少ないだろうという主の判断でございます。どうぞご理解下さい」

スカイラーはカイングベルグ大公邸の執事らしい。

執事なら前触れの使者くらいの扱いで、このような正式な使者となることは珍しい。

私が竜の気配に怯えないよう配慮してくれたのだ。

ここで使者の格がなんて心の狭いことを言うつもりは私も兄も無い。

その様子を察して、スカイラーはホッとしたようだ。

「あれからアシェルナ大公女様はおかげんは大丈夫でしょうか?」

「もうなんともありませんわ」

「それは良かったです。それで、先日のシュテインス城での我が主とそのお連れ様との邂逅の件に付いて、こちら側の事情をお伝えしに参りました」

「そちらの事情…ですか?」

私が竜の気配に怯えたということじゃないのだろうか。

「お二方は一族の中でもカイングベルグ大公をはじめ一族の中枢には竜族というただ人ではない方々の存在をご存知でしょうか?」

「それはもちろん」

リンウッドと共に頷く。

聖竜カイングベルグの加護を受ける一族は、文字通りその加護を受ける者と、かつての竜を祖先に持つ竜族の二通りがいた。

カイングベルグ大公ゼインツは聖竜カイングベルグを祖先に持ち、その他竜族は神話時代にいた竜を祖先に持つという。

「竜族には我々とは違い特殊な性質を持っております。その一つが『番』です」

「つがい…?」

竜達のことを知ろうとすると、私の周りにいる妖精達が嫌がるので、私はあまり竜のことを知らない。

スカイラーの説明によると、 竜族は伴侶を番と呼び、生涯ただ1人を愛するという。

番はその相手と出会ってしまえばわかるものらしい。

「あの夜、アシェルナ大公女様をひと目見て取り乱した男が申すには、アシェルナ大公女様が自分の番だということです」

「やっぱりか…」

リンウッドが私の隣で頭を抱える。

「男の名はヘルベルト・バイルズという者です」

「……ヘルベルト」

私を見つめていた青年を思い出していた。

あんなにあの時は怖いと思っていたのに、彼の名前を口に乗せたらなんとなくしっくりとくる。

「そこで主…カイングベルグ大公からのご提案にございます」

「提案ですか?」

「アシェルナ大公女様が大丈夫なようでしたら、今一度大公閣下とヘルベルトに会って欲しいそうです」

「何故2人に?」

リンウッドが提案に怪訝そうにする。

「アシェルナ大公女様が閣下を恐れたのか、それともヘルベルトの出会いで何かを感じ取られたのか、それを確かめるためです」

「なるほどな」

「閣下もヘルベルトもこの屋敷には立ち入ることはできません。ですから街にある庭園を貸し切り、互いの顔が認識できる程度にお会いできないかと閣下からの提案でございます」

竜を怖がるかもしれない私のために、私は兄と共に庭園の東屋に待機。

東屋には入らない距離で、カイングベルグ大公とくだんのヘルベルトが私に会いたいということらしい。

「リシャ、どうする?君が怖いならやめておいた方がいいけど…」

リンウッドに聞かれ、私は悩む。

「このまま領地に戻ってもモヤモヤしたまま気になります。怖いけれど、カイングベルグ大公閣下にここまで配慮していただいておりますので、提案通り会いたいにと思います」

私の言葉にスカイラーはホッとしたようだった。


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