Episode04/2.異能力者(中)
一応ノックをして、そのままドアノブを握り捻る。
そのままそっとドアを開き、室内に入った。
「そんなビビらなくてもいいわよ? あなたが新しい異能力者の杉井さんで間違いないわよね?」
室内には二人の人物が待機していた。
声をかけてきたのは、高校生ぐらいのーーというより、高校制服を身に纏い、上から白衣を被った姿の少女だった。
二人目は20代の女性。
手元にクリップボードを携えており、おそらく検査結果などを記入する係なんだろうと推測できた。
「あ、はい、そうです。昨日いきなり異能力者になってしまって……」
「あーうん。とりあえず検査していくから、まずは椅子に座って?」
明るく朗な声質で指示される。
少女は可愛らしい外見をしており、髪は肩までの長さで綺麗に切り揃えられている。
僕は検査を担当すると思わしき少女の前に置かれている椅子に腰を下ろした。
男だったときの僕と同年代くらいに見える少女が検査するのか。と少し不思議に感じた。
部屋は意外と広い。
少なくとも病院の診察室よりは広いだろう。
ドアから入り目の前に進んだ奥に少女が座っており、その隣には成人女性。
少女の前には、これから診察を受けるひとが座るための椅子。
そこに僕は腰掛けたのだ。
単なる内科の診察室と雰囲気が酷似していた。
「あの、異能力は勝手に女になるというものでーー」
「あー、話は聞いてるから把握してるわ、どんな異能力者なのかは。異能力者保護団体に連絡してくれたときに説明した内容で間違いない? 能力は身体干渉、女体化で元の姿には戻れないで合ってる?」
少女は普段からタメ口なのか、年下相手に見えるからか、それとも同年代だからタメ口にしているのかはわからないけど、やたらとフランクな口調で話しかけてきた。
「はい、そうです」
「他にはなにも異能力を使えたりはしない? 女体化以外にはなにか特別な力を授かったとか、脳内に情報が流れてきたりはしなかった?」
僕は無言で頷き肯定する。
なにか忘れているような、記憶からすっぽ抜けた情報があるような気がしてならないけど、思い出せないということは重要な重要じゃないと思うし、わざわざ言う必要ないだろう。
「杉井さんは、これから私がする質問に答えたり、簡単なチェックをしたりするだけでいいから大丈夫よ」
「あ、はい……」
ふと少女の社員証?
首から下げている名札が視界に入り、そちらに視線が移る。
せっかく忘れようとしている裕璃を想起してしまった。
葉月瑠璃という似ている名前を見たせいで。
「とりあえず異能力霊体が幽体と重なって在るのは一目瞭然だし、女体化という能力も使えるから異能力者に当たることになるわ。話を聞いたかぎり、今の段階じゃ能動的に異能力を解くこともできないみたいね」
異能力霊体が幽体と重なって在る?
つまり、葉月さんには僕には見えない何かが見えている?
そういえば、ちょうど授業で異能力者だと判断される条件があるのを習っていた。
特殊な力なのか。
僕にはわからないなにかによって、葉月さんの瞳には幽体とやらと異能力霊体が見えているようだ。
「はい、間違いないです」
「それじゃ、ちょっと変な事をこれからするけど、貴女があなたのままなのか、それとも少なからず異霊体に侵食されているのか、判断する為だから勘違いしないでね?」
ーー元は男なんでしょ?
と葉月は補足した。
「は、はい……?」
変な事って、いったいなんだろう?
「ほら、私を見てて」
「はい」
葉月さんは自分の制服の裾を両手で握る。
「せーの」そのまま裾を両手で持ち上げた。「ほら」
「ちょっ! な、ななっ!?」
慌てて視線を逸らしてしまった。
僕の視界に緑色のブラジャーが現れたからだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「ーーうん、大丈夫みたい。まだステージは1のままかな? そりゃ昨日発現したばかりだものね」
顔に熱を帯びてあわてふためく僕を無視して、葉月は隣に居る女性に「侵食ステージは1です」と伝えた。
女性は言われたことを書いているのかーークリップボードに挟んだ紙になにかを記入する。
葉月は女性に伝えながらも衣服を正し、元の姿に戻った。
「じゃあ次。軽い認識テストね」
「あ、あの、待ってください。今の行為はいったいなに!?」
「やっぱり気になる? えっとね……異能力者って、異能力霊体、略して異霊体の侵食率っていうパラメーターがあるんだけど、知ってる? 異霊体侵食率は、異能力を乱用したり、マイナス感情ーー不安や怒り、悲哀などーーが激しく揺さぶられたりすると、上がっていっちゃうの、わかる?」
「え、あの、初めて聞きました」
どうやら、異能力者は異能力を使うたびに、幽体ーー精神の体が異霊体に侵食されていくらしい。
侵食率10%でステージ1、20%でステージ2、40%でステージ3、60%でステージ4、60%以上でステージFと区分されているという。
侵食率が上がるたびに異能力者は異霊体に支配されていき精神が変容し、性格や認識、意識が変貌する。
犯罪行為などに罪悪感を抱かなくなったり、ものの見方まで変化してしまうという。
葉月さんは端的にそう説明してくれた。
「まだあなたには、本来の杉井さんの男の認識が強く残っているから、私の下着に対して過敏に反応して恥ずかしがっちゃうのよ。つまり、まだ異霊体に侵食されている割合が低いとも言えるの、わかる?」
「な、なるほど。異霊体に侵食されたら目を逸らしたりしないってことですか?」
「あなたを霊視すると、やっぱり女の子の幽体が憑いているからね。もし侵食率が高まったら、同性の下着程度であんなに激しい反応は起こさなくなるのよ。じゃあ、次の検査をつづけるから、いい?」
「は、はい」
異能力を使うたびに異能力霊体という別人格の様な存在に意識が侵食されていく?
ーーって、じゃあ、常に異能力を使っている様にも思える僕は、これから先いったいどうなってしまうんだろうか?




