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Episode12/1.ー特殊指定異能力犯罪組織“愛のある我が家”ー

(??.)

 空から陽の光が降り注ぎ、潮風が吹いている。

 そんななか、神奈川県の最南東に位置する島へと架かる橋の前には、三つの人影が佇んでいた。


 そのうちのひとりーー白髪の童女は、鮮やか血のような赤眼を、背後に居る日傘を差している女性に向ける。


「沙鳥、もう四半刻は経つが、研究所(あそこ)から人が出てくる様子は窺えないぞ? このまま待っていようと状況は進まぬじゃろうな」


 童女は首までの長さで髪を切り揃えたおかっぱ頭をしており、一見10歳前後の幼い子どもに見える。身長も130cmあるかないかだ。

 髪の色も瞳の色も、和服なのも、今どき珍しい風貌をしていて一目で異質だとわかる容姿をしていた。


 童女から瞳を向けられた日傘を手に持つ二十代前半の女性ーー嵐山沙鳥(あらしやまさとり)はため息を溢す。


 橋の向こう側にある異能力犯罪者を収容する役割も担っている大きな施設ーー教育部併設異能力者研究所。

 その出入口を肉眼で確認して童女は嵐山沙鳥に告げたのだ。


 600メートル弱の長さを誇る城ヶ島大橋の端から端。そして、橋の先から施設までの距離を合わせ、およそ700メートル弱は先にある施設を、少なくとも肉眼で確認したのを前提にした童女の発言であった。


 しかし、嵐生沙鳥は、童女の肉眼で向こうが見えていると確信しているのか、手首の腕時計を確認すると、心底下らないと言わんばかりに再び嘆息し、表情を崩さずに口を開いた。


(すみ)さんの仰るとおりです。まったく、我々を舐めているのでしょうか? それとも、バカになさっているのでしょうか?」


 嵐山沙鳥はため息混じりに呟く。


 嵐山沙鳥の頭は癖毛で乱れて大変なことになっている。

 しかし、身なりをきちんと整えているため決して不潔というイメージはなく、むしろ清潔で綺麗だと周りから評される容姿をしていた。


 美人と評される機会も度々あるほど、可憐な容姿。


 しかし、立ち居振舞いや服装、装飾品など全身を評価せずに顔立ちだけを見ると、美人というより可愛い側だと判断されやすい。


 美しいと云われているのは、黒を基調としたシンプルな上着やロングスカート。

 小さなピンク色の装飾品(ピアス)、そして、所作や振る舞いによる部分が大きく占める。

 澄より25cm程背が高く、150cm代後半の身長をしている。


「勘違いしてるんじゃない? だってリーダーがさとりんだよ? 特殊指定異能力犯罪組織のリーダーがさとりんだって言われても、舞香(まいか)に比べたら怖がるひとは少ないじゃん」


 和服の童女ーー澄の隣に佇んでいる140cm前後の身長をした、中学生ーー下手すると小学生に見られてしまうほど低い背丈と、幼いながらも整っている顔立ちをした少女は、嘘偽りない率直な感想を口にした。


 少女は肩まで伸びた綺麗な黒髪をしておりカチューシャで髪を飾っている。しかし本人から見て右側のモミアゲの一部だけ、生え際から毛先まで明るい緑に染まっており、それだけで異質だと周りから見られてしまう。


 しかし、実際にはモミアゲの一部の鮮やかな緑髪は黒髪と上手く調和しており、自然と解け合っていた。

 根本から毛先まで一部緑に染まっている髪色も、取って付けたような様な違和感はない。


「そのあだ名、やめてもらえませんか? 第一、舞香(まいか)さんが愛のある我が家の代表をやめて一構成員に自ら身を落としたとき、代表を託されたのは私です。暴力とロリコン好みの外見以外取り柄がなく、少しの事で直ぐに暴走しがちな微風(そよかぜ)さんには、少なくともリーダーは務まりません」


「ええっ!? いきなり他人行儀! 愛のある我が家の仲間同士はファーストネームで呼び合うのが鉄則(ルール)だって言い出したのは沙鳥じゃん! ずっとさとりんって呼ぶことにしちゃうよ?」


 微風瑠奈(そよかぜるな)は唇を尖らせ文句を口にする。


「口を挟んで済まぬが、無駄なやり取りを敵対する施設に繋がる橋の前で、ぐだぐだとじゃれあう暇はないと思うがのう」


 澄に苦言を呈され、嵐山沙鳥は首を縦に振り肯定した。


「たしかに、このような雑談は無意味ですね。自称美少女代表の瑠奈さん? 貴女の意見を訊きましょう。今しがた仰っていた『勘違いしている』とやらの真意はなんでしょう?」

「ううっ、たしかにわたしは美少女だけど、自称じゃないよ。うっうっ……」


 微風瑠奈は、わざとらしく泣き真似をする。


「本題に軌道修正しただけです。瑠奈さんの仰る“勘違い”とは、いったいなにを指している言葉なんですか?」


 嵐山沙鳥は少し緊張している面持ちを見せているが、微風瑠奈と澄と呼ばれる嵐山沙鳥の部下でもあり仲間でもある構成員二名は、緊張している様子が微塵も感じられない。


「沙鳥には言わなくても伝わってるでしょ? リーダーが非力な沙鳥だから、武力行使はしてこないって勘違いしてるんじゃないかなって。油断してるんじゃないかなって単純に思ったことを口にしただけじゃん。深い意味はないよ」


 微風瑠奈の答えに対して、澄は「待て」と言い話を遮る。


異能力者研究所(あそこ)には対異能力者特化の存在干渉系の異能力者が常に居るのじゃろう? 異能力者保護団体とは違い、襲撃されても異能力者相手なら容易に鎮圧できると勘違いしておるのじゃなかろうか?」


 ーーわしと瑠奈は異能の力を使えるが、非・異能力者とは気づいておるまい。


 澄はそう主張した。


「まったく……30分以内に所長および副所長と青海舞香(あおみまいか)を連れて施設外に出てくるよう伝えたというのに、実行に移す素振りさえ窺えませんね」


「危機感が薄いんじゃない? 特殊指定されてるっていっても、反国組織の“リベリオンズ”や、過去に澄が壊滅させたテロリスト紛いの“異能力者解放戦線”や人身売買特化の異能力犯罪組織“GCTO”と比べると、“愛のある我が家”の特色はかなり違うじゃん」


 微風瑠奈は自分の所属する異能力犯罪組織以外の特殊指定されている、またはされていたが現存してはいない異能力犯罪組織の名前を挙げていく。


「リベリオンズ……同盟を結んでいるとはいえ、互いを標的にしないだけの薄い関係……正直な話、邪魔になって来ましたし……交渉材料に使えるかもしれませんね……とするなら……」


 嵐山沙鳥は独り言を呟きながら、熟考し始めた。


「わたしや澄が全力出す機会なんてほとんどないじゃん? いっそ圧倒的な力を見せつけたほうがいいんじゃない? 沙鳥が許可するなら、今から(あそこ)を更地に変えもいいよ?」


「いや、待つんじゃ瑠奈。わしが舞香以外の人間を殺戮したほうが恐怖を抱かせるには最適じゃぞ? 跡形もなく消し去るより、血や臓物で施設内を満たして所長含め一部の職員だけ残したほうが、人間の恐怖心とは強く刺激されるものじゃ。どう思う、沙鳥?」


「いえ本気でやめてください貴女方二人が全力で暴れたら舞香さんまで消し炭になりかねないのでお気持ちだけで結構です」


 二人の物騒な物言いに対し、嵐山沙鳥は慌てた口調で否定した。

 嵐山沙鳥は深く嘆息する。


「お二人ーー特に澄さんに至っては、本当に底知れませんよね。正直に言えば私の身には余るのですが、対異能力者専門の異能力者が駐在する異能力者研究所(あそこ)を正面から攻略するには、あなた方に頼らざるを得ません……ああ、本当に胃が痛い」


「澄、ダメだって」


 微風瑠奈は澄に顔を向けて言う。


「ふむ、なれば如何にする、沙鳥?」


 澄は嵐山沙鳥に問うと、あとは黙り返答を待つ。


「今から相手方に“直ぐに施設内から対話可能な人物が姿を見せない場合、建物の破損および妨害する人の排除を行う”旨を伝えます。15分経過しても反応を示さない場合は突入します」


 嵐山沙鳥は淡々と命令を下す。


「澄さんは“血界”を行使して舞香さんと大空白(おおぞらしろ)の居場所を特定したのち、舞香さんの救出を最優先に行動してください」嵐山沙鳥は瑠奈に視線を移す。「瑠奈さんは私を援護しながら大空白(おおぞらしろ)の確保をお願いします。異能力者に対する最大の脅威を誇る異能力者です。先を踏まえて大空白の殺害は許容できませんが、死なない程度に負傷させるのは許可します。最後に目的のひとつ、取引に持ち込みます」


「おっけぃ」

「承知したぞ」


「ではーー」


 嵐山沙鳥は教育部併設異能力者研究所の方角を見据えると、日傘を閉じて地面に置く。


 そして、五感が異様に鋭い澄には聴こえるが、微風瑠奈には聴こえない程の小声で言葉を発し始めた。


「再度全職員に伝えます。今より15分以内に交渉可能な立場の職員が研究所から姿を現さなければ、青海舞香の引き渡しには応じないものと判断し、行動を開始します。それに伴う被害ーー施設の破壊や施設関係者の負傷ならびに殺傷はご理解していただけたものと判断します」


 嵐山沙鳥の異能力のひとつ、視界内の指定した建物の中にいる人物全員の脳内に直接メッセージを送るーー広範囲異能力“送心”を使う。


 それにより、教育部併設異能力者研究所の中で働く職員や関係者、逮捕監禁されている異能力者まで含めた全員に、嵐山沙鳥が呟くように小声で発した言葉が伝わる。


 嵐山沙鳥は、微風瑠奈と澄に顔を向ける。


「お二方、無益な殺生は控えるよう注意して行動してください。昨晩言ったとおり、我々は異能力者保護団体系列の組織と、最終的には同盟を結びたいと考えています。特に瑠奈さん、貴女は直ぐにカッとなってやらかすので、特に気を付けてくださいね?」


 嵐山沙鳥は二人に対して、可能な限り不殺を貫くよう強調した。


 澄は橋の向こうに目を見据えると、嵐山沙鳥と微風瑠奈の視力では一切見えない距離で起こった出来事を二人に伝えた。


「二人ほど施設から出てきたようじゃが……如何にする?」

「二人とは?」


 沙鳥は澄に問う。


「片方はお主の言う大空白というヤツじゃ。もうひとりは30代手前の男性ーーおそらく職員じゃろうな」


 澄の説明を耳にした沙鳥は、「瑠奈!」と微風瑠奈の名を呼ぶ。


「行動内容の変更。即刻、大空白を確保して、職員に対して青海舞香を引き渡すよう告げてください。器物破損、命に関わらない程度なら加害も許可します」

「おっけぃ、りょーかいッ!」微風瑠奈は返事をしながら橋の先に体を向けて前に傾き、地面の後ろを片足で強く蹴るように踏んだ。「愛のある我が家の脅威、その身を以て味わわせてやる!」


 微風瑠奈は地面の上を真っ直ぐ飛行。

 強風の速さで、橋の向こうまで一気に距離を詰めるべく飛び始めたのである。

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