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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(改正版)  作者: 沙風(すなかぜ)
第六章/愛のある我が家
254/270

Episode80/3.嵐(豪雨)

(163.)

 藍の異能力によって、私は自宅のあるマンションの入り口前に転移されて送れてきた。

 マンションのなかに送ってくれたほうがよかったのに……。


 何故なら、雨が激しくなり、ばしゃしゃしゃしゃーーと水滴がコンクリートに叩きつけられる凄まじい音が響き渡っているのだ。

 それくらいどしゃ降りの雨に曝されてしまう。


 それに、藍の異能力による転移は、舞香の異能力による空間置換に起因する転移とは異なり、転移が完了するまで少しタイムラグがある。

 転移を終えるまでのあいだで、既に衣服はびしょ濡れだ。

 せっかく汗が乾いたタイツまで再びびしょ濡れになってしまった。


ーー早く自宅に帰ったほうがいいのではないか?ーー


 わかっているよ……。

 私はマンションの前であまりの雨に対し、転移を終えても一瞬の間棒立ちになってしまっていたが、すぐさま意識を目前に戻し、マンション内に急いで駆け込んだ。


 ーー胸騒ぎが酷くなったり、収まったりする。


 この今までにはない奇妙な嫌な予感の波はいったいなんなのだろう?


 自宅があるマンション内の通路の一番手前に辿り着くと、そこにはちょうど自宅の玄関を開け、室内に父さんらしき人影が入る姿が視界に映る。


「……はっ?」


 思わず驚きが口から漏れてしまった。

 なぜか?

 父さんの背後に私よりよほど近い位置から駆け寄る人影が二つ、視界が捉えたからだ。


 しかし、その人影の足音に父さんは気がつかない。

 あまりに激しく降り落ち轟く雨音のせいで。


 ーー私の嫌な予感は大抵当たる。


 いいや、違う。

 嫌な予感や直感は、今の私はほとんど100%の確率で的中してしまう、といっても過言じゃない。


 私は疲れた足を鼓舞するように叩いたあと、一気に走り出す。


 しかし、父さんは玄関の鍵をすぐ閉めなかったらしく、人影は玄関を容易く開き、私の自宅のなかへ足を踏み入れてしまう。

 その人影は、目出し帽を被った男と思しき体躯をした二人組だとわかった。


 すぐに玄関が閉じられる。

 閉まる音は、雨音に掻き消されて聴こえない。


 私は少し遅れて玄関前に辿り着くと、息を切らせたまま慌ててドアノブを掴み玄関を開けようとする。

 しかし、あの目出し帽男らが浸入した際に施錠したのか開かない。


 私は焦りながら、鍵をどこにしまったか焦る頭で考え、衣服をぺたぺた触りポケットの奥から財布を取り出し、財布の中から鍵を抜く。


「!?」


 自宅内から、母親らしき声の悲鳴が聴こえた。

 争うなにかの物音まで、微かに耳まで届く。


 家族が危ないーーと直感が脳に訴えてやまなくなる。


 脳裏に母さん、父さん、裕希姉の顔が浮かぶ。すなわち、家族の身が危ないという予知に他ならない。

 私は急いで鍵を差し込み、ドアノブを曲げて解錠する。

 玄関を開けるなり、すぐに中へと飛び込んだ。


 だが、最初に目の前に飛び込んできた光景は、こちらを向いている目出し帽を被った男の身体であった。


 背丈が高く、私は顔より先に腹部に目が行ってしまう。

 いや、背が高いからではない。


 男の腹部から、肌に鮮紅色の液体が多量に付着した小さな丸いもの……。


 男の腹部から、小ぶりな拳が不自然な形で生えていた。

 小さく真っ赤に染まる拳が、からだから生え出て……いる?


 私がまともな思考を取り戻すより早く、生えているかのように飛び出していた拳が男の体内の奥に戻る。


 ……いや、戻ったわけじゃない。


 その腹部から生え出した拳は、男の体内に戻るどころの話ではなかった。

 からだの横幅を越える距離を小さな拳が戻った直後、辺りにずりゅっという湿り気のある鈍い音が鳴り、男が私にもたれかかるかのように倒れはじめたのだ。


 その腹部は、小さな、しかし確かな穴がポッカリ空いていた。

 私は非力な腕で反射的に男を真横にいなす。玄関の靴置き場のスペースで、腹に穴を開けられた男は、右側の壁に支えられ凭れかかるような格好で静止する。


 顔を前に戻す。

 血の臭いが辺りに充満すると共に、水溜まりのように血液が広がっていく男を見るため、視線は下に向いたままだった。


 小さくて細い靴下を履いた足が二本、視界に映る。

 私はすぐにその視線を、下から上に移す。


 一番最初に視界に入ったのは、片手を鮮紅色の液体で染めている幼い少女ーー平然とした顔をしている六花の姿であった。


 六花の右肩の後ろには、目を見開き雨ではない水滴ーー直感で冷や汗だとわかったーーを額から大量に流して唖然とした表情の父さんがいる。

 そこから少し背後……リビングにつづく廊下の奥には、片手で口を抑えている母さんの姿。

 母さんの前には、投げ捨てられたかのように、目出し帽の二人目の男がうつ伏せで倒れていた。少し動いているのを感じ、まだ息絶えていないのが私からでも見てわかる。


 六花は守るために父さんの前へ飛び出しながら、一人目の男の腹部を拳で突いたのだろうと推測ができた。

 あまりに想定していなかった光景に、私は逆に冷静な思考を取り戻していた。


 いや、冷静なんかじゃなく、この惨状のあとに避けられない“事態”をどうすればいいか。それについて思考するのを無意識で嫌がっているだけかもしれない。


「ゆ、ゆた、豊花か……無事で……よかっーー」


 父さんは動揺を隠さず、私の名前をなんとか口にする。

 しかし六花は、自身の血塗れの指を二、三回舐めたあと手のひらに湿る血液を啜り、喉を二度鳴らす。

 直後、廊下の奥に身を翻すと、父さんに私がなにかを言うのを待つことはしない。次の処理に移行した。


 自宅に広がる異様な惨状、風景に茫然としている父さんは、六花の異常な行為を目にして、開けかけた唇を閉じてしまう。


 ーーああ、考えないようにしていた。なのに……。


 六花はまだ息のある二人目の男の息の根を完全に止めにかかる。

 死に体の男を処理して死骸に変えるため、急ぎ行動したのだ。


 ーーなのに、こんな状況になってしまったら……。


 私でも、六花の行為は理解できる。

 死にかけでも、誰かわからなくても、不法浸入してきた敵には変わらない。安易に見逃せば、それが隙を生みかねない。

 だからこそ、確実に始末する。愛のある我が家に濃く関わってきたんだ。私でも、そのくらいわかる。


 ーーもう、下手な嘘は通じない。


 六花は男に握りこぶしの鉄槌を下す。

 男から辺りに血が飛び散り、廊下に血漿がぱらぱらと跳ねて疎らに付着する。


 ーーああ……もうこれでは、全てを正直に、白状するしかなくなったのだ……。


 六花は立ち上がるなり、廊下に佇む母さんに顔を向ける。


「怪我は、無い?」

「……あ……う…………」


 母さんは震えながら小さく頷き、負傷していないと六花に肯定を示す。


「そっちも大丈夫?」

「あ……ああ、大丈夫だよ……」


 父さんは母さんより、まだ混乱していない様子だ。


 なにか、違和感を覚えた。


 おそらく、父さんは母さんに買い物を頼まれ、徒歩でコンビニか近所のスーパーにでも行っていたんだろう。

 たまにはそういう日が今までもあったから、それくらいは推察できる。

 

 だが、今しがた不審者に襲われたばかりの父さんが、私に対して「無事でよかった」と言った理由が妙に気にかかる。


 六花はスマホを耳に当てると、誰かに電話をかけはじめた。

 ポケットでスマホが振動していることに、私はようやく気づく。

 いつから鳴っていたのだろうか?


「襲撃者が二人。うん、目だけ出してる黒いの、被ってる男性。もう殺した。死体は? うん、わかった」


 六花は、おそらく沙鳥辺りに指示を仰いでいるのだろう。


 母さんは、視界に広がる惨状と、血溜まりから漂う錆びた鉄の匂いに耐えられなかったのか、口を抑えたままトイレに飛び込んだ。

 すぐに吐瀉物が水面で跳ねる音が微かに聴こえてくる。


 スマホが鳴りやまない。


 ふと、嫌な予感が収まっていないのを察し、すぐにスマホを取り出し液晶を見る。


 画面には、電話をかけてきた相手の名前ーー裕希姉の三文字が映っていた。

 嫌な予感が強まるのを実感する。

 私は画面をフリックし、通話に出た。


「裕希ねーー」

『杉井豊花か?』


 通話に出た相手の声は、裕希姉なんかじゃなかった。

 聞き覚えのない、男の声。



 静まり返る自宅のなかに、玄関から僅かに届く、降りやまぬ豪雨の音。

 それが異様に、私の頭には、酷く煩く感じられた。

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