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Episode07/4.ー朱殷を纏う少女ー

(三.)

 ありすに連絡が通じなくなり、およそ一月ほどの時間が経過した。


「瑠衣、いい加減に寝なさい。なにぐずぐず泣いてるの? なにがあったのか言ってくれないとなにもできないの、わかる?」


 隣の妹の部屋からすすり泣く声が頻繁に聴こえてくるようになり、気になった瑠璃は心配して瑠衣に声をかけることにしたのだ。


「どうして? いなく、ずっ……なったの……友達に、なったのっ、にっ、なんでっ、ぅぅ……」

「泣いていないで答えてみなさいよ。ほら、なにがあったの?」


 ありすとのたったひとつの繋がりであった電話番号、幾度となくかけてみたが、途端に一度も通じなくなった。


 もう、これには一生繋がらないのではないかと思い、瑠衣はありすへの道しるべが無くなったと考え、気分はよりいっそう鬱々としていっていた。


 さらには、次第に悪化の予兆を見せていた3人組のクラスメートのいじめが過激になるようになり、鬱蒼と生い茂る樹海のなかにいるかのような気持ちすら、瑠衣は抱いてしまっていた。


「いや、だ。いやだよ! 友達じゃ、なかったの!? ……なんでも、するから、また会っでよぉ……ぐすっ……うっ……うぅ……ずっ……ぐすっ……ぁぁ……あぁぁっ……」


 気分は日が経つに連れて落ちるばかりであったのに、ありすと自分が如何に細い繋がりだったのかを理解してしまい、自覚してしまい、次第に絶望に至ってしまった。


 なにをやっても楽しいと感じられない。

 そんなありすと出会う以前の暗い日々に戻るだけだが、瑠衣にはもう、その暮らしに耐えられなかった。


 一度、幸福を知った、喜び楽しみを()った心は、二度ともとには戻らない。

 楽しさを知ってしまったのだ。


 瑠衣はもう以前の暮らしには戻りたくないと思いつづけるだけ。


 憂鬱気分だけが増していき、瑠衣は毎晩のようにまくらを涙で濡らしていた。


「……言ってくれないとわからないじゃない。なにかなくしたの? 大切なものなら一緒に探すし、買い直してあげるから。あっ、ほら、なら化粧品とか、もっと欲しい? カラコンとか要る?」

「……さい」

「え?」


 瑠衣は机のなかに入れていたカッターを、自然な流れで手にして構えた。


「うるさい、って言ってるの! 姉さんには、どうせわからない! だから言わない、あっちいけ!」

「る、瑠衣? え、そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない……あ、あんた、まさか、異能力を使って……? いや、だって、申請だってしたんだし、使うわけが……」


 妹の言っていた能力と、手にしているカッター。

 その関係から、瑠璃は今でも異能力を使っているんのではないかと不吉な心配が頭を過る。


 同時に、いきなり刃物を向けて激昂する瑠衣に対して、ショックを受けてしまった。


「ひひ……なら試してみる? 試せば異能力、使ったかどうかわかるよ? ほら、ほらほらほらっ! 近づいてきなよ、今すぐ切って、あげるからさ! 早くきなよ!」


 瑠衣は瞳を涙で潤ませながらも、口角を上げて不気味な笑みを浮かべ、瑠璃を挑発する。


「ちょっと……な、なんなのよ、瑠衣」


 カッターの刃を向けたまま、違和感のある笑みを浮かべている瑠衣に対して、瑠璃は違和感を覚える。


 瑠衣はありすの訓練で学んだとおり、体を若干弛緩させながら足は常に動かせるように準備し、カッターを持つ右手を前に、左手をそれより少し後ろに構える。


「ほら、来てくれれば、試してあげるから、来なよ! 来なよ、ねぇ!? なんならこっちから切りにいってあげようかいいねそうしようそうするけど死んでも確かめたかった姉さんが悪いだけだから恨まないでねっ!?」


 慣れた足運びで瑠璃へと近づきはじめ、瑠璃は危険を察知し怖くなってしまう。


「……わかった。もうなにも言わない。そろそろ寝なさいよ?」


 強く言ったらなにをされるかわからない。

 と、瑠璃は訊き出すのを諦めて自室へと撤退した。


「……ひっ、きひひひひっ! ひひひひひひひひひひひひぃっ! あったじゃん! まだここに、ありすはいる! ありすとの、訓練の成果! ひひひひっ! これは、これはありすと私が、友達という証! 証なら、明らかにしないと、証明しないといけないっ! ひひっひっひひひひっ! ああぁ……楽しみ。どうせなら、私をいじめたあいつらで試してやろう! あいつらなら最悪、殺してもいい!」


 瑠衣はカッターの刃に異能力を込めた。

 それを明日のためにとスカートのポケットに忍ばせた。


 いじめている側にとっては災難だったかもしれない。

 過激化したとはいえ、悪口や陰口、私物の破壊、軽い暴力ーーまだその程度のいじめで済んでいた。


 クラスメートからは暗い印象しかない瑠衣から、ああも悲惨な目に遭わされるとは思いもよらなかったであろう。


 因果応報のバランスが崩れている。

 といっても過言ではない出来事が発生する日の朝がくるーー。




 ーー翌日。

 いつものような暗い気分の朝ではない。

 瑠衣はうきうきと登校する。

 ありすと短い間でも一緒にいられた確かな証を示せるからだ。

 

 きょうに限っては、瑠衣はいじめを加えてくるクラスメート三人組に会うのが楽しみで仕方なかった。


 教室に入り、瑠衣はいじめっ子たちが集まる席に向かった歩く。


「あっ、きょうも来たよアイツ! おまえの予想大はずれじゃんウケるんだけど」

「はぁ!? 葉月テメェマジで空気読めよ。ホント使えないんだけど、糞なら糞くらいの働きしろや」


「ーーおはよう。ひひっ、みんな」


 いじめっ子3人組がいる窓際の席に近づきながらポケットに手を入れてカッターを取り出す。

 逆手に握り右手をだらりと下げ手首を腕側に曲げる。


 こうして手首を曲げれば、相手に獲物が見えなくなりリーチも測りにくくなる。

 不意討ちや暗殺に使えることもあるーーとありすに習っていたからだ。


「あっ、は? てめぇまだ呼んですらないんだけど」

「くっさ、キモッ! なに? うちらに朝からいじられて欲しいって言いたいんだ?」

「ウケるんだけど! 笑ってるよこいつ、頭おかしいんじゃ……ね?」


 瑠衣はカッターをだらんと下げた腕から素早く斜め上に振り上げ、いじめっ子の一人に切りつけた。

 衣服は貫通し、深めにスパりと赤い斜めの線が入り、その線から血が溢れ制服が斜めに真っ赤に染まる。


「痛っ!? はぁぁ!? 意味わかんないんだけど!? 意味わかんない意味わかんないんだけどコイツ!」

「狂ったんじゃね!? 押さえつけろ押さえつけろ! ヤバいって!」


 二人が席から立ち上がり瑠衣に手を伸ばすが、瑠衣は両手を使い逆手持(リバースグリップ)ちから順手持(セイバーグリップ)ちに持ち変えると、一歩退いて、伸ばしてきたいじめっ子一人の手を斬りつけた。


「ちょ、マジ! なんなのこいつありえないんだけど!?」

「ひひひひっ! ありすとの証だよ。私いまから、杉田(すぎた)さん、山上(やまがみ)さん、佐東(さとう)さん……たっぷり赤で身体を飾らせてあげるね!」


 ススッーーと瑠衣はカッターを軽く振るだけで、相手は近寄ることができない。

 ただのカッターですら恐怖を感じるものだ。


 しかし、これは単なるカッターではない。

 そして、ついにカッターで胴体を右肩から左脇腹広範囲に切り下ろし、すぐに振りあげ左から右へとカッターで薙いだ。


「ひっ!? いやゃあぁあぁぁああああ!!」


 杉田と呼ばれた女子の制服に血が滲み、赤黒い色に染まりはじめた。


「綺麗になれたね? よかったじゃん! よかったよかった、安心して、山上さんも佐東さんも、みんな綺麗になりたいんでしょ? キモいやつはダメなんだよね? なら、私が綺麗にしてあげる! ひひひひっひひひひっ!」


 カッターを数回、左、右、斜め上、右、と振って、杉田と山上を牽制して、硬直していた椅子から立ち上がらないでいた佐東の腹部に突きを放った。


「ぶぁっ!?」


 佐東は腹を刺されると同時に口から血を吐き出し、机に突っ伏した。鮮血色の血が腹部から滴り落ちる。

 山上と杉田が逃げられないように入り口側に向かうのを瑠衣は妨げ妨害する。


「なんなのなんなの! マジありえないマジありえないんだけど!? ねぇ謝るからもういじめないから、ね! 犯罪だって、洒落になんねーよ! テメェらのんびりしてねーで早くこのキチガイ止めろよ! 梅沢(せんせい)呼べよ早くしろ!」


 事態に気づいたクラスメートは一気にザワつき、女子の数名が悲鳴をあげた。

 担任を呼びに何人かクラスメートが出ていき、体つきのいい男子が数名、瑠衣を止めようと集まる。


「来ないでっ! 真っ赤な色で、着飾りたいひとは、来てもいいよ? ほら、いじめられてる私を見てみぬフリした傍観者どもっ! 来れるものなら来てみろよ! 早く、早く、早く来いって、聞こえないのっ!? くひひひ楽し~い!」


 近寄ってきた男子に当てないようカッターを振り牽制し、一度机にカッターを突き立てて見せ、机くらいなら貫通することを周りに見せつけた。

 向かって行ったら切られると印象を持たせるために、瑠衣はあえて見せつけたのである。


 たしかにクラスメートの大半は教室外に逃げたり離れたり、担任を呼びに行ったりと見守るだけだが、男子がまだ二人ほど瑠衣を押さえるために近づいていく。


 山下は瑠衣の意識が逸れている隙に逃げようとする。

 しかし瑠衣は見逃さない。


 逃げられたら、最悪死んでもいいヤツらが減るからだ。


 右足を大きく上げて一歩踏み込みながら、逃げられないように山上の前を塞ぐよう刺突を放った。

 山上が小さな悲鳴を上げて止まるや否や、そのまま数回軽く切りつける。


 すぐに近場の椅子を抱え上げた瑠衣は、山上へと強く振り当て倒した。

 山上は机に血を吐いたあと動かないでいる佐東と、まだ軽傷で済んでいる杉田がいる位置に仰向けに倒されてしまった。


「いやぁぁあああああああ!」


 血を吐いてグッタリとしたままの伊東や、ブラウスが紅一色になって殴り飛ばされた山上を見るなり、杉田は恐怖で失禁しながら逃げようとする。


 瑠衣は山上を殴るために持っていた椅子を投げる。それが杉田に命中すると、杉田は前のめりになって倒れ伏した。


「やめろ、いい加減にしろよ葉月!」

「おい、流石にやばいって!」


 男子二名が走り寄ってくるまえに、カッターを三回ほど振って威嚇する。

 カッターを手から離させようと、男子はなにかを考え無理にでも瑠衣に近づいた。


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