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Episode57/1.ー敗北の味ー

(??(125.3).)

 愛のある我が家の塒二のリビングには、嵐山沙鳥と澄、杉井豊花と瑠奈を異世界に行かせて一時帰還している現世朱音が集まっていた。

 自室から栗花落夏姫も現れ、新たにソファーに座る。

 室内には、四名もの愛のある我が家の主要人物が集っていた。


 そこへ、珍しくベッドからネグリジェ姿のままの銀羽夢も現れる。これにて五人もの愛のある我が家の一員がリビングに勢ぞろいすることとなった。


「私まで起こされるなんて、非常事態なんですか~?」


 嵐山沙鳥は、銀羽夢の言葉に普段より苦虫を噛み潰したかのような顔で頷いて肯定を示す。


「敵方の指定時間まで、あと四半刻といったところかのぅ?」


 澄はコーヒーを片付け、濃い緑茶を味わうようにゆっくりと飲む。

 部屋に掛かった時計の針は、六時半を指していた。


「夏姫さん、探知内に“異能力協会”もしくは“和風月名”に該当する睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走という組織に与しているという考えを持つ者は未だ侵入してきてはいませんか? 特に警戒すべきは皐月です」


 嵐山沙鳥は慎重に栗花落夏姫に再三問いかける。


「うん。ひとりもいない」


 嵐山沙鳥に問われたあと、栗花落夏姫は頷くと、答えだけ返事する。


「あの脅迫紛いの手紙は、単なる嘘偽りで、皐月という組織の立て直しの期間を引き伸ばすだけの単なる釣り餌じゃないかい?」


 現世朱音は嵐山沙鳥に意見する。


「皐月は、新生皐月とでも言いましょうか? 彼女、もしくは彼らが時間を指定してまで脅迫文を送ってきた理由として考えられるのは四つです」


 一、本気で愛のある我が家の第二のアジトへ報復のためだけの襲撃。

 二、アジト二に与力を集め、油断させて他の塒1または3への奇襲。

 三、異能力組織“皐月”を立て直すための時間稼ぎ。

 四、日付で誤魔化し何日に奇襲をかけてくるか惑わす戦術。実際に攻めてくるかは別の話。


「手紙にはこう書かれていました」


 ーー多くの同胞を処した愛のある我が家の第二の住処を十月十一日の19時に報復を以て壊滅させる。全力を尽くすゆえ、そちらも愛のある我が家の持つ暴力を集結し、全力を以て報復に備え、怯えて眠れ……皐月より。


「銀羽夢単体の能力によって壊滅したのは、余程のバカでもなければ、相手方も把握しているでしょう。よって、暴徒と化した皐月に属する寄せ集めで此処を狙う可能性は低いと思われます。二の轍を踏んでは威厳もなにもあったものではありません」


「愛のある我が家の暴力を集結させろーーと言うのも挑発に思えるのぅ。敢えてここに戦力面での強者を集めよと言っている風にも取れる。逆に別のアジトを狙われるリスクもあるじゃろうて」


 澄は緑茶を啜ると、そう補足する。


「皐月を立て直すのに時間をかける理由なら、前提としてこのような挑発的な手紙も出しません。敵方がいつ強襲してくるなど、我々は常に警戒していますので、特別意味はございません」

「となると、ぼくたちの残りのアジトを二つ、どちらかを狙ってくる可能性が高いね」


「ええ。塒1と3に戦力を分配したのもそのためです。新たなリーダーは異能力組織“皐月”内で選ばれる可能性が高いです」


 嵐山沙鳥は顔をうつ向かせる。

 そのまま唇を手で覆い、やがて天井に顔を向けて真剣な眼を両手で隠す。


 ーーこの考えで正しいのだろうか?


 嵐山沙鳥は柄にもなく、躊躇していた。

 如何に他者の心のみならず無意識領域まで読める嵐山沙鳥とて、敵勢力と対峙しなければ宝の持ち腐れになってしまう異能力なのは、嵐山沙鳥とて自覚しているからである。






(??.)

 愛のある我が家第二アジトから凡そ600メートル離れた、安アパートの一室。


 室内には四人の異能力組織“皐月”の面々と、新たなるリーダー、本名を騙ることをなくし、皐月の役割に徹すると誓った代表の五人が集まり、新生皐月ーー皐月の話を聴いていた。


 愛のある我が家の予想に反して、暴徒どころか規律に重きを置いて、皆真剣な目で口を挟まず皐月の話を耳に入れていた。


「ーーと、彼奴等は迷うだろう。そもそも我自身、あそこが第二のアジトと呼ばれている程度しか情報を把握しとらん。そして、日付を書くことで、特定できていない奴らの戦力を、あると仮定した他のアジトへ強襲をかけられるのではないかと疑心暗鬼にかけた。嵐山はたった一通の手紙により、アジト2を手薄にするしかなくなった今……」


 体型は筋骨が凄まじい得体をした四十代男性ーー皐月はカラフルなナイフを手許に、嵐山沙鳥の顔写真に刃を突き立てる。


「皐月の全人員を以てして、愛のある我が家の第二アジトに強襲をしかける!」


 ショートヘアーで髪の先端のみをアイロンで曲げている二十歳の女性ーー美成(みなり)が立ち上がる。


「つまり、先鋒は私ってことでして?」

「いいや、落ち着け。先鋒は俺が行く。貴様は異能力で創造した異形を周囲に集め、攻め込む際は美成、貴様は相手の土地に踏み込むな。無論、美成の創造した異形を突撃させることになる」


 新たに皐月のリーダーとなった男性は、見た目に反して知能が備わっていた。


「貴様は異能力で創造できる異形のひとつに身を隠せ。敵方に清水刀子が伏兵として居たとき、真っ先に狙われるのは一番厄介な貴様だろう」

「なら、私はどう行動をすればよろしくて?」


 美成は至極真っ当な意見具申をする。


「先代の皐月は若きゆえ、無謀にも安易な手段で強行した。結果は惨敗。少なくとも愛のある我が家の第二の塒には、敷地に侵入した相手に精神干渉の異能力が敵側のみに発露する異能力者が駐在しているのだろう。そこで、だ」


 皐月は美成の肩を叩く。


「精神干渉が及ばない、美成、おまえが創造し操る異形で家を壊滅させろ。我は」皐月はカラフルなナイフを取り出す。「これによって、相手の“目”を一時的に潰すーー」







(??.)

「しかし、多勢に無勢。相手が転移し家の中で根切りにされた皐月たちは、何らかの罠型の異能力を警戒していない筈がないよ。一気に押し寄せてくることはないと思う」

「ええ。事実は異能力者ではないにせよ、夢さんの能力に引っ掛かったのは、いくら考えなしでも考慮していると考えられます」


 やはり、第一、第三アジトを狙う可能性のほうが高いーー沙鳥はそう思案する。

 しかし現状、微風瑠奈と杉井豊花は異世界へ訓練に向かっている。

 頼りの戦力は、銀羽夢、澄、霧城六花、青海舞香、補助で二翠月くらいである。


「予定を変更しても、この手紙が欺瞞工作だとしたら、いつまで経っても豊花さんの精霊操術習得が侭なりません」


 嵐山沙鳥は悩みに悩んだ末、第一アジトはアルストロメリアの戦力面で扱える人物を筆頭に、保険として二翠月を配置させている。

 第三アジトは下部組織にすら伝えていないことから、逃げても構わないという条件で、御薬袋と共に霧城六花と青海舞香を向かわせた。


 普段の何気ない日常なら、嵐山沙鳥もこのように戦力を分散させるなど考慮しなかっただろう。

 塒1には普段からアルストロメリアの面々が入れ替わり立ち代わり備えている。

 塒3はさほど警戒していないが、万が一に奇襲を受けたら大損害になるが、把握されている可能性は低い。


 そして、塒2には、銀羽夢の無敵の罠があることで安心していた。


 なのに、手紙一通で意図も容易くこうなってしまう。

 現場は混乱の限りを尽くしていた。


 嵐山沙鳥は頭を抱える。

 銀羽夢の能力に見落としはないか?


 ーー寸刻、栗花落夏姫がハッと顔を上げた。


「異能力がーー途切れた?」

「……夏姫さん、詳しくお願いします」


 嵐山沙鳥は、その言を聴き、襲撃が来るのを確信した。

 それも、想定外の異能力が相手方にいるのと同時に……。


「私の異能力が、今の一瞬で、使えなくなった。今は探知すらできない……」


「異能力を……使えなくする? この遠隔で? 敵方には特殊系統の異能力者が居ることは確かです。ただ、異例の多発する異能力者でも、完全に異能力を使えなくする異能力者は存在しません。現に夏姫さん以外の異能力者は、未だに異能力を使えています」






(??.)

 愛のある我が家の栗花落夏姫、その異能力の射程範囲、500メートルまで接近した皐月は、瞬時にカラフルなナイフを左右に振る。


 瞬間、そこを支配していた異能力発露の光が霧散し消え去った。


「これで凡そ十五分。敵方の探知、“目”の異能力は使えない! 急げ!」


 辺りには異形の怪物としか形容できないモノが五体いた。

 地に足を着け駆ける皐月の真後ろには、灰色の五メートルほどの球体に手足が生え、毛孔のようなぶつぶつが全身を覆う怪物が、灰色の手足をバタバタさせながら走っている。


 その後方には、さまざまな異形をしたモノたちと、それに潜むように美成が隠れ、しかし隙間から辺りを覗け、異形を操れるように細工をしている。

 他の三人の皐月のメンバー男女三名は、異形の怪物に運ばれるように、ある方は抱えられたり、ある者は真上に鎮座している。


「敵は兵力を分散している。嵐山沙鳥のことだ。敢えて第二のアジトと手紙に記載したことで、彼奴は他のアジトを我が知っていると深読みしているだろう。数分の一となった勢力を壊滅させれば、愛のある我が家へ大打撃を与えることに成功する! 皆共! 同志を失った恨み、ここで晴らさずして、なにが異能力組織“皐月”だ!」


 敢えて地面を全力疾走しながら、尚も新生皐月は大きな声で部下に命じる。


「ええ!」「おう!」「愛のある我が家をぶっ潰せ!」


 部下の三名は呼応するように皐月へ返答し、戦意の高揚を隠さない。

 唯一未成年女子の薔薇三月(ばらみつき)も、暴走しがちな滋賀健太(しがけんた)も、それに呼応する山本次郎(やまもとじろう)も、戦意は失うどころか勢いを増している。


 たまたま先代皐月の奇襲に参戦できずに、いつの間にか敗北していた部下の士気は、新生皐月の鼓舞でかつてないほど高まっていた。


 その勢いのまま愛のある我が家アジト2の目前まで辿り着いた。


「狙撃も暗殺も異能力犯罪死刑執行代理人も現れなかった。今より、美成の異形の怪物を、美成を包み守るモノ以外を突撃させよ!」


 薔薇三月、滋賀健太、山本次郎は命令どおり美成の創造していた異形の怪物から降りるなり離れるなりした。

 異形の怪物はチャイムを鳴らす。しかし銀羽夢の能力は発現しない。

 これにより、対人には脅威を誇る銀羽夢の聖霊操術は、異能力で産み出された人外には通用しないことを皐月は確信した。


「美成はやや後方から異形を操り、山本、滋賀、薔薇はアジトから逃走する愛のある我が家の面々を各個殲滅せよ。我は正面の玄関から飛び出してくる馬鹿者を少なくとも一人、引っ捕らえる!」


 そこで、皐月の賽は振られたーー。


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