Episode54/3.因縁と復讐(後)
(122.)
屋上まで階段で上り、屋上へとつづく扉を開いた。
そこには、屋上の塀に立ち、辺りに罵声を浴びせている辻がいた。
その辻を刺激しないように説得を試みる教師4人と、あの影で辻を嘲笑っていた男子二名と三葉。そして、それを見守っている瑠璃。後は、昔の私の姿に似ているオタクっぽい見た目の男子二人。授業が始まらず異変を察したのか、駆けつけてきたらしい宮下。計12名が屋上には居た。
「豊花!」
瑠璃が慌てて振り向き私を見る。
「私の名前を叫んでるって?」
私が視線を瑠璃から辻へと変える。
「やっときたんですね、杉井先輩」
辻は私を睨んでくる。
なにか……なんだか逆恨みの対象にされているような気がする。
「あんたはいいよなぁ!」辻は吠えるように言う。「美少女になれたお蔭で、容姿が美しくなったおかげでーークラスの上位カーストと仲良くできてさぁ! 僕は見た目も運も悪いから、杉井先輩ーーあんたのようになれなくて不公平だ!」
辻の悲痛な叫びが屋上を轟かせる。
言っている内容がいまいち理解できないけど……。
だけど、否定する必要がある感情の発露だと感じ、自然と口が開いていた。
「辻くん、それは違う! たしかに、私は女体化の異能力の恩恵で、普通なら交わらなかっただろうクラスメートとも話すことはある」
でもーー。
「昔の私は君より容姿が悪かったけど、少ないながら男時代から陽キャのクラスメートと仲良くできていた!」
私はなるべく声を振り絞り、辻に反論する。
私のクラスにカーストなんてあるのか、今まで気にもしてこなかった。
裕璃と宮下としか仲良くしていたかった私だけど、二人とも、もしもクラスカーストなんてものが存在していたら、裕璃も宮下も私となんて仲良くしてくれなかっただろう。
「そんな……目に見えない、あるかもわからないクラスカーストなんて無価値なものに拘らないほうがいい。趣味が合う、会話をしてて楽しい。無理して合わない友達をつくるんじゃなくて、一緒に居て気兼ねないーーそんな友達をつくればいいじゃないか!」
宮下は私の発言に頷くと、肯定を示した。
宮下が私の前に一歩足を踏み出す。
「カースト云々なんてくだらねーもんに囚われてんじゃねーよ。豊花の言うとおりだ。一緒に居て楽しい、居心地がいい。そんな相手を友達と呼ぶんじゃねーのかよ!?」
宮下は昔の私みたいな容姿の男二人組を指差したあと、言葉をつづけた。
「そこの二人は、入学当初に趣味で仲良くなった友達なんだろ!? おまえの友達はそこにいま、二人いるじゃねーかよ!」
辻くんの友達だったのか。あの二人は……。
入学当初は友達だったって話から、今は仲良くつるんでいないのか?
「クラスカースト下位のオタクと仲良くしてたら、僕まで同類、同格に見られるんだよ! バカにされるから……だから上位カーストの輪に入ろうとしたんだよ!」
なんじゃそりゃ?
趣味とか性格とかじゃなくて、バカにされないために無理やり上位カーストとやらの仲間になろうとしていた?
友達に凄い失礼じゃないか?
だいたい、ならーー。
「なら……影でバカにされ続けても、無理をして趣味もなにも合わないクラスメートとつるんでいたほうがよかったの!?」
私につづき、瑠璃が端から口を出す。
「あなたはバカにされて見下されるのを嫌がっているのに、あなたは他のクラスメートをカーストだのなんだの言って見下しているじゃない!」
辻は少し同様を見せた。
顔色が少し変わったのだ。
右手で震える左腕を掴む。
教師陣は隙を窺い、なんとか取り押さえようとしている。
しかし、近づく教師に気付き、「近寄るな!」と怒号を上げて下がらせる。
「何度だって言うぜ? 一緒に過ごしてて楽しいと思えるヤツらと普通はつるむもんだろ! 無理して友達になるもんじゃねー! カースト云々関係ねーよ。まずはおまえが一緒に居て居心地の良い相手ーーそれが友達ってもんじゃねーのかよ! なあ!?」
宮下に反論できなかったのか、余裕がないのか、辻は再び私に顔を向けた。
「……杉井先輩はいいですよね。完璧に女体化して、しかも美少女で! そりゃ陽キャと仲良くなれますよね!? 僕にもそういう異能力があればいいのに!」
それだって最初に答えたはずだ。
私は再び言い聞かせるように、今度はハッキリとした口調で辻くんに伝える。
大きな声で、真剣に。
「さっきも言ったでしょ? 私は小学校時代からきみの言うカースト最下位みたいなヤツだった。けど、小学校時代はカースト上位の裕璃と友達になれた」
「……でも!」
私は言葉をつづける。
「中学校のときには、同じく陽キャーー辻くんに倣って言うなら、カースト上位とも言える宮下とも友達になれたんだよ? でも、裕璃とも宮下とも、別にカースト上位のひとだから仲良くしたわけじゃない! これらは全部女体化前の話だからね?」
「……」
そう。私は裕璃や宮下と仲良くなったのは、カーストだのなんだのくだらない理由じゃない。
たしかに、陽キャの友達が二人いることで、ときには頼ってしまう面だってある。
でも最初に仲良くなったのは、趣味や話が合うからだ。
「その裕璃や宮下とは、高校になってからも仲良くしている大切な友達だ。宮下がどう思っているかはわからないけど、親友だと勝手に思ってる! 同じ趣味を語れて、一緒に過ごして遠慮もしないでいい相手ーーだから仲良くなれたんだよ!」
私は言葉を伝え説得を試みる。
宮下は私の肩を掴み、私の言葉を肯定し始める。
「俺だって豊花を親友だと思ってる」
その言葉で、私は無性に嬉しかった。
と、オタク二人組が辻くんに歩み寄る。
「来るんじゃねー! おまえらとつるむと、僕まで同類に見られちゃうんだよ……」
「でも、ハッキリとは言えないけど、辻くんは常に無理していたように見えたよ」
歩み寄った二人のうち片方が、辻に語りかけた。
「辻くんにも、あんなにバカにしていたのに、まだ友達だって言ってくれるクラスメートが二人もいるじゃないか」
私は辻に対して、やさしく説得を試みた。
やがて、少しずつ、でも確実に辻に歩み寄るように歩を進めて辻に近寄る。
自殺する気力がなくなったのか、それを止めようとする最初に仲良くなった友達二人に対して、罵倒したり罵声を浴びせたりせず、手を伸ばせば届く位置まで近寄った。
そして、友達二人に手首を握られ引っ張られたあと、辻は屋上の塀から離させられる。
辻は涙を流し、次第に泣き始める。
涙の粒は、屋上のコンクリートに何粒も落下していた。
すぐに教師が集まり、屋上から皆へ出るよう声をかける。
そんななか、宮下は三葉を睨み付けていた。
「宮下?」
「ああ……三葉にロードのID教えないでくれて助かった。いじめ加害者なんかと話したくねーからな」
その言葉が耳に届いたのか、それとも偶然か。
三葉はビクッとからだを震わせ、宮下の表情を見たあと、ばつが悪そうに屋上から校内へ返っていった。
……そういえば、警察は?
こんな騒動が起きたら、警察を呼ぶものだとばかり思っていた。
屋上の塀から下を見下ろすと、パトカーらしき車が一台だけ停車しているのを発見した。
雪見先生は屋上の騒動は知らないだろうけど、梅沢先生の蛮行に対して、しっかりあの場で警察へ通報していたのだろう。そっちは確実に警察が介入してくれる。そう思うと安堵の気持ちが湧いてくる。
「そこのきみたち。きみも屋上から出ていってくれ。込み入った話は辻くんとするから」
「……はい、わかりました」「あ、はい」
最後まで屋上に残っていた私と瑠璃、宮下に対して、辻を囲うようにして集まっている教師から言われ、素直に教室へと戻ることにした。
既に昼休みは終わり、四時限目の勉強も半分は終わったあとのタイミングで、私たちは屋上を後にした。
階段を下りていく途中、瑠璃が小さな声で語りかけてきた。
「私も……豊花が女体化したから友達になったわけじゃないからね? 例え豊花が男のままでも、きっと、友達になれていたと思うから……」
瑠璃は男性時代の私を知らない。
だからこそ、さっきの言葉が気になっていたのだろう。
たしかに、瑠璃や瑠衣とは異能力者にならなければ関わることはなかっただろう。
でも、女体化、美少女にならなくても、まるで別種の異能力者だったとしても、二人とは仲良くなれた気がする。
だからーー。
「うん。わかってる。付き合いは短いし、男時代の私を認識してはいないだろうけど、瑠璃も瑠衣も大切な友達だと思っているよ」
ーー私はそう答えたのであった。




