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Episode52/4.操霊術

 再び、一からマナを全身に触れた空気から探し、全体から吸収するようなイメージを行う。


「ーー感覚」


 感覚でマナの集め方のコツを、手法を、訓練を乗り越えていく。

 限界を越えた貯蔵段階に達しそうになるタイミングを確認するため、脳内で何とはなしに秒数を数えていく。


 あの明らかに心臓に有害そうな衝撃と、心臓が跳ねる感覚は、正直二度と味わいたくないけど、やるからには慣れるしかない。


 現に、瑠奈は“慣れ”を強調している。


「さっきより更に吸収速度が速いね」


 瑠奈は窓を開き、数回閉じては開いてを繰り返し、室内の空気を循環させる。

 そのまま窓を開いたまま放置した。


 霊子(マナ)は空気に含まれているのだろうか?

 今までの経緯を踏まえるに、現実にはマナはないらしいけど。


ーー何にせよ、現実にはないことはたしかだ。でなければ、マナの補填でいちいちこちらに来る必要性がないだろう。ーー


 それもそっか……。


 3分過ぎた辺りで、再び心臓が違和感で染まり、どくんと跳ねた。

 思わず吐きそうな心臓の威力を、私は耐える。


「か、感覚」


 瑠奈に言われたとおり、貯蔵の限界値に達したであろう私は、心臓からどうにか少しずつマナを体外に送り全身から漏らした。いや、発した。


 心臓に少し違和感がある程度でマナが流出するのをやめると、そこから数分粘った。


「やるじゃん。才能にしろなんにしろ、こんな短期間でできるなんて、わたし豊花のこと舐めてたかも」


 異能力を使っているからとはいえ、褒められるのに悪い気はしない。


「そのまま30分キープしたら、霊子操作の訓練に移るよ。おっけぃ?」

「う、うん……」


 結構時間は経っていたのかもしれない。

 集中していたからわからなかったけど、既にこちらの世界では、窓から空へ夜が降りはじめてくるのが目に映る。


 やがて、定期的に感覚と唱えるのをやめてみて、それでも心臓にあるマナを流出させないように30分維持した。

 途中から維持している感覚はあるが、違和感のほうはほとんど感じなくなっていた。


 ほとんど日常生活を過ごすのに違和感がないくらい、マナの貯蔵による心臓への違和は霧散している。

 しかし、集中すれば、マナを心臓へ貯蔵している感覚が、“感覚”と唱えずとも認識できている。


「最終段階に移行だね? マナは一度自身の心臓まで循環させると、そのマナはその人の支配下に下る。だから、実はさっき体外へ漏れ出たのも、実際には暫くのあいだ“豊花のマナ”だったんだよね」

「私の……マナ?」

「そうそう。豊花のマナ」


 瑠奈はベッドに座りながら、両足をパタパタと交互に動かし始める。


「霊子操作は心臓へ貯蔵しているマナを、支配下に置いたマナを、体内外自由な位置へ操ること。これも感覚だけど、まずは心臓に貯蔵したマナを右手に集めてみて?」

「どんなふうに集めるの?」


「心臓にあるマナの体感を、右手に移動させる感じ。心臓に感じるマナを右手に能動的に移動させる感じかな? 操霊術は基礎の基礎だから説明しにくいんだよね」

「……“感覚”」


 私はそう唱えたあと、心臓にあるのを感じるマナが、右腕に移動していくイメージをした。

 実際にマナが右手側にじわじわ移動していく感じを覚える。


 数分かかったが、マナの独特な感覚が右腕に集まり、それが右手に移動したのが感覚で伝わってきた。

 心臓に貯蔵したマナの三分の一程度が、右手に集まっているのが何となくわかる。


 マナ特有の“普通では味わえない”特徴を、いつの間にか体が覚えているのを実感する。


「そのマナを右手から左手へ、左手から左足へ、左足から右足へ。体外へ漏らさないように移動させてみて? それができたら体外へマナを放つ訓練に移行するから。そこまで出来たら真に才能ある証拠だよ」

「うっ……右手からーー」


 右手から、右腕、右肩と、心臓に貯蔵したマナを右手から慎重に移動していく。

 マナのさらさらとした、そしてざらざらもしている、一見矛盾するような“現実世界にはない感覚”はもう掴めた。


 あとはそれを、意図的に全身の至る場所へ移動するようにイメージするだけだ。

 しかし、右肩から首、首から左肩、左腕、左手まで移動するのに数分はかかってしまった。


 そこから、瑠奈から言われたとおり、胴体、脚を通して左足や右足へ送ることも、たどたどしいながら成功した。


「霊子操作は慣れだから、今は時間がかかっても、何回も繰り返すことによって数秒でマナを集めている場所は移動できるようになるから、時間がかかるのは仕方ないよ」


 瑠奈は、慰めているのか真実を伝えてくれて励ましてくれているのか、どちらかわからない言葉を私にかけてくる。


「うん……“感覚”」


 やはり感覚と唱えることで、やけにスムーズに訓練を遂行できる。

 最初はズルかと思ったけど、これは私に現れた異能力、つまりは才能だ。そう素直に受け入れるようにした。


 暫く体内を循環させーー一度体外へ漏らしてしまったがーー外が真っ暗で室内に月明かりが差す時間帯になった段階で、瑠奈が口を開いた。


「霊子操作の次の段階をそろそろ試したいところだけど……」

「次の段階?」


「そそ。マナを支配下に置いたまま、体外へ放出して、そのマナの位置を操る訓練」

「体外!?」


 漏れたマナは、単純な“マナ”じゃなく、暫く“豊花のマナ”になると瑠奈は言っていた。

 でも、漏れだした私のマナは、どうにも手許から離れたマナであって、それを操作できるイメージを私は持てていない。


「操霊剣を除いたら、霊子操作の本領なんだけど……できそう?」

「いや、どうだろう? というより、気を張っていたからか疲れた」


「まあ、初回で体内でマナを循環させられたんだから、天才と呼んでも過言じゃないレベルなんだし、やるだけやってみよっか?」


 ーーまずは右手にマナの一部を貯めて、それを真っ直ぐ放ってみて?


 瑠奈にそう言われ、そのとおりにマナを右手先に移動させる。

 体内を移動させるのだって、自分からしても、まだたどたどしいのに……。


「体外へ放ったマナは、気配を察知して、感覚とイメージで居場所を特定しながら操るように」


「うん……」マナを右手から手離した。しかし……。「やっぱり体外へ放つと、自分の支配下になったと言われても、一気に存在を把握できなくなる」


 私は言われたとおりにしてみたが、右手から真っ直ぐマナが飛んだ感覚がしたあと、そのマナが何処へ霧散したのか、感覚で把握できなかった。


「まあ、これらは次回かな?」

「へ?」


 背後へ振り向くとーー何時間経ったのだろう?ーー朱音がうっすら、じわじわと魔法円の上に姿を現してくるのを目視できた。


「霊子吸収を最後にギリギリまでして、家でも体内の好きな位置にマナを循環させる訓練をして、なるべく早くマナを好きな位置に移動できるように訓練しておいてね」


「はい。いや、うん。わかった」


 私は霊子吸収をはじめる。

 体内に入ったマナを、心臓まで循環させ移動し少しずつマナを自身の貯蔵限界まで貯めていく。


 やがて、朱音が背後から瑠奈へ声をかけた。


「瑠奈、豊花。きょうの訓練は仕舞いだ」


 朱音は大量のなにかが入った白い袋を四つも左右前後に置いて、魔法円の上に完全に姿を現した。


「それ、わたしが運ぶの?」


 瑠奈は朱音が持ってきた袋と、最初に持ち込んだ袋を指差しながら朱音に問いかける。


「ああ。まずは豊花から現実に送り届けるから、その間に工場までこれらを纏めて運んでおいてほしい」

「はいはい。怠いなぁ……」


 朱音に言われ、面倒そうに頬をポリポリ掻いたあと、瑠奈は仕方がないとばかりに、朱音に言われたとおり白い袋を大量に宙に浮かせ、窓際まで近寄る。


「豊花は素質ありそうだった? あるならぼくが沙鳥にそう伝えておくよ」

「あるよ。天才に近いレベルで」

「本当かい?」


 瑠奈は力強く頷いた。

 そのあと、すぐに袋と共に、瑠奈は窓から飛び出し、上空へ飛翔した。


 ……天才に近いと言われると、やはり悪い気はしない。

 でも、まだ霊子操作は訓練を始めたばかりだ。油断してはいけない。


「さて。豊花、魔法円の上に乗って」

「わかりました」


 朱音に言われるがまま、私は言われたとおり魔法円の上に移動した。


「じゃあ、行くよ?」

「はい」


 やがて、再び体験する。

 辺りの景色が見えなくなり、全身をぞわぞわする奇妙な感覚を体が走る体感をーー。


 霊子貯蔵は、今の私の限界までできている。


 自宅で訓練するためだけど、異能力とは違いファンタジーの魔法を学んでいるようで、普段より少しワクワクしている自分がいることを、今さらながら自覚したのであった。

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