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Episode49/1.因縁と復讐(前)

(108.)

 月曜日の朝ーー。


 ベッドで目を覚ましても、暫く起き上がることはせず、僕は昨日、沙鳥と交わした文章を脳内で反芻していた。


 沙鳥は、昨日の時点で神奈川県内に金沢叶多が向かっていること。知佳の異能力で調べた結果、判明したらしい。


 そして、後回しにしていたにせよ、元よりリベリオンズと共に処分する対象として指定していたこと。何より僕に対する怨恨を活力として動いているーーという沙鳥の推察から、僕を殺しに来るだろうことで、ほぼ叶多が僕に襲撃してくるだろうということ。


 これにより、殺りに来たら返り討ちに合わせ、状況に合わせて処分を下せと伝えてきた。


 誘い出す必要なんてないと言っていた。

 普段どおり学校と自宅を往来する最中、一人になったところを、おそらく狙いに来るからだ。


 それを、土曜日に渡したナイフを用いて対処しろーーと。


ーー昨晩から考えていたが、やはりおかしい。そうは思わないか?ーー


 ……なにが?


ーー嵐山沙鳥は、金沢叶多の居場所を知りながら見逃していた。東京に手出ししない理由は先日の話で理解したが、逃走したあとも定住するまで待つと、処分しようと決めていた割には、積極性が微塵も感じられなかったではないか。ーー


 ……うん。


ーー神奈川県を手中に納めたと言っても過言ではない嵐山沙鳥が、豊花に命令だけ下し、後は丸投げとは……思惑がないほうが、むしろおかしい。と、そうは思わないか?ーー


 たしかに、叶多が神奈川県に向かっていると伝えてきたということは、叶多の居場所を把握している事とイコールだ。

 つまり、それは知佳の異能力のマーキングが叶多の幽体に付着したまま離れていないのを意味する。


 要するに、叶多の居場所は逐一、春夏冬知佳から知ることができる。

 そこへ、空から奇襲を仕掛けられる瑠奈辺りが、空爆のように風刃を飛ばして処分したほうが明らかに手っ取り早い。


 以前はわからなかったが、今なら知っている。

 瑠奈の利用しているちからは異能力じゃない。精霊操術だ。

 異能力発露の光が発現しないし、残光も残らない。つまり異能力者がやったという証拠すら残らないのだ。


 日本の司法で裁くことも、法的に異能力犯罪者と断ずる要件を満たさないから異能力者保護団体が動くことも不可能。

 なら、誰が対応するのかになると、本来なら秘密裏に異能力犯罪死刑執行代理人辺りが動員されて処理すると思われる。


 でも、沙鳥は……愛のある我が家は、異能力犯罪死刑執行代理人と裏で手を結んでいる。

 どころか、神奈川県支部の異能力者保護団体。神奈川県警とまで、異能力者協会対策とはいえ協力関係にある。


 多少人目に付いても、瑠奈が殺したほうが明らかに手っ取り早く、実力的に叶多相手でも安全だ。


 なのに……。


 敢えて僕に一任した理由は、一体なんだろう?

 それも僕に人殺しなんて、できるわけがないのに……。


ーーまさか、それを試しているのか? 心を読んで人殺しを躊躇う豊花を、因縁を有すちょうど良い相手を実験にして、人を殺せるのか……試しているのか?ーー


 少し、当たっている気はした。

 でも、それは一部。全てではないとも僕には思えた。


ーー第一、学校に刃物など……バレたら大問題だぞ?ーー


 そこはたぶん、問題ない。


 体育の時間、僕は女子更衣室を使わず、教室でも着替えずに、雪見先生の処遇により、今は保健室で着替えることになっている。

 だから、例え身体に隠していてもバレる可能性は低い。


 とはいえ、今の僕はナイフはあれどナイフホルスターなど持っていない。

 となるとポケットに忍ばせることになるけど、蒼井みたいに屈んだときにせき止めの瓶がポロっと落ちたみたいに、動作によってナイフが『こんにちは!』する恐れがないとも限らない。


 だから、校内に入るまえに鞄の底に隠し、校外に出るタイミングでポケットに忍び込ませる。

 これで武器の所持は、一日くらいなら隠し通せるだろう。


 でも……。


 人を殺すなど、僕にできるのか?

 沙鳥は『処分』や『対処』と言葉を濁していた。電話なら、咄嗟に“その意味”を聞き返していただろう。


 でも、メッセージのやり取りでは、僕は怖くて問うことはできないまま今に至る。


 僕は仕度を済ませて制服に着替えるなり、まずは登校最中の襲撃に備え、ポケットへナイフを忍ばせた。






(109.)

 登校最中は、なにも問題は起きなかった。

 校内でも無論、気になることは目につかなかった。


 帰路、自宅へ向かうため、普段から利用している一番家へ早く着くための細道へ入る。


「この面々で帰宅するのは珍しいわね? なんのために来たの?」


 瑠璃はありすに視線を向け、問いかける。


 ここには今、瑠璃と瑠衣だけでなく、珍しく校門の外で待っていたありすまで加わり、四人の者が集まり歩いていた。


「別にー? ちょっと気にかかることがあるから、愛弟子の警護に久々に熱を入れようかなってねー」


 ありすには話していないのに、“気にかかること”?


 沙鳥は『金沢叶多が襲撃してくる。それを返り討ちにしろ』との命令をベルベルで送ってきたが、一人になったタイミングで、と言ってはいた。

 だが、僕の直感が疼き、常に警戒を解くことはできないでいた。


 背後を振り向き念のため確認するが、誰かがいる気配はない。

 しかし、直感なのか何なのか、定期的に背筋に、ぞわぞわとした寒気が走る。


 実は沙鳥の命令内容を、迷った末、昼休み時に瑠璃と瑠衣に口頭でかいつまんで暴露したのだが、瑠璃からは『いくら犯罪者相手でも、殺人に手は貸せないし、許さない』と返事をされてしまった。

 更に言えば、瑠璃は沙鳥の情報を信用していない雰囲気まで漂わせていた。


 犯罪者が犯罪者の情報を伝えてくるのは、なにか裏があるに違いない。

 金沢叶多は、異能力捜査官をクビになり、警察に追われる身。でも、まえに赤羽組の組員経由で大空静夜という殺し屋に瑠衣の始末を依頼した人間。


 犯罪教唆かつリベリオンズへの関与が疑われる容疑者に間違いない。しかし、あくまで金沢の姉ーー叶多はいずれの事件にも直接手は下していない。

 対して嵐山沙鳥は、いくら秘密裏に協力体制を築いているとしても、神奈川県を揺るがす恐れのある“特殊指定異能力犯罪組織”の現当主(リーダー)


 たしかに瑠璃の立場からすると、金沢叶多より嵐山沙鳥のほうがより悪質性が高く信用できない相手なんだろう。

 いくら妹をーー静夜を利用してーー命を狙った相手とはいえ、それでも沙鳥を信じられない気持ちは、客観的に考えると理解できる。


 それに、ユタカも沙鳥には裏があると警告してきたし、僕も今回のミッションを僕が片付ける必要性が感じられないでいた。


 けど、この胸をざわめかせている不穏は、おそらく僕の直感由来によるもの。


 ありすにはまだ、沙鳥から命令や情報の提供があったことは伝えていない。

 ありすは瑠璃と瑠衣とは異なり、帰路に待機していたし、それからずっと瑠衣と雑談していたから、それを伝えるタイミングがなかった。


 でも、沙鳥とは旧知の仲だと言っていたし、異能力犯罪死刑執行代理人として秘密裏に異能力犯罪者およびそれに与する者たちを殺戮してきたありすなら、瑠璃よりは信じてくれる可能性が高い。


「ありす、沙鳥から知らされた情報があるんだけど、実は」

「あー、そこんとこは大丈夫。多分、私も同じこと知ってるだろうしねー」

「同じこと?」


 ありすにも、沙鳥から何かしらの連絡が行っていたのか。


 え?

 でも……ありすは瑠衣の警護うんぬんと言っていた気がする。


 でも、金沢叶多が襲撃してくる相手は、沙鳥から僕だと伝えられている。

 

 少しだけ安堵するが、妙に不自然な、合致しない情報から、不安な気持ちは拭えない。


 もし、叶多からの強襲が今日あるなら、背後から来るだろうか?

 自然な動作でーー叶多がいるとしたらーーなるべく悟られないよう、背後を再度チラリと窺う。


 そこには、少し見た感じだと、無関係の人影すらいなかった。

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