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Episode48/1.葉月瑠衣の弟子

(106.)

 有名な総合遊技施設で、僕たちはボーリングではなく四人全員でダーツをやることに決めた。


 ダーツをやっている人たちを目にした瑠衣が、ボーリングよりダーツやってみたいと言い出し、瑠衣にのみやたらと甘いありすが「ならボーリングはやめにしてダーツしよっか?」と同意したからである。


 ……ダーツも、少し陽なイメージを抱いていたが、ほかにやっているのはカップル二人と、男子大学生っぽい三人組だけで、騒がしいのに違いはないけど、想像していたより静かで安堵する。


「ルールはゼロワン501で、ファットブルみたいだねー。ラウンド数は20かー」

「へ?」


「持ち点が501点で、一人1ラウンド三投で交代。点数をぴったり0に減らせた順から勝ちのルールだよ。中心に二重丸あるでしょ? 今回のルールではあそこの内も外もブルは50点」


 なんかややこしいな……単純に最終的な点数を競うほうが純粋に楽しめる気がするんだけど。


「周りの数字の列はその点数なのよね?」

「そうそう。ただし、内側の赤と緑に交互に変色している内側の線の中はトリプルで3倍、外側の線はダブルで2倍の得点になるよ」


 瑠璃の疑問にありすは答えた。


 今回のルールでは上がりに指定はないため、0にする際に何処を狙っても0点ジャストに減らせればフィニッシュになるという。

 越えたらバーストとなり、そのラウンドはなかったことにされて次の番の人のラウンドへ飛ばされるらしい。


 投げ方もわからないのに……。


 順番は瑠璃→ありす→瑠衣→僕と決まった。


 ルールを訊いた限り、先行有利な気がしてならないのに……最後か。


 まずは瑠璃がダーツの矢を三回投げる。

 肘を曲げてひょいっと投げるが、当たったのは20点、5点のトリプル、1点で合計36点。画面の表示が501から465点に減少した。


 終わると、瑠璃自身がダーツの矢を回収しに行く。


 次はありすがダーツの矢を投げたーーいや投擲した、と表現したほうが正しい。


 周りで遊んでいる人たちを見ても、瑠璃の投げ方に似た感じでダーツを投げているのに、ありすは手を背面の上辺りまで引き、勢いよく投擲したのだ。


 野球じゃないんだから……。


 ダーツの盤面に当たるとドスッとした音が耳に届く。

 しかし、しっかり狙っているのか中心(ブル)に命中していた。

 二度目もブルに命中。最後は20のトリプルに当たり、合計160点。画面に映るありすの得点が501から341点まで一気に減る。


「え? なんなの? ありす経験者?」

「ん? やったことはあるけど、そこまで経験者ってほどはやったことはないよー?」


 だから、あんな突飛な投擲をしたのか。

 武器を投げているかのような勢いがあった。


 と、次の番の瑠衣まで、ありすの真似して勢いよく投擲し出した。

 矢が真っ直ぐ的に当たらず、落下してしまう。


「瑠衣、周りを見なさいよ。普通に投げたほうがいいわよ?」

「うう……わかった」


 瑠衣は素直に応じて、瑠璃や隣の大学生三人組が投げているのを参考にして的に投げた。

 結果、20点とブル。70点となり、瑠衣の点数は431点になる。


 瑠衣が回収したあとダーツを渡され、最後に僕も投げる。

 ブル、ブル、ブルと狭い円の中に三つの矢がすべて収まった。


 ……なにこれ?

 奇跡?

 ーー点数は351点まで減った。


「杉井やるじゃん。杉井こそ知らないフリしてやったことあるんじゃないのー?」

「いや、本当に初めてだって」


 これがビギナーズラックなのか……。

 僕がダーツの矢を自分で回収して戻ると、次の番、瑠璃が投げ始めた。


「瑠衣、このあと別れてからなんだけど」


 ありすは待機している瑠衣の肩に、軽いちからで手を乗せる。


「ん?」

「このあと、瑠衣は豊花に戦闘指南するじゃん?」

「ん? そうだけ、ど?」


 瑠衣は首を傾げる。

 隣で気になり、僕も耳を傾けた。


「瑠衣の家にお邪魔してからはさー、瑠衣には“瑠衣が異能力(刃物極限鋭利化)を使うのを前提とした”戦いかたをちょいちょい指南してあげてるよね?」

「うん」

「杉井には、その教え方じゃ合っていないよー。ダメだからね?」


「ほら、次。あんたの番よ?」


 瑠璃はいつの間にか投げ終えたのか、みんなの元まで近寄る。

 ありすは「はいはい」と返事をすると、再び勢いよくダーツを投げ始める。

 一投目でブルど真ん中に命中。慣れているに違いない。


 よくもまあ、あんな“投げる”というより“投擲”と称したほうが正しい投げかたで的を巧く狙えるな。

 少なくとも、周りを見てもあんな投擲しているひとはいない。


 ありすが投げ終えると、次は瑠衣が投げに行く。


「瑠衣のお姉さん。私がここにいるのは、なにも瑠衣と遊びたいからーーってわけじゃないからね?」

「え? なんなのよ?」


 ありすは、瑠衣に貰ったヘアピンをやさしく撫でるように触る。


「今の警戒レベルは5だよ? いくら異能力者保護団体と無関係だからって、瑠衣はお姉さんのーー第2級異能力特殊捜査官の妹だよ? 護衛としても付き添ってるに決まってるでしょー?」


 瑠璃は眉をピクリと動かすが、目線は変えない。


「ーーッ。別に忘れているわけないわよ、わかる? さっきだって、それに関して話していたじゃない」


「このあと、私と瑠衣たちは別れるよね? 瑠衣は杉井に戦闘指南を受けさせるつもりなんだけど……無駄に広いバルコニーがあるんだし、そこを提供させてあげられない?」

「はいはい戦闘指南ね……戦闘指南……」


 瑠璃はいまいち納得していないのか、言われた内容を噛み砕くのに時間がかかっていた。


「次、豊花」

「ああ、うん」


 瑠衣に言われて、的から離れたダーツの前へ立つ。

 再びブルに命中したけど、二回目、三回目は少ない得点へ逸れてしまった。

 やっぱりビギナーズラックだったらしい。


ーー“感覚”の異能力を用いるのはどうだ? 少なくとも、多少は命中精度が上がりそうだが……。ーー


 遊びに異能力を使うのは、例え自身にしか作用しないちからだとしても、フェアじゃなさ過ぎない?

 それこそ、“少なくとも”僕には抵抗感が身に染みそうな気しかしないんだけど……。


 僕の次は瑠璃だ。

 代わりばんこに僕とすれ違い、ダーツの矢を握り的の前に立つ。


 ありすは再び、瑠衣に顔を向けた。


 みんな、揃いも揃ってダーツ自体に集中していない気がするんだけど……。

 これなら、試しに『感覚』と唱えても文句は言われないかもしれない。


 妄想していたボーリングやダーツーー少なくともダーツは、陽の陽のポジティブ陽キャや、逆に不良たちのたまり場などではなく、薄暗いものの、それが何処となく陰の者にも居心地が悪くなかった。


「いま私が教えていることは瑠衣専用で、杉井には適していない戦いかたなのは、わかってくれたかな?」

「ん。なんとなく、わかった。ありすが、初対面のときに、教えてくれた内容から、今は、だいぶ変わった」


 瑠衣は頷き肯定を示す。


 ありすはどうやら、瑠衣にはあのーー刃物の切れ味を骨を容易に貫通するほど、極限まで刃物を鋭利にするーー異能力を活用するのを前提とした戦いかたを、いまの瑠衣には教えているらしい。


「相手のナイフを弾く要領で切断して、瞬時に、稲妻のように、逆側から刃物を失った相手の手を切り落とし、脅威をアピールして脅すーーこんな戦いかた、杉井の異能力じゃ不可能なんだよ。わかるよね、瑠衣」


「へ? ナイフを切断して……相手の手をーー切り落とす!?」


 思わず大きい声が出てしまう。


 つまり、要するに、言い換えれば、簡潔に言うと、平たく言えばーー相手の手首を切断するのを前提とした指南を、瑠衣はありすから受けているってこと!?

 

「杉井、驚きすぎ。厄介なお姉さんの耳まで届くでしょー?」

「あ、いや、その……ごめん」


 しどろもどろに返答する。

 投げる位置はあまり離れていない。普通に会話していても、ダーツに集中していなければ瑠璃の耳まで届いてしまうだろう。


 瑠璃は怒り心頭な様子でダーツの矢を回収したあと、帰ってくる。


「ちょっと、聞き捨てならない言葉が聴こえたんだけど? あんた、瑠衣になにをさせてるのよ? 危ないことに巻き込むような真似はやめてよね、わかってるの?」


「あちゃー。ほら、こうなった」


 ありすは嘆息しながら、「私の番だね」とそそくさダーツの矢を持ち足早に的の前に急いだ。


「大丈夫。ありすは、常に、言ってる。身の危険、確実に死が待つ、とわかる、時以外の、対処の仕方も、教えて、くれてる。もしも、私が一人のとき、命が危険に、曝されたら、パターン毎に、対処法を、丁寧に、指南してくれる」

「……」


 瑠璃の性格的に、直ぐに反論あるいは反対するかに思えたが、なにか思うところがあるのか、暫く口を噤むと、沈黙に徹した。


 目尻を掻いて嘆息すると、瑠璃は「わかったわよ」と追及しなかった。

 珍しい……あんなにも、瑠衣からありすを離したがっているのに。


「豊花? 言いたいことがあるみたいだから、この際言っておくけど……私は豊花にも瑠衣にも危険な目には遭ってほしくないーーこの感情に変化はないのよ、わかる?」

「え、ああ、うん」


 そこに変化はないのか……。


「でも、考えを改めたのよ。私が誘拐された日と、豊花が愛のある我が家に与した日からーー」


 ありすは投げーーいや投擲を終えたのか、瑠衣に近寄り順番を知らせる。

 瑠衣は頷き、この場から少し離れるようにダーツの的を狙い始める。


「私の妹だからーーなんて理由で、瑠衣が害されてほしくない。愛のある我が家に加入した豊花なんて、常に危険に曝される。そのうえ、第4級異能力特殊捜査官に昇進したんでしょ? 尚更命の危機に瀕する可能性は上がるじゃない」


 だからーーと瑠璃は言葉を繋げた。


「如何に気にくわないヤツでも、瑠衣や豊花の自衛のちからを手助けしてくれるならーーって考えを改めたのよ。私のちからじゃーー悲しいけど、二人を守りきれない……それが残酷な事実だと自覚したの」


「瑠衣のお姉さんにしては、いつもみたいに固い頭じゃないじゃん。珍しいねー?」

「うっさいわね」


 ありすはおちょくるように言うが、瑠璃は反論しなかった。

 瑠衣が戻ってくるのを見て、僕が的の前へ移る。


「ーー感覚」


 唱えた瞬間、自身にとって最適なダーツの矢のつまみ方を理解し、なんとなくで最適な投げる勢いを理解した。

 一投目は20点マスだったが、二投目、三投目は狙った場所ーー中心、ブルに命中した。


 異能力の効果は間違いなくあったーー。


 異能力と呼べるかわからない能力ーー無詠唱で扱う“直感”を除き、初めて精神干渉系の異能力のちからを自覚できたのだ。

 口で『直感』と唱えるちからよりも、感覚(こぢち)のちからのほうが、まだ、わかりやすい……そう感じられた。


 僕が皆の元へ身を翻すと、瑠璃が代わりに的の前に歩いてくる。


「ーーだからこそ、瑠衣? 杉井には、瑠衣と会ったときに叩き込んだナイフ戦、地形の利用を叩き込むようにねー。あと、慣れたら杉井なりの戦いかたーー直感や感覚の異能力をフルに活用した戦いかたを指南するように」

「らじゃー」


 ありすは瑠衣に説明を終えたのか、瑠衣はわざとらしく敬礼して返答するのであった。




 ダーツの結果は最終的に、一位がありす。二位が僕。

 三位が瑠衣で、まさかの四位(ドベ)が瑠璃という結果で収まった……。

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